目指すのは「コミュニティ」という概念の拡大

「お客さんを選ぶのは、価値観の整理整頓をしたいから」居酒屋ガツン!のコミュニティづくり

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東武伊勢崎線沿線、五反野駅。ここからさらに10分ほど歩くと見えてくるのが、真っ赤な看板が目印の「居酒屋ガツン!」というお店。
300円払ってお酒が持ち込める“持ち込み放題”や持ち込み放題であまったお酒を好きなだけ飲める“おすそ分け”など、ユニークな取り組みがTwitterを中心に話題となっている同店。

気になった編集部は、店長の寺本昌司さんに取材を打診。ガツン!に人が集まる秘訣は、そのユニークなシステムだけではありませんでした。

〈聞き手:宮内麻希(新R25編集部)〉
寺本さん

寺本さん

今日はよろしくお願いします~。なにか飲まれます?
※本当はビールを注文したいところでしたが、取材なのでこらえました
【寺本昌司(てらもと・しょうじ)】1985年6月1日生まれ。 熊本県出身。高校中退後、 Magic the gatheringのプロツアーに出場、 その後、広告代理店に3年ほど勤務し、上京。 上京後は、様々な飲食店で店長職などを経験。 27歳で独立し、焼鳥屋を開業。 4年ほど営業し、居酒屋ガツン!に業態変更

ガツン!に人が集まる理由は 「気持ちよく過ごせるコミュニティ」

宮内

宮内

取材前に、ガツン!さんのTwitterを拝見していて気になったことがあるんです。

アップされている店内の様子が、私たちの想像する“居酒屋”とはちょっと違いますよね
出典

提供画像

店内では、お客さん同士でカードゲームがはじまることも
寺本さん

寺本さん

ちなみに、この人たちほぼ初対面だったんですよ(笑)。
宮内

宮内

でも、なんだかコミュニケーションをとりたくなる不思議な雰囲気がありますよね。
寺本さん

寺本さん

打ち解けるスピードがはやいのは、来店前にネットやSNSの情報でガツン!のことをある程度分かってきているという“共通の前提”があるからだと思います。

あとは、事前に僕とSNS上でコミュニケーションをとってくださっていれば、初めてでもどんな人かがわかるので、既存のお客さんに繋ぎやすいというのもあるかもしれませんね。
宮内

宮内

お〜! それなら、初めてでも安心です。
寺本さん

寺本さん

僕は、コミュニティ=人間関係だと捉えていて、コミュニティがカタチになっていく過程で必要なのは「コミュニケーションの量」だと思っています。

なので、「ガツン!はこうです!」という価値観をしっかり打ち出して、見た人はそこに共感してからお店に来る流れをつくれば、事前に価値観を共有できますよね?

そうすると、自然と活発なコミュニケーションが生まれ、気持ちよく過ごせるコミュニティが形成されるんです。
寺本さん

寺本さん

ガツン!を始める前に、焼き鳥屋をやっていたんですけど、その時も気がついたら初対面のお客さん同士が仲良くなって、次は一緒に来店してくれたりしていて。

コミュニケーションから生まれるコミュニティの力を実際に感じて、これは面白いなと思うようになったんですよ。

そこから、「ガツン!は居酒屋ではなく、社交場である」と方向性を決めました。

SNSにログインする感覚で行ける“居酒屋”の気軽さ

宮内

宮内

コミュニティという文脈だと、最近はオンラインサロンやコワーキングスペースも話題になっていますが、それでも居酒屋を選択されたのはなぜですか?
寺本さん

寺本さん

サロンやコワーキングスペースだとどうしても“目的”が必要になっちゃいますよね。

「発言しなきゃ!」とか「仕事しないと」とか。でも、居酒屋に行く目的ってそこまで強くないんですよ。
宮内

宮内

わかります…。仕事がうまくいかなかった日の、ヤケ酒したい衝動とか…
寺本さん

寺本さん

「いつ行ってもいいんだ」って思える、気軽さが大切ですよね。あとは、やっぱり僕自身がオフラインのコミュニケーションにものすごい価値を感じていているんです。

人って、結局バーチャルだけじゃ満足できないんですよ。face to faceだからこそ、濃いコミュニケーションの量が増えますし。

ウチのおすそ分けシステムも、お酒を取りに行く時に、誰かがいれば話がはずんだりして。そういう風にコミュニケーションの量を増やす狙いがあります。

良いコミュニティを作るには、「価値観の整理整頓」が必要

宮内

宮内

気持ちよく過ごしてもらえるコミュニティ”を維持していく秘訣についてもお伺いしたいです。
寺本さん

寺本さん

良質なコミュニティを形成する上で重要なのは高い人間性、お客さんの質です。

先ほども伝えた通り、僕はコミュニティ=人間関係だと捉えているので。
宮内

宮内

なぜガツン!は、良質な人間関係を構築できているんでしょうか?
寺本さん

寺本さん

それは、合う人と合わない人をハッキリさせて、価値観の整理整頓を意識的に行っているからだと思います
寺本さん

寺本さん

人ってやっぱり理屈じゃない部分での相性ってあると思うんですよね。相性って何で決まるかっていうと、その人が持っている「価値観」だと思うんですよ。

価値観の合わない人と分かり合うことのコストは非常に高い、もしくは不可能に近いと思っているので、距離を取った方がいいと考えています。 それが「整理整頓」という言葉のチョイスに繋がっています。
宮内

宮内

なるほど! たしかに、無理に合わせるのって精神がすり減っちゃいますね。
寺本さん

寺本さん

あとは、ガツン!の考える“お客さん”の定義が特殊なのかもしれません。

一般的にはお客さんって「お金を払って、サービスを受ける人」 ですよね?
宮内

宮内

はい、違うんですか!?
寺本さん

寺本さん

ガツン!にとってのお客さんとは「価値観を共有できる人」を指します。

だから、合わないと判断したらお断りすることもあるんですよ。
宮内

宮内

あ、店内にも貼ってありますね! 最初見つけたとき、結構衝撃を受けました(笑)。
寺本さん

寺本さん

同じ価値観を共有できるコミュニティには、一体感が生まれるんですよ。一体感がないと、コミュニティ自体がつまんなくなっちゃう。

つまらなくなってしまえば、ガツン!の付加価値はなくなってしまいますからね。
宮内

宮内

そういえば、noteで注意書きを見つけて、本当に徹底されてるんだなと感じました。
寺本さん

寺本さん

ご来店時のトラブルをなるべく防ぎたいんです。こちらから情報をしっかり出しておけば、合わない人は来ないでしょうし、合う人は分かってから来てくれるので、楽しい空間が担保しやすいんです。

まぁ、そもそもネットやTwitterを見ない、調べない、理解しない、という人だと意味がないんですけどね(笑)。

既存の飲食店の常識を覆す、収益モデルのイノベーション

持ち込み放題で持ち込まれたお酒たち。日に日に増えているとのこと
宮内

宮内

ガツン!にはユニークなシステムがいくつもありますが。
【ドリンク持ち込み放題】
1人300円でお酒、ソフトドリンク、割材が持ち込める。(氷、水、炭酸水は無料で提供。)※持ち込み放題を利用した人は余ったお酒をお店に置いていける。

【おすそ分け】
1人300円で持ち込み放題で余ったお酒を自由に飲むことができる。(氷、水、炭酸水は無料で提供。)※持ち込み放題を利用した人はおすそ分け無料

※最近では、500円でフードの持ち込みも可能で、 集まったメンバーで、ホットプレートを使った焼肉パーティがいきなり始まったりもするらしい。
宮内

宮内

これによって、金銭面のハードルが一気に下がるとおもうんです。

そうなるといろんな人が来て、価値観の合わない人も来てしまうんじゃないですか?
寺本さん

寺本さん

たくさんの価値観が集まるのは楽しいことですよ。最近、企業でもしきりにダイバーシティって言われてますよね? 僕はあれ自体は悪いものだと思っていないんです。

僕が実現したい価値観の整理整頓とは、雑多な価値を否定するのではなく、 “こういう考えはダメだよね”とか、“こういう行動はダメ”という風に、ガツン!の価値観と合わない場合だけ、お断りするということです。
宮内

宮内

でも、飲食店でそれを徹底するとお客さんが減っちゃうんじゃないかと気になりませんか?
寺本さん

寺本さん

おっしゃる通りです。普通の飲食店であれば、普通の飲食店って、100万売るのに、コストを90万とか掛けるんですよ。 でも、全て持ち込みだったら原価はゼロ。だから、利益率が高く、合わない人はお断りできるんですよ。

あとは、お客さんがおすそ分けしてくれたお酒も、現金ではないですが、将来的に現金に変わるリソースです。 コミュニケーション、お酒、リアルで会う時間、など現金以外のプロフィットを稼ぐことを意識してます。

そうすると、心地よいコミュニティそのものに価値を感じてくれた人が、ガツン!をSNSで紹介してくれたり、人を連れて来てくれるんです。
宮内

宮内

失うものより得るもののほうが大きいと。
寺本さん

寺本さん

なにを目的で来てくれるかは、究極のところお客さんにしかわからないです。

ただ、自分の好き・嫌いをクリアにしてお店という場をつくったら、そこに賛同してくれる人が集まったんですよね。
出典

提供画像

それぞれが席を移動しつつコミュニケーションが生まれる店内

目指すのは「コミュニティ」という概念の拡大

寺本さん

寺本さん

コミュニティを「価値観を共有した人間関係」と定義すると、それってお店の中だけではないなと考えています。

たとえば、「持ち込み放題とおすそ分けのシステムはどんどんマネして下さい!」といつも言っていて、オンラインサロンでは、そのシステムやガツン!自体に興味がある人たちとアドバイスから雑談まで、いろんなやり取りをしています。

お店とお客さんのコミュニティ、お店とお店のコミュニティ、というように価値観の共有を拡大させていきたいんですよ。
宮内

宮内

(考えていることがもはや居酒屋ではない)
寺本さん

寺本さん

あとは、同じ価値観を持った、違う業界の方とも何か仕掛けていけたら面白そうだなと考えています。

直近では、リバ邸の片倉くんと組んで、シェアハウスを運営しようと計画中です。
宮内

宮内

でも、なぜそこまで価値観の共有を拡大させていきたいんでしょう?
寺本さん

寺本さん

新しい形態の組織のようなものをつくりたいからです。価値観で繋がった連合軍というイメージが近いかもしれません。

今ある最大級のコミュニティって、“国”だと思っていて

みんなの言っている“コミュニティ”が、将来的には国的なものに変化していくと思うんです。その時に、必要なのは国境ではなくて、価値観における線引きなんじゃないかなって。
寺本さん

寺本さん

なので、持ち込み放題とおすそ分けのガツン!システムを導入してくれたり、価値観に共感してくれた人に、「アバヨ!F●●K YOU!!」のステッカーをつくって渡したら面白いかなと思っていて(笑)。
宮内

宮内

「アバヨ!」って書いてある飲食店だらけになってしまうかも(笑)。
寺本さん

寺本さん

お店の価値観を主張して、お客さんはそれに共感してくれる人だけでいい。すごくシンプルなんですけど、これからの時代にマッチしていると思うんですよ。

価値観が多様化している時代だからこそ、合う人たちだけを選んでいく、合わない人はお断りする、という「価値観の整理整頓」が大事だと思っています。 

合う人しかいないと知っていれば安心できますよね。逆に、合わない人と一緒にいると疲れちゃいますから(笑)。
最後に「数ヶ月以内には、ガツン!を紹介制にして、コミュニティの質をより高めていきたい」と教えてくれた寺本さん。

むやみに多くの人に来てもらうよりも、たとえ少人数であっても、その場にいる人たちの満足度が高い方がいい。そんな想いを貫いているガツン!の空気感は、なかなか文章じゃ表現しづらい…ので、気になった方はぜひ一度足を運んでみてください!

〈取材・文=宮内麻希(@haribo1126)/撮影=森カズシゲ〉