“強い動機”と“理想的な環境”がある

日馬富士騒動はさておき… 外国人力士はなんであんなに日本語がうまいの?

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元横綱・日馬富士の暴力騒動で持ちきりの大相撲。それはそれとして、連日のニュースを見ていると、インタビューに答える外国人力士たちの「日本語の流暢さ」に感心してしまう…。

特殊な教育を受けているワケではないようだが、一体どうやって日本語を習得しているのだろう?

「帰ろうと思ったことはない」過酷な環境を通じて成功を渇望。日本語を習得すべき強い動機がある

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アフロ

黒海の出身地・アブハジアは紛争状態に。現在はジョージアの一部だが、事実上の独立状態だという
早稲田大学大学院日本語教育研究科の宮崎里司教授は、自身の著書『外国人力士はなぜ日本語がうまいのか』(明治書院)のなかで、その理由は「強い動機と理想的な(日本語習得)環境にある」と書いている。

「強い動機」とは、すなわち日本語の相撲界で成功することに対するモチベーションのこと。同教授は自身の研究室のWebサイトで、朝日新聞に掲載された黒海関(旧ソ連・アブハジア自治共和国)のインタビューを紹介している。
(故郷が内戦状態となり)12歳だった93年秋、銃撃戦の中を6歳下の弟とグルジアの首都トビリシへ飛行機で脱出した。両親は2千メートル級の雪山を歩いて越え、1週間後に再会を果たした。停戦は成立したものの、行き来はままならない。

(中略)

おかみさんに単語カードを作ってもらい,露日辞典を肌身離さず日本語を覚えた。味覚の違いや相撲界のしきたりに戸惑いもした。でも、「帰ろうと思ったことは一度もない。戦争を経験し気持ちが強くなった」。

(2003年12月35日付『朝日新聞』「ひと」より)

出典http://www.gsjal.jp

近年増えているモンゴルや、旧ソ連(ジョージア、エストニアなど)出身の力士たちは、このように過酷な環境を経験していることも多い。「日本で必ず成功しなければならない」という思いが強いのは間違いないと言えそうだ。
また、初のアフリカ・中東出身力士である大砂嵐「アフリカと中東全体の代表として注目されていることが、頑張らなければという原動力にもなっている」と語っている。

日本の国技である相撲に、国や地域の代表として挑戦しているという意識も「強い動機」だと言えるだろう。

過酷な共同生活で「1年で会話できるようになる」。元旭天鵬も「言葉が一番ストレスだった」

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Rodrigo Reyes Marin/アフロ

37歳で史上最年長初優勝を果たし、40歳以降も幕内力士として活躍した旭天鵬
現在都内のモンゴル料理店で働く、モンゴル出身の相撲関係者の話によると「親方、女将さん、兄弟子、部屋のすべてが日本人という環境で共同生活をするので、日本語を覚えざるを得ない。“日本語がわからない”では生活できない環境だから、1年くらいで会話はできるようになる」と語る。

相撲部屋に入門すると、親方や女将さんのもとで、すべての力士が共同生活を送る。部屋によって若干の差はあるが、起床から就寝までタイムスケジュールはきっちりと決まっているようだ。朝の土俵の準備、食事の準備、稽古場の掃除など、相撲のトレーニング以外にも弟子たちはやることがたくさん…! 礼儀にも厳しい世界だから、自然と美しい日本語が身につくようだ。

現在は“モンゴル人初の親方”となった元関脇・旭天鵬(現・友綱親方)も、入門当時のことを“言葉がわからないことが一番のストレスだった”と振り返っている。
──1992年、モンゴルから6人の少年たちが来日し一緒に相撲部屋に入門した。16歳で日本に来て、何に一番苦労したか。

しきたり、稽古、食事、上下関係。言葉が一番かな。怒られても理解できないし、ほめられても理解できない。

出典https://jp.reuters.com

ほかのスポーツでは、これだけ過酷な共同生活を送るということもないだろう。外国人も日本人と同様に扱われるので、「日本語がわからない」では通用しないのだ。

前出関係者は「番付が上がっていくと、後援会など外部の人との接触も多くなったり、インタビューに答えたりする機会も多くなり、さらに日本語が上達していく」とも話す。

番付の一番上である横綱・白鵬や鶴竜の日本語の上手さにはこういった背景があったのか…。日馬富士の事件では業界の閉鎖性が明るみになったが、いい意味でも悪い意味でも、かなり特殊な世界のようだ。

〈取材・文=新R25編集部〉