チームづくりの決定版『THE TEAM』より

「何を伝えるか」を工夫してもメンバーを動かせないリーダーに足りないもの

仕事
「チームには、情熱や信頼が必要だ」

このように、これまでは個人の経験や感覚で語られがちだった「チーム」

学校でも会社でも、チームづくりについて体系的に学ぶ機会はほとんどないと言っても過言ではありません。

“個人を輝かせる”チームの重要性が増している今こそ、「精神論」や「経験則」ではなく、理論的で再現可能な「法則」でチームを語ることが必要だ。

そんな思いをもって、モチベーションエンジニア・麻野耕司さん(リンクアンドモチベーション取締役)が「成功するチームとは何か」を科学的に解き明かした著書『THE TEAM 5つの法則』より、メンバーの力を最大限に引き出す「チームの法則」の数々をご紹介します。

コミュニケーションを阻むのはいつだって感情

ルールによってコミュニケーションの複雑性を下げたとしても、チームにおけるメンバー同士の効果的な連携にはコミュニケーションは必要不可欠です。

では、どうすればチームの中で効果的なコミュニケーションができるでしょうか?

チーム内のコミュニケーションは簡潔な方が良い

多くの書籍で、とにかく短く話すことが推奨されています。

確かに、無駄に長い話は必要ありませんが、コミュニケーションは簡潔であればあるほど、効率的・効果的になるわけではありません

それはなぜか。

世の中でコミュニケーションについて語られる場合、その多くが、「何を伝えれば良いのだろう」というコミュニケーションのコンテンツ(内容)に着目したものです。

しかし、コミュニケーションのコンテンツをどのように変えても、チームメンバーたちが動いてくれないことがあります。

なぜならば、そのような時にチームメンバーが動いてくれない原因は「感情」にこそあるからです。

どうせ、このメンバーは自分のことを分かってくれていない

しょせん、自分が動いてもチームの結果は変わらない

やっぱり、このチームでは自分は大切にされていない

などなど。

どうせ」「しょせん」「やっぱり」といった言葉に代表されるチームやチームメンバーに対するネガティブな感情が、コミュニケーションのコンテンツに対する理解や共感、その先にある行動を阻害していることがあります。

そのような状況の中では、どれだけ「何を伝えるか」について工夫をしたとしても、相手のネガティブな感情によって跳ね返されてしまい、コミュニケーションは効果的なものになりません。

チームメンバーに対して「何を」伝えるかではなく、「誰が」「どのような場で」伝えるかを変えなければなりません。

同じことを言われたとしても「誰から言われたのか」「どのような場で言われたのか」によって、言われた側のメンバーの感情は大きく変わってきます。

誰が」「どのような場で」伝えるのかというのは、コミュニケーションの前提となるコンテキスト(文脈)です。

ここからは、良いコンテキストを生み出すために、時に、

「チーム内のコミュニケーションは簡潔な方が良い」

ではなく、

チーム内のコミュニケーションに無駄があっても良い

ということをお伝えしたいと思います。

まずはチームメンバーの感情をポジティブなものへと変えるコミュニケーションのコンテキストづくりについて紹介していきたいと思います。

「理解してから理解される」という人間関係の真実

世界的なベストセラーであるビジネス書『7つの習慣』では、世界で活躍している成功者がどのような習慣を持っているかを解き明かしています。

そこで紹介されている習慣の1つに「理解してから理解される」というものがあります。

人間は自分のことを理解してもらおうとしているうちは相手から理解されず、自分が相手のことを理解しようとした時に、相手から自分のことも理解される、という考え方です。

中国の故事に「士は己を知る者の為に死す」という言葉があります。

中国の春秋戦国時代、晋の智伯は趙の襄子に滅ぼされました。智伯の臣であった予譲は命懸けで敵討ちをしようとして捕らえられました。

予譲が処刑されようとする時に、なぜそこまでするのかと問われて言った言葉です。

仕えていた智伯が自分の能力を理解し、登用してくれたことを恩に感じて予譲は敵討ちをしようとしたのです。自分を理解してくれる人のために何かをしたいという人間の特性をよく表したエピソードです。

「どうせ、しょせん、やっぱり」というチームに根付くネガティブな感情を排除するためには、それぞれのメンバーが「自分は理解されている」と感じることが効果的です。

逆に言うと、「どうせ、しょせん、やっぱり、この人たちは自分のことを分かってくれていない」というチームメンバーたちとは効果的なコミュニケーションを取ることができません。

同じ内容を伝えたとしても、「自分のことを分かってくれていない人が伝えている」のと「自分のことを分かってくれている人が伝える」のとでは、受け取る相手の感情が全く違うのです。

コミュニケーションは「誰が」伝えるのかが重要です。

相手に自分は理解されていると感じてもらうために、チームメンバーは他のメンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解する必要があります。

チームメンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解した上で伝えれば、コミュニケーションの効果を飛躍的に高めることができます。

例えば、あるメンバーにリーダーのアシスタント役への配置転換を伝える際にも、

「このリーダーのアシスタントをやってほしい」

と伝えるのと、

「このリーダーのアシスタントをやってほしい。あなたは学生時代のサークルでサブリーダーをやっていて経験)、とても充実していたと言っていたよね感覚)。きっとこの仕事も楽しんでできると思うよ」

と伝えるのとでは、同じことを「伝えて」いても、「伝わる」度合いは全く違います。

ミスが多いチームメンバーに、

「ミスがないようにもっと丁寧かつ慎重に仕事をしてほしい」

と伝えるのと、

「ミスがないようにもっと丁寧かつ慎重に仕事をしてほしい。君は企画を立てることにはとても長けている能力)けれども、将来プロジェクトマネジャーをやりたいのであれば志向)、計画性や確動性も必要だよ」

と伝えるのとでは、同じことを「伝えて」いても、「伝わる」度合いは全く違います。

チームメンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を「相互理解」していれば、前記のように同じコンテンツ(内容)でも全く違うコンテキスト(文脈)で伝えることができ、相手に伝わり、感情を動かすコミュニケーションができるのです。

チームメンバーの人生を知っているか?

採用の面接などでは「あなたが今まで最も頑張ったことを教えて下さい」という質問をされることがありますが、実はこれは相手を知るために有効な質問ではありません

なぜならば、何十年も生きてきた中の、ほんの数週間や数日の出来事を話されても、相手の人生における「経験」の全体像を知ることができないからです。

言い換えると相手の「経験」を「点」でしか把握できず、「線」で知ることができないのです。

また、この質問だけでは、相手の「経験」しか知ることができないのですが、相手をしっかりと理解しようとすると、本来はその「経験」を通じてどんなことを感じたかという、相手の「感覚」を理解する必要があります。

言い換えると、相手の「経験」だけではなく、「感覚」まで掘り下げることによって「線」ではなく「」で相手を知る必要があるのです。

人事の領域では相手の経験の全体像を知るための質問を「水平質問」、相手の経験だけでなく感覚まで掘り下げる質問を「垂直質問」と言います。

しかし、的確に「水平質問」や「垂直質問」をするのは簡単なことではありません。

そこで、「モチベーショングラフ」という相手の「経験」や「感覚」を手軽に把握できるアプローチを紹介したいと思います。

「モチベーショングラフ」は横軸に時間、縦軸にモチベーションを取り、その変化を曲線で描きます。曲線が山や谷になっている部分に吹き出しで出来事を記入します。

横軸を生まれてから今に至るまでに設定すると、相手の「経験」を「線」で知ることができます。またモチベーションを曲線で描いてもらうことにより、その都度の「感覚」が分かり、「面」で相手を知ることができるのです。

私たちは同じチームにいるメンバーの「今」しか知らないことも多いですが、「過去」を「経験」と「感覚」という軸で理解することで、相手のコンテキストに合わせたコミュニケーションが可能になります。

是非あなたのチームでも、メンバー全員でモチベーショングラフを作成し、共有してみて下さい。チーム内のコミュニケーションが、相手の過去の経験や感情に配慮したものへと変化していくはずです。

そして、メンバー同士のコミュニケーションが、一方的に「伝える」ものから、相手に「伝わる」ものへ、そして相手を「動かす」ものへと変わっていくでしょう。

相手の特徴を知らなければコミュニケーションは成立しない

相手の「経験」や「感覚」に加え、「志向」や「能力」といった特徴を掴むことができれば、より相手のコンテキストに合わせたコミュニケーションが可能になります。

リンクアンドモチベーションでは、人材採用や人材育成において、人の「志向」を知るための「モチベーションタイプ」、「能力」を知るための「ポータブルスキル」というフレームワークを活用しています。

「分かる」の語源は「分ける」だと言われていますが、目に見えず捉えにくい人の「志向」や「能力」を掴むためには、それらを「分ける」、つまりは分類して捉える必要があります。

「モチベーションタイプ」や「ポータブルスキル」は人の「志向」や「能力」をまさしく分けることによって分かりやすくしたものです。

人の「モチベーションタイプ」の分類

「モチベーションタイプ」は、思考や行動に対する欲求を表していて、「アタックタイプ(達成支配型欲求)、「レシーブタイプ(貢献調停型欲求)、「シンキングタイプ(論理探求型欲求)、「フィーリングタイプ(審美創造型欲求)の4つに分けられます。

アタックタイプ(達成支配型欲求)は「自力本願で強くありたい。成功を収めたい。周囲に影響を与えたい。意志薄弱な状態や人への依存を避けたい」という欲求を持っています。

反応しやすいキーワードは「勝・負」「敵・味方」「損・得」で、言われて嬉しい言葉は「すごいね」です。

レシーブタイプ(貢献調停型欲求)は「人の役に立ちたい。平和を保ち、葛藤を避けたい。中立的な立場でいたい。他者との戦いよりも協調を大切にしたい」という欲求を持っています。

反応しやすいキーワードは「善・悪」「正・邪」「愛・憎」で、言われて嬉しい言葉は「ありがとう」です。

シンキングタイプ(論理探求型欲求)は「様々な知識を吸収したい。複雑な物事を究明したい。勢いだけで走ること・無計画な状態を避けたい」という欲求を持っています。

反応しやすいキーワードは「真・偽」「因・果」「優・劣」で、言われて嬉しい言葉は「正しいね」です。

フィーリングタイプ(審美創造型欲求)は「新しいものを生み出したい。楽しいことを計画したい。自分の個性を理解されたい。平凡であること・同じことの繰り返しを避けたい」という欲求を持っています。

反応しやすいキーワードは「美・醜」「苦・楽」「好・嫌」で、言われて嬉しい言葉は「面白いね」です。

モチベーションのタイプ分類を理解することで、相手の志向を捉えやすくなるはずです。

人の「ポータブルスキル」の分類

「ポータブルスキル」は、直訳すると「持ち運び可能な能力」になりますが、これは業界や職種を問わず、必要とされる能力という意味で、「対自分力(行動や考え方のセルフコントロール能力)、「対人力(人に対するコミュニケーション能力)、「対課題力(課題や仕事への処理対応能力)の3つに分けられます。

対自分力」は「決断力」「曖昧力」「瞬発力」「冒険力」といった外向的なスキルと、「忍耐力」「規律力」「持続力」「慎重力」といった内向的なスキルに分けられます。

対人力」は「主張力」「否定力」「説得力」「統率力」といった父性的なスキルと、「傾聴力」「受容力」「支援力」「協調力」といった母性的なスキルに分けられます。

対課題力」は「試行力」「変革力」「機動力」「発想力」といった右脳的なスキルと「計画力」「推進力」「確動力」「分析力」といった左脳的なスキルに分けられます。

外向的か内向的か父性的か母性的か右脳的か左脳的か、どちらのスキル傾向があるのかを理解することで、相手の能力を捉えやすくなるはずです。

あなたのチームでも、メンバーひとりひとりにセルフチェックをしてもらってみて下さい。

そして自分たちのタイプやスキルをチーム内で共有した上で、日々のコミュニケーションで相手の志向や能力を意識して下さい。

例えば相手が「アタックタイプ」「父性スキル」などであれば、仕事を頼む前に一言、

「○○さんの統率力(能力)はすごい(志向)と思っているから~~を頼みたい」

と加えてみて下さい。

チームのコミュニケーションはより相手に「伝わる」、そして相手を「動かす」ものへと変わっていくはずです。

私たちは同じチームにいるメンバーの「行動」しか見ることができませんが、その裏側にある「志向」や「能力」を理解することで、お互いのコンテキスト(文脈)に合わせたコミュニケーションが可能になります。

コミュニケーションがうまくいかない理由は多くの場合、「自分と他人は同じ」という前提でコミュニケーションを取ってしまうことにあります。

しかし、人間はひとりひとり異なる前提を持っているため、同じ内容を伝えても、人によって自分とは全く異なる受け取り方をしたり、全く異なる感情を抱いたりするものです。

メンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を知ることで、自分と相手との違いも理解でき、チームの目的の実現に向けて効果的・効率的なコミュニケーションができるようになるはずです。

成功する「チームの法則」もっと知りたい方はこちら!

THE TEAM 5つの法則

THE TEAM 5つの法則

「自分のチームづくりがいかに整理されていなかったか、情けなくなった。もっと早くこの本に出会えていたら」(元サッカー日本代表監督・岡田武史)

週刊現代「これからの日本を変える経営者50人」にも選ばれた麻野さんが、チームに関するノウハウを惜しげもなく公開している『THE TEAM  5つの法則』。

多くの組織に変革をもたらしてきた「チームの法則」が誰でも使えるようにまとめられた、チームづくりの決定版です!