起業してからの4年を今振り返る

雇われてはじめて「私はおごっていた」と気付いた。18歳で起業したハヤカワ五味の“反省”

仕事
R25世代がまだ大学生だったころから、Twitterで「ハヤカワ五味」という特徴的な名前を見かけていた人も多いのではないでしょうか。

1995年生まれ、現在23歳のハヤカワさんは、18歳のときに課題解決型アパレルブランドを運営する株式会社ウツワを立ち上げ、「女子大生経営者」として注目されました。

彼女の代名詞となっているのが、小さい胸を「シンデレラバスト」と呼ぶ、華奢な女性向けのランジェリーブランド「feast」。
【ハヤカワ五味】胸が小さい人向けのランジェリーブランド「feast」「feastsecret」、細身向けワンピースブランド「Double Chaca」を中心としたアパレルブランドを展開する株式会社ウツワを2015年(当時18歳)で設立。経営者でありながら、インフルエンサーとしてTwitter、YouTube、noteなどでも発信をしている
23歳にして経営者歴5年目という特異な経歴を持つ彼女は、容姿端麗で隙がなく、「何でもスマートにこなせる賢くて強い女性」と見られることがほとんどです。

でも、本当にそうでしょうか? 経営の勉強をしていたわけでもなく、18歳で起業に踏み切ったのだから、傷だらけになりながら成長をしてきたはず

生身のハヤカワさんが歩んできた、これまでの4年間を知りたくて、インタビューをしてきました。

〈聞き手=ライター・ほしゆき〉
ほし

ほし

早速ですが、ハヤカワさんは何歳からビジネスに興味を持っていたのですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

ビジネスは、高校生のころから始めていました。

自分でデザインをしたアイテムを販売して、お金を稼いでいたんです。

最初はタイツだったんですけど、高2のときに作った「キリトリ線ストッキング」がヒットして、だんだんファンになってくれる方が増えて。
実際に使用していた着画画像
ハヤカワさん

ハヤカワさん

大学に入ってすぐのころかな、twitterで「胸が小さい人向けのブラがない」とつぶやいたら思いのほか反響があって。

試しに華奢な人用のランジェリーを手作りして写真をTwitterにアップしてみたら、問い合わせが殺到したんです。

それが「feast」の始まりでした。
ほし

ほし

もともと、「feast」を軸に起業したいとは考えていたんですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

いえ、起業したいとは全然思っていませんでした。起業する気なかったんですよ、実は。

でも、必要としてくださる方がどんどん増えて、売り上げ額も大きくなり、さすがに個人では厳しい状況になって…

法人化すれば取引相手にも信頼してもらえるし、もっと効率化できるとまわりに勧められて、起業することになりました。
ほし

ほし

なるほど、“法人化しないと自力では注文を受けきれない”という状況だったんですね。

右も左も分からないまま起業して、初っ端から窮地に追い込まれた

ほし

ほし

起業したあと、事業は順調でした?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

いいえ! まったく!!!
(キッパリ)
ハヤカワさん

ハヤカワさん

まずTwitterで、下着を販売するとお知らせしたのですが、当初の販売予定数は50着だけだったんです。

でも「なぜこんなに数が少ないのか」「早く売ってください」という声が多くて。

どうにか作って売らなきゃ!って焦りもあり、500着の注文を受けてしまったんです…
ほし

ほし

そんなに!?

500着って、予定の10倍以上も生産できるアテは…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

ありません。

そもそも18歳で学生の私を、相手にしてくれる工場がなかったんですよね。「ネット販売」を理解してもらうのも難しかったですし。

でも作るしかないので、「どなたか工場を紹介してくれませんか?」ってTwitterで呼びかけたら、その騒ぎを見ていたレース会社の方がつなげてくださって、なんとか工場を見つけることができました。
よかった…これで生産できる…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

でも…
ほし

ほし

え、でも?(怯)
ハヤカワさん

ハヤカワさん

工場長から「せめて150万円の前金を払ってくれ」って言われてしまって。

その時もっていた資金は50万円くらいだったんですよね。
ほし

ほし

うわぁぁ…

そっか、500着分のお金が入る目処はあるものの、売上金が入るのはまだ先ですもんね。

足りない100万円はどうしたんですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

まず親に土下座して貸してもらいました。

借金しそうって話をして、「一体何をしているんだ!」って大反対されてもう大変だったんですけど、「貸してくれないなら消費者金融に行くしかない」ってなかば脅した記憶があります(笑)。
ほし

ほし

(100万足りなくても、生産を諦める気はまったくなかったんだな。その強さがすごい)
ハヤカワさん

ハヤカワさん

その当時は、なんだかんだで起業クラスタの人たちが工面してくれたり、協力してくれたりして助かりましたね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

お客さんが待てるのは、注文から1カ月が限界だろうと思っていたので、急いで生産してもらって発送の準備をしました。

でも、これが本当に間違いで。1カ月程度で商品を届けることはできたものの、「糸がほつれている」「縫い目が雑」などのお叱りを受けてしまったんですよね。

今でも、すごく後悔しています。
ほし

ほし

焦るあまり、完成度が低くなってしまったんですね…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

商品に対する最初の印象って、すごく重要なんですよね。最初に不満を抱いたら、もうそのブランドで買い物しないじゃないですか

でも、売らなきゃ!って気持ちばかりで、顧客目線を失っていたんです

この一件で離れてしまったお客さんは多かったと思っていて…もしクオリティの高い商品を届けられていたら、今の売り上げ額も10〜20%くらい高かったと思いま

従業員が一気に消え、400万円の請求書が急に届いた事件

ハヤカワさん

ハヤカワさん

あと起業してすぐのころ起きた大きな事件は、3人しか社員がいなかったのに、2人一気に“飛んだ”ことですね
ほし

ほし

!?

え、飛んだって…引き継ぎとかなく、急に音信不通になって来なくなったってことですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

そうです。

もうやってられません」ってメッセージが来て。しかもそのうちの1人は請求書を持ち逃げし、もう1人は中国との生産のやり取りを途中放棄してしまって…

急に納期遅れの製品が納品されて、「400万振り込んでくれ!」って中国から怒りの電話が来るっていう。
ほし

ほし

3人しかいない会社で壮絶すぎる事件…

その2人とは、普段どんなコミュニケーションをとっていたんですか?
うーん…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

何度か話す機会はつくっていて、一人ひとりと向き合うようにはしていたんですけど、彼女たちの中ではもうすでに、“実体のないハヤカワ五味”ができあがってしまっていて。
ほし

ほし

実体のない、とは?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

経営者はどうせ人を搾取しようとする」って言われたことがあるんですけど、もうその人の中では、経営者=搾取する人って決めつけられてしまっていたんですよね。

「経営者はこうだ」「女子大生なんてどうせ」っていうバイアスをかけられて、実際に言ってないことを「言っている」と叩かれたり、思ってないことを「こう思ってる」と言われてしまったり。

それは結構、つらかったですね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

人と一緒に働くのって、難しいことだなと痛感しました。

立ち上げ当初で右も左もわからないときに「アパレル業界のことわかってないと大変だから助けてあげる」って入ってくださったキャリアのある方々だったので、私としては信頼していたんですよ。

私にも反省点はあるけれど、丸裸の人を、全力で刺しに来る人っているんですね。

試しに一度雇われてみたら、自分の未熟さに打ちひしがれた

ほし

ほし

相当ショックだったと思うのですが…この事件を経て、ご自身のなかに変化は生まれましたか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

雇われてみたい」と思いました。

私、高校生のころから自分のデザインでお金を稼いでいたし、大学で起業してしまったので、人に雇われるという経験がなかったんです。
ほし

ほし

なるほど。雇われる人の気持ちがわからないというのは、経営者として危険なことでもありますもんね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

そう思っていたタイミングで、ずっと経営のアドバイスをいただいていた師匠から「うちでちょっとインターンしない?」って声がかかって。

二つ返事で飛び込んでみたんですけど…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

雇われてみたら、自分でもびっくりするくらい動けなかったんですよね
ほし

ほし

そうなんですか? どんな環境でもバリバリ結果残してそうですが…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

全然でした。

広告会社で企画を出す仕事だったんですけど、結果を残すどころか、ついこの間自分が部下に伝えた「できないことを認めるのはしんどいけど、おごってるうちは成長しないよ」ってことと同じ内容の指摘を受けたりして。自分だってできていなかったんですよね。

あぁ、私は経営者という立場でおごっていたんだなって思い知らされました。
ほし

ほし

自分が動けないって自覚した後は、どうしたんですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

とにかくこの与えられた場所で成果を残して、今までの自分と何らかの決着をつけるしかない。

私は雇われてみたことで、大きな目標設定がないと動けない人間だってことに気づいたので、まず上司に「目標設定をしてください」ってお願いしました。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

「自分が動けないのは目標設定をきちんとしてくれないから」って思っていたし、その愚痴をこぼしながら働いている人もいると思うんですけど、頼むことで解決するなら、頼んだほうがいいんだって気づきましたね。
ほし

ほし

一度雇われてみるという経験は、いろんな発見につながったんですね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

本当にそうです。自分にはまだまだ知らないことがたくさんあるし、未熟なんだって素直に受け止めて、向き合う時間になりました。

自分をアップデートして、「ラフォーレ原宿に出店する」という夢を叶えた

ほし

ほし

インターンを経てステップアップしたハヤカワさんは次に、ラフォーレ原宿に店舗を持つ、という夢を叶えていますよね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

ラフォーレへの出店は、経営者というより、「ハヤカワ五味の人生としてここで叶えるべき夢だ」と思ったから踏み切りました。

店舗を持つということが、ずっと応援してくださってたお客様への恩返しにもなると思っていて。その意味合いが強かったですね。
ほし

ほし

たしかに、ネットでしか買えなかったブランドのお店に実際いけるってことは、うれしいですよね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

でも経営者としては、店舗を持つには半年〜1年早かったなと思っています。
ほし

ほし

どうしてですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

お金とリソースの問題ですね。

店舗を出すにあたってたくさん在庫を作らなきゃいけないけど、売上の入金が1カ月以上先ってなると、2カ月くらいお金が出っ放しで入ってこない時期がどうしても出てしまうんですよ。

最初の3カ月くらいはもちろん赤字だったし、人手も足りないしで精神的にしんどかったです。お金はないけど在庫は必要だから作りつづけて…っていう。
「もちろん赤字」の状態だったんですね…
ハヤカワさん

ハヤカワさん

キャッシュフローの理解度と、危機感が足りなかったことは反省です。

ただ、「ラフォーレに出すならこの場所がいい!」ってずっと思っていた場所に出店できるタイミングだったので、後悔はまったくしてないです。

間違いなく夢が一つ叶った瞬間でしたね。

2019年は、事業を売却して経営から離れようと思っている

ほし

ほし

今までノンストップで新しいことに挑戦してきたハヤカワさんですが、今年はどんな挑戦をしようと思っているんですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

今は、事業の売却先を探しています
ほし

ほし

え、売るんですか!?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

社会から経営者という肩書きをもらって、この4年間「自分は経営が得意だ」と思い込まないとやってこれませんでした。

でもぶっちゃけ、細かいお金の流れを見るのも苦手ですし、経営自体はそんなに得意じゃないんですよ
ほし

ほし

…どうして4年目にして、「経営は得意じゃない」と言えるようになったんでしょうか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

自分より経営が得意な人たちとたくさん話せたからですかね。

私の場合、自分の目標を達成するためには、経営よりもお客さんとのコミュニケーションや、商品のプロデュースに専念したほうがいいと確信できました。
ほし

ほし

ハヤカワさんの目標、というのは?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

世の中の価値観・文化がより良い方向へ向かっていくための、一助になること

それを達成するための起業であったはずなのに、いつの間にか経営者という肩書きに固執して、「会社をうまく経営すること」が目標になってしまっていたんです。

いわゆる、目的と手段のすり替えみたいな話ですね。

それに気づけたので、経営からは身を引いて、自分の力を最大限に発揮できる立ち位置に身を投じようと思っています。
ほし

ほし

なるほど…

18歳で起業して、500件の注文抱えて、社員が飛んで、お話を聞いた限りでも相当大変な日々だった思うのですが、なぜそんなに頑張りつづけられるんですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

危機感があるからですね
ほし

ほし

危機感?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

私が動かないと、確実にバッドエンドに向かっていくな」って未来が見えたものに対して、立ち向かっているんです。

たとえば今、生理用品の開発に注力しているんですけど、時代が変わっても生理用品ってずっとアップデートされていないんですよ

生理の話をするのが恥ずかしいことだ」という価値観も変わっていない。そのカルチャーを変えたいと思って行動をしている人はすでにいるのですが、感情論が強いケースが多いと感じていて。

フラットな視点で、ロジカルに伝えられる人の発信が必要だと思ったんです。

それは私が今しなければいけないことだなって。
ほし

ほし

もしそういう人がすでに存在していれば、ハヤカワさん自身が開発に携わることはなかったんですか?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

なかったですね。

女性のビジネス系インフルエンサー」という立ち位置でいるのもそうです。
ほし

ほし

そういう存在がいないから?
ハヤカワさん

ハヤカワさん

いないわけではないのですが、私って本当に庶民の出なんですよね。特別なコネがあったわけでもないし、お金持ちだったわけでもない。

「それでも経営者になれた」って発信ができるのは、意味があることだと思っていて。

経営者の姿を見て「あぁやっぱり私には起業とか無理だ」って思ってほしくないからこそ、表に立ちつづけています。
ほし

ほし

なるほど…

そういう使命感もあって、今のスタイルができているんですね。
ハヤカワさん

ハヤカワさん

メディア露出していない若手の経営者はたくさんいるんですよ。

賢い女性って、表に出ないほうが稼げるし叩かれないしでお得なので、ますます女性のビジネス系インフルエンサー枠はガラ空きっていう…

そろそろバトンタッチしたいので、担ってくれる方募集してます(笑)。
18歳で会社を立ち上げ、プレッシャーと焦りをひとりで背負ってきたからこそ、新しい“ハヤカワ五味”に向けての舵取りができる。

経営者という立ち位置を離れようと思う」と告白してくださったハヤカワさんの表情は、柔らかくも凛としていました。

夢を描きながらビジネスとして成果を出す、という難題と向き合い続けてきたハヤカワさんは、次にどんなストーリーを描くのでしょうか?

ハヤカワさんが第二章に向けて没頭できるように、「後継者になりたい」と思う方がいらっしゃったら、今が絶好のチャンスかもしれません。

〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/撮影=福田啄也(@fkd1111)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

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