大阪の大改革を成し遂げたリーダー論『実行力』より

部下との人間関係なんか気にするな。僕が信頼されるために組織に与えた「最初の衝撃」

仕事
組織におけるリーダーの役割とは?

その答えは人によってバラバラです。

今回は、38歳で大阪府知事に就任した橋下徹さんの新著『実行力』から、橋下さんの考えるリーダーのあり方について、3本の記事をお届け。

大阪府庁1万人・大阪市役所3万8千人の職員、組織、そして国をも動かし、結果を出してきた秘訣に迫ります。

部下との人間関係なんか気にするな

部下との人間関係づくりが大事とよく言われます。

とりわけ、マネジメントをする立場になって、部下との人間関係に頭を悩ませる人は多いようです。

僕は、38歳で、外部からいきなり大阪府庁という巨大組織のトップになりました。そんななかで人間関係を築いていくのは、簡単なことではありませんでした。

中央官庁でも国会議員が大臣として数千人の組織のトップに就きますが、容易には人間関係は築けないと思います。むしろ、きちんと人間関係を築けるケースのほうが例外ではないと僕は見ています。

人間関係を気にしすぎると、部下に「いい上司」と思われたいという気持ちが強くなってしまいます。

部下と飲みに行って話を聞いたり、相談に乗ったりすることが、一般的には関係づくりの王道とされています。それもいいのかもしれませんが、飲み会で部下との人間関係がうまくいったとしても、仕事で実績を上げなければ、「あの上司は、いい人だね」で終わってしまいます。

やはり職場の上下関係である以上、仕事を成し遂げる関係でなければなりません。

人間関係のことを気にしすぎるよりも、初めから「部下との人間関係づくりは難しいもの」と思って接したほうが、気持ちがラクになると思います。

僕は、大阪府庁でも大阪市役所でも、職員たちと散々対立しました。「別に嫌われたっていい。死ぬわけじゃないし」というふうに、ある意味で開き直っていました。

「知事を辞めたら、もう付き合わなくてもいいんだし」というくらいにドライに割り切って、いい人間関係を作ることよりも、仕事をやり遂げようと考えていました。

後述しますが、リーダーの役割は「部下ができないこと」をやり遂げること。

そうした姿を見せれば、多少は信頼してもらえるだろう。そうやってあまり重く考えなければ、人間関係に悩まなくてすみます。

「部下ができないこと」をするのが、リーダーの役割

弱冠38歳で府知事に就任した僕は、まず「自分の役割は『部下ができないこと』を実行すること」と決め、副知事以下の職員が絶対にできないことをやろうと考えました。

それを実行することによって、少しでも信頼してもらうしかありません。

知事の任期は4年。スピード感を持ってやらないと、4年間などあっという間に過ぎてしまいます。

「部下ができないこと」と言っても、ちまちましたことでは、組織にインパクトを与えることはできません。

部下がこれまで「絶対にできない」と思っていたこと、部下にとっての長年の懸案、こうしたものを解決することによって、「最初の衝撃」を与えることが、重要だと考えたのです。

マキャベリも名著『君主論』において、「統治者は最初に衝撃的な大事業を行なうべき」という意味のことを語っていますね。

着任当初、大阪府は「地方負担金」で悩まされていた

当時、府庁の職員たちの積年の不満は「国直轄事業の地方負担金」の問題でした。

地方負担金とは、国が公共事業として大きい国道やトンネルを作るときに、地方自治体にその負担を求める仕組みのことです。

国土交通省から請求書が回ってきて、「〇億円支払え」という感じです。請求書には内訳も何も書かれていません。

職員から見せてもらって驚きました。「これ、いったいゼロがいくつなん?」と聞いて数えたら、ゼロが10個くらい(笑)。数百億円という金額でした。

国の直轄事業の地方負担金があまりにも一方的すぎるということは、1959年くらいから問題になっていました。

国の仕事だから、国が全部資金を出すべきだ」というのが地方の主張。全国の首長や地方公務員が国に不満を持っていましたが、地方サイドが声をあげても、国は「聞く耳持たず」で、知らん顔。

僕は地方負担金のことを知って、「これはおかしいんじゃないか」と思いました。

大阪の改革を進めるうえで国とは色々な喧嘩をしましたが、国に設置された、外部有識者委員からなる地方分権改革推進委員会に出席したときに地方負担金についても声をあげました。

とはいっても、委員会で普通に発言したくらいでは、無視されるだけ。メディアにメッセージを乗せて世論を大きく動かさないと、国は相手にしてくれません

僕は「これは、ぼったくりバーじゃないか。こんなもんは、支払いを拒否する」と、国ととことん喧嘩をする宣言をしました。

すると、メディアが飛びついて、連日のように小難しい地方負担金の行政制度の話を報道してくれました。

地方行政のマニアックな話ですが、メディアが盛んに取り上げたため永田町の政界でも関心を集めました。

2009年、民主党に政権が交代するかという総選挙を控えている時期でした。

部下ができない仕事をやり遂げたことで信頼感を醸成

1959年以降、全国知事会がずっと見直しの申し入れをしていましたが、見向きもされなかった案件です。

全国知事会は普段特定の政党を支持することはありませんが、国会議員を動かさないと国は相手にしてくれませんので、今回はチャンスと見て、政党にプレッシャーをかけるべく、各政党幹部を呼んで討論会を開きました。

選挙前でメディアでもこの負担金問題を大きく取り上げてくれていましたから、各党ともに「地方負担金を見直す」と言わざるをえない状況になり、自民党も民主党も見直しを約束してくれました。

もうこうなると、どちらの政党が勝っても何らかの動きがあるはずです。結局、民主党が選挙に勝って政権を取り、地方負担金を見直してくれることになりました

大阪府の職員にとって、国直轄事業の地方負担金の見直しは長年の念願でした。

これまで絶対に見直しができないと言われていた地方負担金の見直しに僕がチャレンジし、実際にそれを実現したことで、府庁の現場の職員が僕の話により聞く耳を持ってくれるようになったと思います。

部下ができない仕事をやり遂げたことに対する信頼感の醸成ですね。

これまでのチームのメンバーが、絶対にできなかったことをやる。

それがリーダーと部下の信頼関係の土台です。

リーダーが読むべき哲学が詰まった橋下さん著『実行力』

実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた

実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた

「僕がリーダーとしてこだわってきたことは『実行力』です」

2008年に、いきなり1万人の行政組織のトップに立った橋下さん。

4年という限られた任期で結果を残すために行動した経験から、チームのマネジメント法、組織を動かす思考など、部下を動かすためのリーダー像がわかる1冊です。