自ら切り拓いた、セカンドキャリアへの道

プロ野球選手から公認会計士試験合格。異色の転身をした池田駿さんの“はたらくWell-being”

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「“はたらくWell-being”を考えよう」

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リモートワークの浸透などと相まって、「はたらき方改革」が世間の潮流となって久しい昨今。
現場ではたらくビジネスパーソンの中には、「本気で仕事に打ち込もうと思ったらはたらき方改革なんて無理」「自分らしいはたらき方なんて難しい」と感じている人もいるはず。
そこで、パーソルグループとのコラボでお送りする本連載「“はたらくWell-being”を考えよう」ではモヤモヤを感じているあなたへ「令和の新しいはたらき方」を提案していきます。
「はたらくWell-being」とは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感のこと。それを測るための3つの質問があります。
①あなたは、日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか?
②自分の仕事は、人々の生活をよりよくすることにつながっていると思いますか?
③自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?
3つの質問すべてに「YES」と答えられる人は「はたらくWell-being」が高いと言えます。「“はたらくWell-being”を考えよう」では、日々、充実感を持ってはたらく方々へのインタビューを通して、幸せにはたらくためのヒントを探します。
今回紹介するのは、元プロ野球選手の池田駿さんです。池田さんは現役時代、東京ジャイアンツや楽天ゴールデンイーグルスで投手として活躍。 2021年のキャンプ期間中から公認会計士の勉強を始め、シーズン終了後に引退を決意してからは、1日平均10時間の猛勉強。元プロ野球選手としては異例のセカンドキャリアである公認会計士試験に見事合格しました。現在はCPA会計学院で、公認会計士資格スクールの講師としてはたらいています。
池田さんはなぜ、プロ野球選手から公認会計士になったのか、キャリア選択をするうえで大切にしている軸について聞きました。
1992年生まれ。新潟県出雲崎町出身の31歳。新潟明訓高校ではエースとして3年夏の甲子園8強。専大からヤマハに入社。16年ドラフト4位で巨人入団。18年8月4日の中日戦で中継ぎとしてプロ初勝利。昨年6月25日にウィーラーとの交換トレードで楽天に移籍した。同年9月2日の日本ハム戦(札幌D)で移籍後初勝利。21年終了後に現役引退。引退後は、公認会計士を目指し猛勉強し、2023年11月に公認会計士試験に合格。現在は公認会計士資格スクール「CPA会計学院」の講師を務める

自分で考えた練習で結果が出たときに、初めてプロの世界を意識した

柳田

柳田

僕は子供のころ、プロ野球選手になりたかったので元プロ野球選手に会えるのは嬉しいです。

池田さんもプロ野球選手になることが小さい頃から夢だったんですか?
池田さん

池田さん

僕の場合は、小学校から野球を始めたんですけど、プロ野球選手になるという夢は持ったことがなかったんですよね
柳田

柳田

え、そうなんですか!
池田さん

池田さん

小学校のときは野球をすることが楽しかったのですが、中学、高校、大学と進むなかでその楽しさを見失っちゃったんです。
柳田

柳田

野球の楽しさを見失ってしまう時期が早くないですか!?
池田さん

池田さん

いやー面白くなかったですね(笑)。たぶん、体育会系的な雰囲気が苦手だったんでしょう。

ですが、社会人野球でプレーするうちに野球の楽しさを思い出しました。それと同時に自分の技術も上がり、当時の指導者から「これならプロも目指せるかも」と言ってもらいました。

徐々にスカウトにも注目していただけるようになって、そこではじめてプロ野球を意識するようになったんです。
柳田

柳田

意外です。プロ野球選手になる人は「プロ野球選手になれるなら死んでもいい」というようなモチベーションがあるもんだと思ってました。
池田さん

池田さん

僕は相当冷めている人間だと思いますよ。

振り返ると高校〜大学は「野球をしたい」というよりも、「野球しかしてこなかった」という状況で、自分には野球しか選択肢がないと思い込んでいたんです。
池田さん

池田さん

高校の時もたまたま母校が甲子園に出場して、その流れで大学も自動的に決まったような部分もありました。

「自分から野球をとったら何も残らないから、野球をするしかない」という思い込みがあった気がしています。
柳田

柳田

なぜ、社会人野球でまた野球が楽しくなったのですか?
池田さん

池田さん

「やらされている」感がなかったからだと思います。

僕はもともと誰かに「何かをしろ」って言われるのが大嫌いなんですよ。

当時、僕はヤマハ株式会社の社会人チームに所属していたのですが、全体練習はありますが時間的にはとても短く、それ以外の時間は自分で練習メニューを決めることができました。
柳田

柳田

「やらされている」のではなく、主体的にできる状況だったんですね。
池田さん

池田さん

自分で決めた 練習で、成果が見えることが楽しかったんですよね。「楽しい」=「上達への近道」というのは本当で、技術もぐんぐん上がりました。

そこで初めてプロ野球選手になることを意識したという感じですね。

野球以外の部分を意識してしまうことが苦痛だったプロ野球時代

柳田

柳田

ドラフト4位で東京ジャイアンツに入団。厳しい世界に足を踏み入れたときの覚悟はいかがでしたか?
池田さん

池田さん

安定した大企業での勤務を捨てて、厳しいプロ野球の世界に踏み込むのは勇気がいりました

プロ野球選手の平均寿命は7. 7年。一部を除いてプロ野球選手の寿命はすごく短いです。

まして、僕は社会人野球を経て25歳で入団したオールドルーキーなわけですから、戦力にならなかったらすぐクビになるわけですよ。
柳田

柳田

厳しい…
池田さん

池田さん

よく契約金数千万なんて数字が踊りますけど、あれも企業でいうところの退職金の前渡しのようなものですからね。

プロ野球選手のときの収入だけで一生食べていける人なんて、ほとんどいないのが実情です。
柳田

柳田

まして入団したのが東京ジャイアンツ。周りは野球エリートの集団だったと思います。
池田さん

池田さん

ドラフト指名された後は、嬉しい反面、「本当に大丈夫か?」と思っていました。

しかし、入団1年目でプレーしたところ、意外と通用したという手応えがありました

入団後は精一杯自分ができることをやるだけなので、むしろ入る前のほうがいろいろ考えてしまっていた感じですね。
柳田

柳田

順調なスタートだったんですね。
池田さん

池田さん

最初のうちはそうですね。でも野球を続けていくうちに、また、だんだん野球が楽しくなくなってしまったんです
柳田

柳田

また...
池田さん

池田さん

外から見れば華やかに見えるプロ野球の世界ですが、とはいえ、選手もコーチもみんな人間です。

中に入れば、人間同士確執が生まれることもありますし、そういった部分が見えるようになって、野球そのものに集中できなくなってしまったんですよね。
「気になりますね(笑)」「いや具体的な話は言えないです(笑)」
柳田

柳田

2020年に楽天ゴールデンイーグルスにトレードになりますが、環境が変わっても気持ちを立て直すのは難しかったですか?
池田さん

池田さん

楽天時代のほうが比較的ノビノビやらせてもらっていましたが、本質的な部分は変わらなかったですね。

楽天での2年間は、2軍での成績もよかったのですが1軍には上がれず、悔しい思いをしました

プロ野球選手引退から2年で公認会計士試験に合格

柳田

柳田

公認会計士の勉強を始めたのは現役時代(2021年2月のキャンプ時)からと聞きました。その頃にはある程度プロ野球の世界に見切りをつけていたんですか?
池田さん

池田さん

それはまったくありません。ただこの先野球がどうなろうと、会計の知識が役に立つだろうなと思って勉強をはじめました。
「ぶっちゃけセカンドキャリア考えていたんでしょ?」 「ないない(笑)」
池田さん

池田さん

今後を見据えてというよりは、息抜き感覚です。よく「キャンプって忙しいんでしょ」と聞かれるのですが、意外とそうでもないんです。部屋に帰ってきたらゲームをしたり、YouTubeを見たりしている選手も多いです。

公認会計士の勉強を始める前は自分も同じように時間を使っていたのですが、それがもったいないと思うようになりました

勉強が嫌いではないので、コツコツと公認会計士試験の勉強をするようになりましたね。
柳田

柳田

息抜きで公認会計士の勉強…信じられない…
池田さん

池田さん

もともと数学の先生が夢だったくらい、数字が好きだったんです。

会計に興味を持ったきっかけも、プロ野球1年目の確定申告を担当していただいた税理士さんに税金のことをレクチャーしてもらい、税金っておもしろいなぁと感じたことから。
柳田

柳田

しかし、最難関資格のひとつである公認会計士試験に、引退してからたった2年で合格したのはすごすぎます。
池田さん

池田さん

絶対受かってやろうって思っていましたからね。

そもそもプロ野球選手が自主退団する時はNPB(日本野球機構)に辞める理由を申告しないといけないんです。

「正当な理由」がないと辞められないのですが、僕はNPBと球団全体に「会計士になる」と宣言をして辞めたので、自分で合格以外の退路を断ったという感覚でした。
「そもそも『正当な理由』ってなんですかね(笑)」
柳田

柳田

プロ野球選手なのに公認会計士の勉強をしていたことに対して、周囲から反発のようなものはなかったのですか?
池田さん

池田さん

正直ありました。

ただ、僕が会社員だったら周囲と歩調を合わせないといけないと思いますが、プロ野球選手はあくまで個人事業主です。

時間の使い方は自分次第で、成果として返ってくるのもこないのも自分の責任

なので「ネガティブな声には、耳を傾けなくていいかな」と考えていました。

アスリートがセカンドキャリアを考えないのは現実逃避

柳田

柳田

僕が勤めているパーソルホールディングスはパ・リーグの公式スポンサーです。

なぜスポンサーをしているかというと、他の職業と比べてセカンドキャリアの選択が早くやってくるアスリートを支援したい想いがあるからなのですが、プロ野球時代に周囲を見ていて、セカンドキャリアに対する意識はどのような感じでしたか?
池田さん

池田さん

正直、現役時代にセカンドキャリアを考えてる選手は100人いたら1人いるかどうかという感覚でしたね。

現役時代は野球だけに向き合うことが美徳という考え方が、まだまだ根強い。

ただ、プロ野球選手は長くても30〜40歳で辞める世界。その後の長い人生をないがしろにしてしまうのは現実逃避だと、僕は思っています。

プロ野球時代の貯蓄だけで生きていける人は、ひとつまみしかいないんですから。
ひと握りじゃありません。ひとつまみです!
柳田

柳田

なるほど。
池田さん

池田さん

ですが、最近の選手はセカンドキャリアについて真剣に考えている人が、少しずつですが増えてきているような気がします。そういう意味では多様性が生まれつつあるのかなぁと。

プロ野球選手は毎年キャンプに入るときにマスコミ対応や反社対応など、社会に関する講習を受ける機会があるので、そのときに税金の話やセカンドキャリアについて話す機会があってもいいと思います。

現役時代にセカンドキャリアのことを考えることは決してマイナスではありません。

僕自身セカンドキャリアを考えることで、いい意味で伸び伸びと野球をすることができました

「プロ野球選手がダメでも次がある」と、ある意味保険のような役割を果たしていたのではないかと考えています。
実際に僕自身の成績や状態は、辞める前が一番良かったんですから

自分のためよりも人のために仕事をしたほうが幸せを感じる

柳田

柳田

今、池田さんは公認会計士資格スクールの講師をされていますよね。

プロ野球選手時代と今を比較して、はたらく幸せについては、どちらのほうが感じられていますか?
池田さん

池田さん

間違いなく今ですね。僕がプロ野球選手になったのは割と成り行き任せなところがありましたが、公認会計士試験を受けたことは100%僕の意思です

まずそれが大きい。そして、僕は「自分のため」というよりも「誰かのため」に仕事をするほうが楽しさを感じる性格のようです。
柳田

柳田

なるほど。
池田さん

池田さん

僕にとってキャリア選択で重要なことは、まず「その仕事自体が楽しいか」です。

僕は数学の先生を目指していたほど、数字に関わることが好きなので、今、会計の仕事に携われるのは楽しいです。
池田さん

池田さん

そして、その仕事が「誰かの役に立っているか」です。振り返ると、僕は自分のためにはたらいて嬉しかった経験があまりないんです。

それよりも「誰かが喜んでくれたから僕も嬉しかった」というエピソードが圧倒的に多い。プロ野球選手時代に一番嬉しかった出来事は、初勝利の時のウイニングボールを闘病中だった義父にプレゼントできたことでした。

引退を決めた時も、2軍で好成績を残しているのにもかかわらず1軍に呼ばれないことで「周囲から必要とされていない」と感じたからです。
柳田

柳田

今、池田さんが公認会計士資格スクールの講師の仕事は「誰かの役に立っている」感覚があるのでしょうか?
池田さん

池田さん

そうですね。

今、CPA会計学院で生徒に対して講義をしていますが、生徒がわからなかった問題が解けるようになり、「そういうことですね!」と、生徒にスッキリして帰ってもらう瞬間が1番楽しいし、やりがいを感じます。
柳田

柳田

最後に、今後のキャリアの目標を教えていただけますか?
池田さん

池田さん

まだまだ先のことはわかりませんが、ゆくゆくは5〜10人ぐらいのプロ野球選手の税務についてサポートできればいいなと思っています。

元プロ野球選手で僕よりも先に公認会計士になられた奥村武博さん(元阪神タイガース)は、今いろいろなアスリートにセカンドキャリアについての講演を行っています。

そうした活動にも積極的に取り組み、アスリートのセカンドキャリアの重要性について、認知を広げていきたいと思います