突出した個性が強みに変わる時代

これからは“普通”がリスクになる。乙武洋匡が語る「オリジナリティを武器にする方法」

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記事提供:Branch
これからの時代、その人にしか生み出せないものや、見たことのない景色があること。そして、その人にしか語れない言葉があることが大切なんです。オリジナリティこそが、これからの時代で生き残るための武器になるからです

そう話してくださったのは、個性を尊重した教育の必要性を訴えてきた乙武洋匡さん。実は乙武さんは「『好き』で自信を創り、『好き』で社会とつながる」という弊社のヴィジョンに共感しサポートしてくださっている株主でもあります。

「せっかくこの身体で生まれたのならば、それを大切にして自分にしかできないことをしていきたい」と話す乙武さんに、突出した個性を強みに変える秘訣を伺いました。

突出した個性を面白いととらえることで、子どもは変わる

中里:乙武さんは、著書やメディアで「みんな違ってみんな良い」というお話をよくされていますよね。そう思われるようになったきっかけはあるのでしょうか?

乙武:やはり教育の現場で、じかに子どもたちと接してきた経験が大きいように思います。
※教員時代の乙武さん
中里:杉並区の公立小学校で3年間教壇に立たれていましたが、どのような経験が印象に残っていますか?

乙武:私が担任していたクラスでの出来事なんですが、クラスの中に電車へのこだわりがとても強いお子さんがいらしたんです。彼は小学校3年生にして関東の駅名を全て言うことができるほど電車が大好きで。

中里:すごいですね。

乙武:ある日、新しい漢字の練習として、新出漢字を使った言葉を子どもたちに発表してもらっていたんですね。

「印(しるし)」という漢字がでてくると、子どもたちから早速「印鑑!」「印刷!」など様々な声があがりはじめました。そのとき電車好きの男の子が口にした答えが秀逸で。

中里:おお、なんですかね。

乙武:パッと手を挙げて、「印旛日本医大!」と。

中里:印旛日本医大?

乙武:千葉にある北総鉄道・京成電鉄の駅名だそうです。「おっ!すごい面白い子だな」と思いましたね(笑)。

でも、さらに面白かったのが周りの子たちの反応なんです。みんな「さすが○○君だね」とあたたかく見守ってくれて
中里:みんなが知らないことを発表すると、なかには冷たい目でみるクラスのお子さんもいそうですよね。

乙武:そうなんですよ。こういう特性をもったお子さんがどのような状況に置かれるかって、やはり担任の態度によって大きく左右されると思うんです。

先生のなかには、そうした特性あるお子さんを、面倒くさそうに厄介者扱いする方もいるんです。すると、子どもたちも「あ、こいつは僕らの授業をじゃまする存在なんだ」と考えるようになってしまい、いじめが起こりやすい。

一方で、「おまえは面白いなあ」と、個性をキラキラしたものとして扱ってくれる先生もいらっしゃるんですよね。

持っている個性は同じでも、指導している教師の違いによって、のびのびと可能性を伸ばしていけるお子さんと、辛い学校生活をおくるお子さんがいる

そんな先生方の授業をいろいろ見せていただけた経験が自分の学級経営にも反映されたし、一人ひとりの違いがもっと大切にされる教育がなされるべきなんじゃないかと思うようになったきっかけなんです。

「みんな同じに」を教える日本と「一人ひとり違う」と教える海外

乙武:教員が個性的なお子さんを厄介者と見てしまうのは「一斉」「画一的」ということを大切にする日本の公教育のシステムにも原因があると思うんです。

一度の説明で多くの子どもたちを一斉に動かすことのできる日本のシステムは効率的ですし、教師にとっては負担が少ない。でも、だからこそ、自分が担任することになった時に、集団行動を効率良く行いたいという教師側のエゴで、子どもの個性を否定するようなことはしたくないと強く思っていました。

中里:乙武さんは最近1年ほど海外の様々な国に視察に行かれていましたよね。やはり日本式の教育システムとの違いを感じられましたか?

乙武:感じましたね。例えばオランダでイエナプランという教育方針に基づいて運営されている学校を見学させていただいたんですね。

最も驚いたのが時間割が一人ひとり違っていることでした。特に高学年の子どもたちは、自分の時間割を自分で組むんですよ
※イエナプランの教室風景
中里:時間割を自分で。

乙武:その学校では個別学習の時間にどんな勉強をするかは自分で決めていいことになっていました。ですから、計算が苦手だと思う子は計算問題を解いていたり、理科に興味のある子はパソコンや廊下に並んでいる図鑑で調べたりしていましたね。

何も言わずにスーッと教室から出て行く子や、廊下で本を読み始めてなかなか帰ってこない子もいるなど、本当に自由な雰囲気でした

中里:自由でいいですね。

乙武:また、その学校では朝の会で一人ひとりに「今日はどんな気分か」を丁寧に聞くことを大切にしていて。例えば「昨日お母さんに叱られてしまった。今日もまだ引きずっていて、あまり勉強する気が出ない」とか、そういったことを吐き出してもらうようにしているんだそうです。

そのときのルールは絶対に否定をしないこと。みんなが「この子は今日そういう気持ちなんだね」と、ただ受け止める。そういう文化が醸成されていると、子どもは安心して自分の感情を吐き出すことができます。
中里日本で「自分の感情をおさえて周りにあわせましょう」と教えられるのとは正反対ですね。
 
乙武:そうなんです。こういった光景は、日本の公教育のシステムに慣れ親しんできた私からすると衝撃的と言ってもいいほどでした。こんな学習スタイルであれば、認知や学習の進め方に特色がある子どもたちも学びやすいだろうなと感じましたね。

これからの時代は「普通である」ことがリスクになる

中里:お子さまが「好き」を生かして可能性を伸ばしていけるかどうかには、学校教育だけではなく、親の教育方針も大きくかかわっていると思います。

個性が強いお子さまに対して、突出したところをより伸ばすために親はどんなことに気を付ければいいと思いますか?

乙武:それは、勇気を持つことだと思います。

中里:勇気を持つこと?

乙武:はい。この1年で37の国と地域を回ってきましたが、日本ほど周りと同じであることを求め、求められる社会というのは、なかなか他にないなと感じたんですね。

ですからこの日本において、好きなことだけに特化し、多くの人から外れた道を歩んでいくことのはかなり勇気の要ることだと思うんですよ。

中里:本当にそうですよね。

乙武:でも、私ね。

中里:はい。

乙武:時代はもうとっくに変わっているということを親御さんたちにはしっかりと認識をしてもらいたいと思っているんです。
乙武:僕らが子どもの頃というのは、まだ経済成長も著しかった。人口もどんどん増えていて、全てが右肩上がりの時代だったと思うんです。

その時代には、なるべく一生懸命勉強をして、良い成績をおさめて4年制大学まで行けば、良い企業に就職できた。あとは、徐々に給料が増えていくのを待ち、郊外にマイホームでも買う…そんな人生が約束されていたと思うんです。

だから、そのレールから外れることはリスクでしかなかった

中里:はい。

乙武:ところが今は当時と180度と言っていいほど社会状況が違います。本当に全てが縮小していく時代なわけです。そんな中で、僕は逆に周りと同じであることのほうがリスクだと思っていて。だって、「みんなと同じ人材」はつまり誰かと置き換え可能な人材ということですから、真っ先に切られる対象になってしまうでしょう?

これからの時代に生き残っていくには、その人しか生み出せないもの、見たことのない景色があること。そして、その人にしか語れない言葉があることが大切なんです。オリジナリティというものが、これからの時代の武器になっていくからです。

中里:本当にそうですよね。Branchではお子さまが興味のある分野の専門家(メンター)とお子さんをつなげるサービスを行っていますが本当に個性あふれるお子さまが多くて。

数学が大好きで算数オリンピックにでるまで突き詰めているお子さまや、東大生でも驚くくらい生物に関する論文を読んでいるお子さま、エレベーターの音を聞けばメーカーが分かるお子さまなどを間近で見ていると、これからの時代は「好き」を突き詰めて自分の世界や価値観をしっかりと持っていることが本当に重要になってくると実感しています。
発達障がい児の孤独をなくし、可能性を伸ばす

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