「世の中、トークが過剰でみんな舌がバカになってる」

「人生は、何も起きないRPGだ」ハライチ岩井の“平凡な人生”を面白くするマインド

ライフスタイル
自分の人生って、平凡だよな…」。

いきなりため息まじりのスタートですみません。でも、そんなふうに思ったことがある人、筆者だけじゃないと思います。

テレビやSNSを見ていると、みんなそれぞれいろんな事件が起きていて、山あり谷ありのドラマチックな人生を送っているのに、いつまでたってもとくに何が起こるでもない平坦な我が人生…。

そんなことを考えているのは、お笑い芸人・ハライチ岩井さんも同じらしい。

お笑い芸人がバラエティ番組でユニークなエピソードを話すのを眺めながら、「俺の人生では何も起きてないな」と思っていたのだそう。

しかし、じつは岩井さん、「そんな“何も起きない平凡な人生”こそ面白く、幸せなものだ」という持論をもとに、エッセイ集『僕の人生には事件が起きない』を執筆したんです。

いったいどうしたらそんなふうに思えるようになるのか、直接聞いてみました。

〈聞き手=サノトモキ〉
【岩井勇気(いわい・ゆうき)】1986年生まれ。お笑い芸人・ハライチのボケ・ネタ作りを担当し、2009年にM-1グランプリ決勝に進出したのをきっかけにブレイク。新潮社の雑誌・Webサイトに連載コラムをもち、9月26日にコラムをもとにした書籍『僕の人生には事件が起きない』(新潮社)を上梓

「ドラマチックじゃなきゃ、人生面白くないのかよ」

サノ

サノ

『僕の人生に事件は起きない』…めちゃくちゃ共感するタイトルなんですけど、やっぱり岩井さんも、「波乱万丈な人生」への憧れがあるんでしょうか?
岩井さん

岩井さん

いや、全然

テレビで「ホント波乱万丈な人生で…」とか言ってる芸能人たちに対しても、「ウソつけ」としか思ってないですね。
そうですか…とりあえず取材始まったので本を閉じてください
岩井さん

岩井さん

あんなのは平凡な出来事を大げさに言ってるだけなんですよ。

芸能人の人生だってホントはほとんど平坦なんです。彼らはそれをめちゃくちゃ濃い味付けで過剰演出してるだけ
サノ

サノ

たしかに、テレビだけじゃなくて、SNSとかもそんな感じなのかもな…
岩井さん

岩井さん

今って味付けがどんどんインフレ化して、みんな舌がバカになっちゃってるんですよ。

「面白い話=非日常」って思い込んでる
サノ

サノ

たしかに飲み会とかでも、「なんか変わった話しなきゃ」みたいなプレッシャーを感じるかも…
岩井さん

岩井さん

しかも、僕は気付いたんですよ。

みんなが欲しがる「非日常」って、だいたいは「不幸話」のことなんです

芸能人も口を開けば「下積み時代の壮絶な貧乏暮らし」とか、「幼少期に親に捨てられて、頑張って上り詰めて社長になった」。…と思ったら今度は「倒産して」とか。
岩井さん

岩井さん

逆に、喜怒哀楽で言ったら「喜」の話なんて笑ってもらえない。生まれるのは妬みだけ。

インスタとかあんなの…ねえ。知り合いが楽しいことしてるのを見て、みんな妬みをためてるじゃないですか(笑)。
サノ

サノ

うん、まあ…なんとも言えませんけど…
岩井さん

岩井さん

そうやって不幸話ばっかりの「非日常エピソード」が本当にいいものなのかわからない。

「非日常」が多く起こったほうが濃密な人生とかよく言うけど…ドラマチックじゃなきゃ人生面白くないのかよと

20代にもなれば、みんな薄々気づいてるはず。僕たちの日常には、事件なんて起こんないって。だったら「自分の人生は平坦だ」ってさっさと受け入れたほうが、よっぽど面白い人生を送れると思うんですよ。
ついに顔を上げた岩井さん。ここから岩井ワールド全開になります

他人はモブキャラ、比べるな。人生は“何も起きないRPG”

サノ

サノ

でも、「ドラマチックな人生を送ってる人」と自分を比べるって、けっこうみんなやっちゃうと思うんですけど…

岩井さんはそういうことはないんですか?
岩井さん

岩井さん

これ、大げさに言ってるとかじゃなくて…

僕、ホントに自分と他人を比べないんです。
サノ

サノ

マジですか…
岩井さん

岩井さん

極論を言うと、僕、自分が死んだらこの世界なくなると思ってるんですよ。

…わかります?
いやわかんないです
サノ

サノ

どういうことですか?
岩井さん

岩井さん

たとえば今この場所にいる皆さんは、「僕の人生の登場人物」でしかない。

もちろん今だけじゃなくて、日常で出会う嫌いな金持ちもイヤな先輩も、「そういう設定のキャラ」です。

僕の人生に登場するキャラなんで、僕が死んだらキャラもいなくなるし、世界もなくなります
サノ

サノ

「我思う。故に我あり」みたいな感覚ですよね。ちょっとわかってきました。
岩井さん

岩井さん

そうです。「自分と人を比べない理由」もそれです。

僕の人生において、僕以外は全員モブキャラじゃないですか。モブキャラと自分を比べてどうすんの?って思う。
清々しすぎて笑ってしまいました
サノ

サノ

もう、RPGの主人公みたいな目線で世界を見てるんですね。
岩井さん

岩井さん

まあ、2次元脳かもしれないですね。

金持ち設定のやつに、「なんであいつあんな金持ってんだよ」ってイラついたって仕方ないじゃないですか。

「富豪キャラ」がどんだけ金持ってようが、そういう設定のやつなんでべつに嫉妬のしようもないし、何言われたって関係ないですよね。このゲームの主人公は、あくまで僕なんで。
もう岩井さんの上に「無敵」って文字が見えるな…
岩井さん

岩井さん

だから人生って、「与えられた設定のなかで、どんだけ面白いことできんの?」みたいな感覚なんですよね。

この本でやってるのも、「与えられた平凡な人生をどんだけ面白く描き出すか」ってことなので。
サノ

サノ

それくらい割り切った目線で生きられたら、めっちゃ楽なんだろうな。
岩井さん

岩井さん

僕の世界のモブキャラの人たち、悩みすぎなんですよ。

いや、お前の人生なんか何もないに決まってんじゃん。だって、モブキャラなんだから」って言いたいですよね。
サノ

サノ

やばいなこの人…
岩井さん

岩井さん

でも、言ってる意味わかりますよね?

互いに互いのモブキャラでしかないんですよ。僕以外の全員から見たら、僕もモブキャラ。そりゃ人生に事件なんて起こるわけないですよね。

人生って、「何も起こらないRPG」なんですよ。そんなモブのRPGでどれだけ遊べるかなっていうのが、僕のスタンスですね。

「平凡な出来事」を面白くするには「他人事だと思うこと」

岩井さん

岩井さん

なので、「何も起こらないRPG」を面白くしていくのが、僕のやりたいこと。

テレビで話したり、本に書いたりしてるエピソードも、そんな感じでやってます。
サノ

サノ

なるほど…でも、何もドラマが起きないのに、どうやって面白いトークにするんですか?

それこそ僕らも、「最近何か面白いことあった?」とかきかれるときのために、その方法を知りたいんですが…
岩井さん

岩井さん

僕がやってるのは「記憶の上書き」ですね。

「今」ではなく、「思い出」を面白がろうとしてるイメージです。
サノ

サノ

もともと平凡なはずの出来事を、どうしたら面白く思い出せるんでしょう?
岩井さん

岩井さん

他人事にできるかどうかでしょうね。

僕ら、「自分に起きたちょっとイヤな出来事」って隠したいし人に話したくはないんですが、他人事になると急に笑えるようになるので。

1秒前の自分は別の人だと考えればいいんですよ。他人事なら笑えるじゃないですか。
サノ

サノ

1秒前に起きたことすら「自分」ではなく「他人のエピソード」として話すんですね。
岩井さん

岩井さん

でも、もしかしたら何か新しい視点を持ってみるより、「“非日常”を担ぎ上げるのをやめてみる」のが一番早いかもしれないですね。

この本読んで、「日常侮るの、ちょっとやめてみよ」って思ってもらえたら万々歳です。
岩井さん

岩井さん

…まあ、全部超個人的な考え方ですけどね。

こんな好き勝手喋っちゃって、どうやって記事にするんですか? これ(笑)
サノ

サノ

モブAが最高の記事書くんで、ご安心ください!
ありがとうござました!
岩井さんの「人生RPG理論」…極論のようで、めちゃくちゃ実用的だと思いました。

取材中、岩井さんも「まわりから見たら平凡に見えるエピソードでも、自分が『すごい』と感じた出来事は、『すごい』でいいじゃないですか」と仰っていましたが、たしかに自分の人生を平坦だと思ってしまうのって、まわりと比べちゃうことが一番の原因なのかも。

世にあふれる「大味」なエピソードに惑わされず、自分の人生に巻き起こる平凡を遊んでみます!

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)&福田啄也(@fkd1111)/撮影=土田凌(@Ryotsuchida)〉

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岩井さんが、「ありふれた日常」をいかに面白がって描いているか、ぜひチェックしてみてください!
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