あらゆる機能を失ったとき、自分はどうありたいか?

投資の世界から一転、カフェ店主に。Be動詞から始める、キャリアの考え方

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仕事

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「“はたらくWell-being”を考えよう」

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。
①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?
②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?
③自分の仕事やはたらき方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?
3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。
今回紹介するのは、国分寺にあるカフェ、クルミドコーヒーと胡桃堂喫茶店の店主、影山知明さんです。影山さんは、新卒でマッキンゼー&カンパニーに入社し、その後投資ファンドでキャリアを積んできました。2008年、実家の建て替えをきっかけにカフェ店主としての仕事をスタート。今では「カフェ店主が僕の天職です」と話します。まったく違うキャリアの転換をお伺いすると、影山さんが大事にしている考え方がありました。
1973年東京西国分寺生まれ。大学卒業後、経営コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーを経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年西国分寺の生家を建て替え、多世代型シェアハウスの「マージュ西国分寺」を開設。地域の縁側になるような場所として1階に「クルミドコーヒー」をオープン。2017年には2店舗目となる「胡桃堂喫茶店」を開業。カフェだけでなく、出版業や書店業、哲学カフェ、地域通貨、まちの寮などの活動にも取り組む

投資のキャリアに人生を投じきれなかった理由

ーー(編集部)影山さんは2008年、ご実家の建て替えをきっかけに、西国分寺に1店舗目であるクルミドコーヒーをオープンされたんですよね。
影山さん

影山さん

そうです。カフェ経営を始めて早いもので今年で16年。2017年には国分寺に、ここ胡桃堂喫茶店をオープンし、今では2店舗を経営しています。
取材は、国分寺駅から徒歩7分ほどの胡桃堂喫茶店にて。
ーー(編集部)大学卒業後は、大手経営コンサルティング会社へ入社されたとか。
影山さん

影山さん

はい。新卒でマッキンゼー&カンパニーという会社に入社し、主に大企業に対して企業価値向上のコンサルティング業務を経験しました。

そのあと、ベンチャー企業への投資を行うベンチャーキャピタルの創業に誘われ、投資と成長支援業務を13年間していました。

投資家から資金を預かり、成長を期待できるベンチャー企業を発掘し、1社あたり5,000万円〜1億円といった単位で投資を行い、5〜10年ほど経営のサポートを行って利益が出たら投資家にお返しする、という仕事です。
ーー(編集部)すごい!投資の世界でのお仕事を長くやられていたと思うのですが、そこからどうしてカフェ店主にキャリアチェンジしたんですか?
影山さん

影山さん

投資の仕事は好きでしたし、やりがいを感じていました。

ですが、投資利回りを最大化するという職業上の役割に誠実であろうとすればするほど、人を利用価値で見ざるを得なくなり、事業成長のために人間や人間関係が手段化してしまうことへの違和感は感じていました。

そういった中で、これは、人生を投じる仕事ではないかもなと思うようになったんです。
ーー(編集部)人間や人間関係が手段化してしまう違和感?
影山さん

影山さん

僕がマッキンゼー&カンパニーでコンサルタントとして関わっていた大企業は、すでに構築された大きなシステムの中で動いていました。企業として積み重ねてきた長い歴史があって、社長の後ろには株主や投資家がいます。

そういった大きなシステムの中では、組織を成長させるための理屈を優先しなければならないシーンが多くあります。

例えば「はたらいている〇〇さんのために」よりも、組織全体の利益が優先されるんですね。
影山さん

影山さん

ベンチャーキャピタリストをしていたときも同じです。投資先となる創業間もないベンチャー企業には熱い想いや情熱があります

しかし、会社が成長し投資家の存在が大きくなると、どうしても資本主義の在り方を優先させなければならない場面というのがやってきます。
ーー(編集部)というと、具体的にどんな感じですか?
影山さん

影山さん

例えば、単純化してしまうと、

A、自分たちの想いに沿っているけれど、売上が十分にはあがらない
B、自分たちの想いとは離れているけれど、売上があがる

この2択があったとき、どちらを選択しますか?
ーー(編集部)悩みますが、想いがあっての起業ですよね。それなら「A、自分たちの想いに沿っているけれど、売上が十分にはあがらない」を選ぶと思います。
影山さん

影山さん

そうですね。僕個人としても Aの選択を後押ししたい。

ですが、僕自身もベンチャーキャピタルというシステムの中で動いていて、投資家から預かった大切な資金を、利益を出して返さなければなりません。

そうなると必然的に「Bを選ぶべし」と言わなければならなくなるわけです。
ーー(編集部)影山さんの想いと、実際の行動がちぐはぐになってしまってますね。
影山さん

影山さん

そうなんです。
いち個人である僕が「社員や経営者の想いを応援したい」と思っていても、コンサルタント・ベンチャーキャピタリストとしての僕は、組織や投資家たちへの利益を優先しなければならない。

僕自身も、本来の自分と職業人としての自分の分離を少しずつ感じていました
「社会の歯車のような」「そうですね。わかりやすくいうと、そうともいうと思います」
影山さん

影山さん

人を事業の成長や利益のための手段とするのではなく、一人ひとりと向き合い、支援し合いながらはたらきたいと思うようになったんです。

Do動詞ではなく、Be動詞でキャリアを考える。自分らしさを見つける問い

ーー(編集部)カフェ店主という今のお仕事では、本来の影山さんと経営者としての影山さんは分離していませんか?
影山さん

影山さん

ほとんどしていないですね。チームメンバーやまちの仲間たちと一緒になって、自分が「こうしたい」「これがいい」と思うことに対して、基本的には素直に行動できていると思います。

例えば、2011年には、お客さんとの出会いから「クルミド出版」という出版業を始めたり、2019年からは「クルミド大学」という名称で、学びの場づくりを始めたり。

自由にやれていると思います。自由は「自らに由る」と書きますが、誰かに決められてしまうのではなくて、自分の想いと判断で物事を決められている実感がありますね。
ーー(編集部)そう言えるの、カッコいいです!でも、「自分らしくはたらく」って言葉にすると簡単ですが、なかなか難しいんですよね。
影山さん

影山さん

すごくわかります。
僕も今でこそ、いろんなことの整理がつくようになりましたが、20代後半の頃などはよく悩んでいました。
ーー(編集部)影山さんもですか。どうやって悩みを打破したんですか?
影山さん

影山さん

キャリアをDo動詞ではなく、Be動詞で考えるようにしたのは大きかったなと思います。
「若い頃は、『夢はなんですか?』の質問が苦手でした(笑)」
ーー(編集部)Do動詞ではなく、Be動詞で考える?
影山さん

影山さん

はい。
例えば、大きなプロジェクトに携わりたい、契約をとりたい、僕でいうと経営コンサルティングをしたい、投資業務に携わりたいなどは、どれも業務にまつわるDo動詞での捉え方と言えます。

キャリア選択をどうしたいかと聞かれる場面では、こうした回答が求められることが多いのだと思います。
ーー(編集部)はっ!私も「記事がたくさん読まれるライターになりたい」と考えています。
影山さん

影山さん

そうですよね。
一方、「こうしたい」ではなく、自分は「こうありたい」と考えるのが、Be動詞での捉え方です。

そうやって整理したとき、僕は実は職種に代表されるDo動詞は意外になんでもよくて、むしろ、大事にしたいBe動詞があることに気がつきました。
それは一体?
影山さん

影山さん

1つ目は、目の前の人を大事にする自分でありたい。

2つ目は、自分に嘘をつかない自分でありたい。

そして、周りに感謝し、感謝してもらえる自分でありたい。

この3つを大切にできているのであれば、僕はどんなDoでもいいと思っています。だから、カフェ店主にキャリアチェンジしたことも、自分の中ではそんなに特別なことではないんです。

実際、カフェ店主という仕事は、これらのBe動詞との相性がとてもいいんです。
ーー(編集部)なるほど。Be動詞でキャリアを考えたことありませんでした。……でも、ちょっと待ってください。そもそも「どんな自分でありたいか」ってどうやって考えたらいいんでしょう?
影山さん

影山さん

そうですよね。
もちろん自分と向き合い、自問自答しながら見つけるのも1つの手だと思います。でも、それだとやっぱり難しいことも多い。

一つの手がかりになるのは、周りの人からかけてもらう言葉かもしれないなと思います。
ーー(編集部)周りの人の言葉ですか?
影山さん

影山さん

はい。
それも職業上の評価ではなくて、自分自身の存在に対してかけてもらう言葉ですね。

存在の対義語は機能性ですが、例えば「自分があらゆる機能性を失ったとき、それでもあなたのことを受け止めてくれる人はいるか?」と考えてみる。
ーー(編集部)自分があらゆる機能性を失ったとき、それでもあなたのことを受け止めてくれる人。
影山さん

影山さん

今は、まわりから見て一見自信がありそうな人でも、よく聞いてみると内側に不安を抱えていることが多いように思います。

仕事で活躍している人でも、それが機能性に支えられてのものであった場合、常に脅かされる危険性がある。

それに、SNSのフォロワーが何人いるかとか、表面的な他者からの評価に依存している場合、それはとても浮気性なものだけに、常に不安と隣り合わせだろうと思います。
ーー(編集部)言われてみれば……。
影山さん

影山さん

スキルや能力というのは、上には上がいて他人と比べ出したらキリがないものでもあります。

今後AIなどに代替されてしまうものもきっと多く出てきますよね。

さらには万が一、病気や怪我などで機能性を発揮できなくなったら「自分には価値がない」と思わざるを得なくなるでしょう。
影山さん

影山さん

なので僕はスキルや機能性ではなく、自分の存在に目を向けてほしいと思っています。自分の機能性を信じられることを自己効力感と呼ぶのに対して、自分の存在を信じられることを自己肯定感と呼びます。

自分に何ができようができまいが関係なく、自分は自分でいいと思える感覚のこと。そして、そういう自分の存在を受け止めてくれる他者が、まわりにいると思えること。

働き始めると、お互いの利用価値に根ざした関係性が、人間関係の多くを占めるようになってきます。だからこそ、少し仕事から離れたところで、お互いの存在を受け止め合えるような関係性を大事にできるといいと思います。

そして、そうした関係性の中にこそ、きっとあなたらしさがあり、大切にすべきBe動詞もそこに隠れているのではないかと思います。
ーー(編集部)お話をお伺いして、ゆっくり時間をかけて、この問いに向き合ってみたい気持ちになってます。
影山さん

影山さん

自己肯定感を育てられれば、キャリア選択のときはもちろん、多少仕事で失敗したり、他の人と比べて劣るところがあったりしても、そこが自分の帰る場所になって、最後の最後、自分を支えてくれるだろうと思います。

人生の指針になる「大きなYES」があれば、日常の「小さなNO」も越えていける

ーー(編集部)改めてお伺いするのですが、影山さんは今のお仕事が好きですか?
影山さん

影山さん

好きですね。
使命感という言葉があって、それは「命を使う」と書くわけですけど、まさにカフェの仕事は、自分の命を投じる先だなと思っています。
ーー(編集部)そこまで言い切れるのはすごいです!そのように思えたのは、何かきっかけがあるんですか?
影山さん

影山さん

何か1つ2つの理由があるというわけではなくて、これまでの時間の中でじわじわと実感してきたというところです。

ただ、2011年の東日本大震災のときは、大きく考えさせられました。
ーー(編集部)どういうことですか?
影山さん

影山さん

あのときふと、「もし今、ぼくらのところにも何かしらの災害があって、クルミドコーヒーが跡形もなくなったとしたら、ぼくらのお店はどうなるのか?」って想像したんです。
ーー(編集部)可能性としてはゼロではない想像ですね。
影山さん

影山さん

当時から、お店に来てくださる方々からお客、「空間が素敵だった」「落ち着ける店内だった」などとお褒めの言葉をいただくことがあったのですけど、それらがすべてなくなったとしたらどうだろうと。
クルミドコーヒーは2013年食べログのカフェ部門で日本国内で1位になったことも
ーー(編集部)あ!「機能性を失ったら」、ですか!?
影山さん

影山さん

そうです。
お褒めいただく空間やメニュー、接客などのサービスといったあらゆる機能性がなくなって、最低限のパイプ椅子と長机と、手書きで書いた看板だけになったとしたら、お客さんは来てくれるだろうか?と。

そう考えたときに、来てくださるお客さんの顔が想像できたんです。
ーー(編集部)おお!
影山さん

影山さん

もちろん、実際にどうなるかは分かりませんけどね。

でも、もし本当にそうなったらすごいことだし、お店として大切にするべきは、そこなんじゃないかって思ったんです。

機能性ではなくて、その至らなさも含めて、存在そのものを愛してもらえるお店、ですね。
影山さんは、カフェ経営で事業計画を作らないそう。植物が育つようなお店作りをされています
ーー(編集部)そう思うと、Be動詞を見つけることが “はたらくWell-being” の一歩目なのかもしれないですね。
影山さん

影山さん

僕はよく「大きなYESと、小さなNO」と言ったりします。

「大きなYES」とは、自分の生き方の大きな方向性で、自分はどう在りたいのかを見い出すこと。仕事に限らず、有限な自分の命をどう使っていきたいのか

人生における自分の指針のようなものを指します。かたや「小さなNO」は、日々の小さなストレスや、うまくいかない思いのこと。

人生において自分が信じられる大きなYESがあれば、小さなNOは受け止めていけると僕は思っています。

日々落ち込むことがあったとしても、イヤになることがあったとしても、大きなYESが心の拠り所になる。逆に、大きなYESがない状態で小さなNOが積み重なることはとっても辛いと思うんです。
ーー(編集部)「自分らしさって?」と迷子になってしまいそうです。
影山さん

影山さん

カフェ経営をはじめてからの16年間、良いことと良くないことを比べたら良くないこともたくさんありました。

リーマンショック直後にお店を初めて、二度にわたる消費税増税、東日本大震災、コロナ禍などなど……。
「これまで自分が負ってきた苦労をはかれるとしたら、 世の中的には結構上位にランクインできるかもしれない(笑)」
影山さん

影山さん

ですが僕には、自分にもお店にも「大きなYES」があります。

どうありたいか、どうあれば心地よいのか自分で決めているから、この仕事に命を使ってはたらけているのだと思いますね。
<取材・文=田邉 なつほ 撮影=飯室 佐世子>