趣味のように仕事にも没頭したい!

仕事は“キリのいいところ”で切らないほうが没頭できる!?「没頭の原理」を医者が伝授!

仕事
趣味にはすぐ没頭できるのに、仕事にはなかなか没頭できない。これが逆だったら、仕事が捗って楽なのになぁ…と思うことありませんか? 

脳の構造を理解して、意図的に物事に没頭することはできないのでしょうか。行動療法家で精神科医の原井宏明先生に相談してきました。
【原井宏明(はらい・ひろあき)】岐阜大学医学部卒業後、ミシガン大学文学部に留学。なごやメンタルクリニックの院長を経て、(株)原井コンサルティング&トレーニングを設立した。2019年1月には原井クリニック(仮称)も開業予定

趣味には没頭できるのは、やりたくなるような報酬を得ているから

ライター・森

ライター・森

先生、趣味にはすんなり没頭できるのに、仕事になかなか没頭できないのはなぜなのでしょう?
原井先生

原井先生

それは、仕事という行動が「強化」されていないからですね。
ライター・森

ライター・森

強化…ですか?
原井先生

原井先生

ここでいう「強化」は、体が特定の行動をもっとたくさんするように仕向けることをいいます。

仕事は「そこまでたくさんやりたくないこと」で、趣味は「お金を払ってでもやりたいこと」ですよね。つまり、趣味はそれぐらい行動が「強化」されているんです。
ライター・森

ライター・森

趣味は自然とやりたくなるようになっているわけですね。

その「強化」というのは、どうやったら起きるんですか?
原井先生

原井先生

端的にいうと、「強化子」と呼ばれる報酬があれば強化されていきます

たとえば、お腹が空いたときご飯を食べることや注目されるなど、赤ちゃんでも感じられる本能的な「一次性強化子」、ポイントを得るとかSNSで“いいね”をもらうなど後天的な学習によって生じる「二次性強化子」がありますね。
ライター・森

ライター・森

なるほど。行動の結果、そういった強化子が得られると、だんだん没頭していくんですね。
原井先生

原井先生

そうです。ただし、得られるタイミングも重要

いま熱心に会話できているのも、「質問する」という行動に対して、「返事」という報酬が適切なタイミングで返ってくるからです。

どういうことか説明するために、実験をしましょう。私に話しかけてみてください。
ライター・森

ライター・森

話しかける…?

じゃあ、今の話ですが没頭に至るま…
原井先生

原井先生

そうだね。そういうときは、まずは自分にとっての強化子を探しましょう。
ライター・森

ライター・森

強化子を得たときに、頭のなかでは…
原井先生

原井先生

強化子を得ると、また同じ行動で強化子を得ようとして、どんどん没頭していくわけです。
ライター・森

ライター・森

(話づら…)
原井先生

原井先生

私はいま、5秒ごとに返事をしていました。答えている内容がまともでも、適切なタイミングで返事がこないと発言する意欲が薄れますよね。

これは会話だけではなく、仕事でも同じこと。営業の目標を達成しても、1年後に称賛の反応が届くようだったら、いくら褒められていてもそれは強化子として働きません。

“ごほうび”を利用して仕事に没頭できる「プレマックの原理」

ライター・森

ライター・森

没頭するためには強化子が得られればいい、ということはわかりました。

では、具体的にどんなことをしたらいいんですか?
原井先生

原井先生

過去に没頭していた環境を再現するのがいいでしょう。

森さんが仕事に没頭できていた瞬間は、どんな環境でしたか?
ライター・森

ライター・森

えーっと、クーラーのよく効いた自分の部屋で、音楽はかけずパソコンで仕事をしていたときは没頭していたと思います。
原井先生

原井先生

その経験のなかに自分にとっての強化子が潜んでいるはずなので、環境を言語化して洗い出すことが大切です。

まったく同じような環境を再現すれば、仕事に没頭しやすくなりますよ。
ライター・森

ライター・森

ということは、家でしか没頭した経験のない人は、オフィスでは没頭できないのでしょうか?
原井先生

原井先生

そんなことはありません。その場合は「プレマックの原理」を使うといいでしょう。
ライター・森

ライター・森

プレマックの原理…?
原井先生

原井先生

これはイヤなことの後に好きなことをする流れを繰り返すと、イヤなことがだんだん強化されて、やりたくなるという原理です。

たとえばゲームが好きなら、仕事の後にごほうびとしてゲームをやるようにすれば、仕事にも没頭しやすくなります。
ライター・森

ライター・森

趣味が強化子として使えるんですね。

ちなみに、「プレマックの原理」でのごほうびは毎回得られないと没頭できないのですか?
原井先生

原井先生

いえ、むしろたまに得られるほうが効果的です。
ライター・森

ライター・森

え、そうなんですか?
原井先生

原井先生

たまに強化子が得られると、その行動にハマりやすくなるんです。

たとえば、ギャンブルはまさにこの効果が働いていますよね。

初めのうちにたまたま勝ちが続いても、素人なら勝率が下がります。でも「次こそは!」と取り組んでいると、たまに勝てるからどんどんやめられなくなっていく。
ライター・森

ライター・森

なるほど。最初は高い頻度で強化子を得られるようにして、だんだん減らしていくのがいいんですね。
原井先生

原井先生

そう。たとえば没頭したい作業をしながら、初期は5分おきに好きなお菓子をつまみます。

徐々にその間隔を伸ばしていけば、食べなくても作業に没頭できるようになるはずです。
ライター・森

ライター・森

なるほど! それならすぐ実践できそうです。
原井先生

原井先生

これを恋愛で活用している人もいるでしょうね。

相手から連絡がきたら、はじめのうちはこまめに返事をするんです。やがて2回に1回、3回に1回と、ある程度のところまで頻度を下げていくと、どんどん自分に没頭してもらえるはずです(笑)。
先生から恋愛の話が
ライター・森

ライター・森

あー、そういえば、モテる友だちがそういうことをやってました(笑)。

決まった時間で作業を中断すると「もっとやりたい!」となる「ポモドーロテクニック」

原井先生

原井先生

また、没頭を経験した行動であれば、すぐ没頭状態に入る方法もありますよ。
ライター・森

ライター・森

ぜひ教えてください!
原井先生

原井先生

没頭している途中で、作業を止める。これだけ。
ライター・森

ライター・森

おお、これまたカンタンですね。それはどういう仕組みなんですか?
原井先生

原井先生

没頭している最中に止めると、強化子を求めて「早く続きをやりたい!」という気分になるので、次回も没頭状態に入りやすくなるんです。
ライター・森

ライター・森

週刊誌に連載中のマンガを読んでいると、まさにそんな気分になりますね。
原井先生

原井先生

25分ごとに5分の休憩をはさむ「ポモドーロテクニック」も同じ心理を利用しています。

作業工程に応じた“キリのいいところ”ではなく、特定の時間で機械的に作業を区切ることで「もっとやりたい」という気持ちを生み出し、それを効果的に使っているんです。

没頭しすぎると悪影響も。過度な没頭を防ぐために対処法も知っておこう

原井先生

原井先生

ここまで没頭する方法を紹介してきましたが、没頭のしすぎには注意しましょう。
ライター・森

ライター・森

…何かデメリットがあるのでしょうか。
原井先生

原井先生

私は医者として、皮膚をむしることが止められなかったり、ずっと手を洗いつづけたり、まさに没頭しすぎてしまっている人を診ています。

彼らのようにあまりに深く没頭すると、生活に支障が出てしまうんです。
ライター・森

ライター・森

仕事に没頭しすぎて、健康管理がおろそかになる人もいますもんね。
原井先生

原井先生

実は昔から没頭は病気と隣り合わせでした。

何かに没頭している人のことを「○○マニア」と言いますよね? これはもともと「ニンフォマニア(色情症)」「クレプトマニア(窃盗症)」のように、病名につけるもの。

つまり過度な没頭は、病気として見られていたんです。皆さんにも気をつけてほしいですね。
原井先生

原井先生

ただ、やはり没頭にはたくさんのメリットがあると思います。

若いうちは将来自分がどうなりたいのかわからず、悩むことも多いでしょう。そんなときは今回紹介した方法でいろんなものに没頭することで、答えが見つかるかもしれません

それに、没頭できるものがたくさんあれば楽しみのバリエーションも豊富になる。人生がもっと楽しくなるはずですよ。
取材前は「好きなものでなければ没頭できない」ものだと思っていましたが、先生によると、意図的に没頭状態をつくることもできるみたい。

今回もまた“仕事力”アップのヒントがもらえました!
Amazon.co.jp: 没頭力 「なんかつまらない」を解決する技術

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〈取材・文=森かおる(@orca_tweet1)/取材・編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)/撮影=いしかわゆき(@milkprincess17)〉