幸せの定義はQOLじゃ決まらない

【コラム】白血病に心から感謝。僕がたどり着いた「無敵のポジティブ思考法」

ライフスタイル
6月からお届けしてきた蝦名さんコラムも、いよいよ今回が最終回。

これまで、病の発覚から過酷な闘病生活、そしてその過程で気がついた「人の想いの大切さ」について綴っていただきました。

最後のテーマは、蝦名さんが“白血病を通じて手に入れた”と語る「人生を幸せに生きるためのポジティブ思考法」について。

きっと誰でも、明日からの毎日をもっと幸せに、もっと前向きに生きることができる。そう思わせてくれるパワーに満ち溢れたメッセージです。

恐怖心はリスクヘッジすることで小さく捉える

もともと、再発率が非常に高いといわれる白血病。その中でも僕が発症したのは、『フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)、T315i変異』。これは数年前までは、予後不良で必ず死んでしまうといわれていた病でした。

そのため、“再発”への恐怖も人一倍強かったです。この恐怖心は、生きているかぎり一生付き合っていくものなのか…。そう諦めてしまう一方で、いつまでもこの恐怖に怯えていては、幸せな日々は過ごせないという焦りもありました。

2017年6月21日に行った兄による移植手術。2018年2月6日に行った従姉妹による移植手術。この2人が手術を受け入れてくれてくれたことによってつないでくれたこの命。
考えても答えの出ないことに怯えながら過ごす毎日なんて、何より2人に申し訳ない。

そう思った僕は、なんとかしてこの恐怖に打ち勝ちたいと思いました。

恐怖心の原因は、“次、再発したら死”というイメージ。であれば、再発したとしても完治できる方法を、A、B、Cと3パターン考え、解決策をリストアップしておく。不安を軽減するためには、起こってからではなく事前に備えておくことが大切です。

恐怖心から目を背けて排除するのではなく、リスクヘッジした上で小さく捉える。そして、兄と従姉妹から繋いでもらった温かい命が僕の未来へと繋がると信じる。この温かい気持ちを、大きく捉える

そうするうちに“再発したら死”というネガティブな要素に怯えることなく、“今生きていられること”にしっかりと幸せを噛み締められるようになっていきました。

どんな環境であっても“負”の要素に対して解決策を予め考え、極力小さく捉えるように努力することが、幸せな人生の近道だと気がついたのです。

幸せの定義はQOLじゃ決まらない

突然ですがみなさん、“幸せの定義”ってなんだと思いますか?

ここでひとつ、例を挙げてみたいと思います。

同じ年収で、同じ家族がいる2人のサラリーマンがいたとします。両家族が、休日にマクドナルドへ行き、以下のように食事をしているシーンを想像してみてください。
A:「なんで俺はマックのポテトなんて食べなきゃいけないんだよ!」とぼやきながら、険悪な空気が流れている。

B:子どもにポテトを「あーん」といいながら食べさせてあげて、とても幸せそうで温かな空気が流れている。
この2人のサラリーマンの QOL(quality of life=生活の質)は同じです。それでも、その場を楽しめるか否かで、幸福度はここまで変わります。

かくいう僕も、バリバリ働いていたサラリーマン時代はQOL(生活の質)が高い人ほど幸福度も高いのだろうと考えていました。経済的、肉体的に豊かであればあるほど、より幸せな人生だと思っていたのです。

しかし、病気になってそれは間違っていたことに気がつきまし

無菌室での生活は、肉体的にも経済的にもどん底。1人では何もすることができず、まさにQOLは最悪な状態でした。でも僕は、「あのときは幸せだった」と自信を持って言い切ることができます。

それはなぜか。ひとつは、たくさんの人の温かさに触れられたから

そしてもうひとつは、「どんなこともポジティブに変換する力」を手に入れることができたからです。

試練は「素敵なアイテム」を手に入れるチャンス

もし仮に、白血病になる前の僕が命や時間の大切さについて真剣に語ったとしても、誰かの心を動かすことはできなかったと思います。

しかし、28歳という若さで白血病を経験したことにより、こうしてメディアを通じてみなさんにメッセージを届けることができ、うれしいことにたくさんの反響までいただくことができました。

それは、白血病になったことよって“言葉の重み・説得力”という素敵なアイテムを手に入れることができたからだと思っています。

20代で『Ph+ALL T315i変異』という病気になる人は、100万人に1人いるかいないかだそうです。つまりこれは、宝くじに当たるよりも奇跡的な確率…!

もしかすると僕は、この経験を通して“命の大切さ”をみなさんにお伝えできるチャンスをいただいたのかもしれません。だから僕は、白血病になったことを心の底から感謝しています
たとえ僕のような病気でなくても、生きていればさまざまな場面で、「自分は不幸だ」と落ち込む瞬間だってあるでしょう。

そんなときは少し考えを変えて、「これは幸せになる素敵なアイテムをゲットできるチャンスかも?」と思ってみてください。

試練は乗り越えれば経験値となり、自分の人となりになる。僕はそう考えています。

今できないことは「未来への希望」に変換しよう

病気は順調に回復しているとはいえ、僕のQOLはいまだ低いままです。

筋力や体力は正常ではありませんし、菌やウイルスに弱いため温泉やプールにも行くことができません。大好きだったカレーライスやケーキ、お刺身、レアなお肉、生野菜も食べることができません。

けれど、できないことを早く克服しなければと考えすぎると、今経験できている“この瞬間”を心から楽しめなくなってしまう。

だから僕は、今できないことも、“いつかできる希望”と考えてみるようにしました。

すると不思議と、“できないこと”があるおかげで、未来への希望がどんどん大きくなっていくんです

僕はこの思考法で、自然と現状を楽しく、前向きに捉えることができるようになりました。

ただ、どうしてもポジティブに捉えられない時は、無理をしなくてもいいんです。無理はストレスにつながってしまいます。

このバランスはとても難しいのですが、僕はいつも、能の言葉である離見の見(俯瞰した監視カメラのような目線)を意識するようにしています。

頑張りすぎていないか」と自分を俯瞰して見て、無理なく頑張れるように自分を可愛がってあげる。最近はそんなことを心掛けています。

最後までご覧いただき、ありがとうございました

僕は現在、長い入院生活を終え順調に回復傾向にあります。

移植手術後に起こりうる副作用が起きぬよう、免疫抑制剤やステロイドなど含め複数の薬を毎日30錠ほど内服している状況ですが、検査でも全く問題はなく、身体も心も健康な状態です。

これからは信頼できる主治医の元、内服薬の量を徐々に減らしていき、1年後には薬を飲まずに過ごすことを目標にしています。

そうなれば、元通りすべてのことができると言われています。きっといつか温泉に行ける時が来たら嬉しすぎて泣いちゃうんだろうな〜と、相変わらず未来に希望を持って生きています。
今回、コラムという形で僕の人生をお伝えすることにより、少しでも多くの人が前向きな心を持てるようになればと思い、素直な気持ちを書いてきました。

その結果、お手紙やDM、メッセージ、コメントなどでたくさんの方からご連絡をいただき、むしろ僕がみなさんからパワーをいただいてばかりでした。

こうして反響をいただけると、本当にあの時、生きることを諦めずに前進してよかったと心から思います。僕は今、生きている意味を今最大限に感じています。

だから今後も、今の僕だからできることを発信していこうと思っています。そしてこれからも、命、時間、人、そして温かい心を大切に生きつづけていきます

どうかここから、想いの連鎖がつづきますように!

最後に、兄の職場の社長からいただいて、僕の心に響いた言葉をお伝えして終わりとさせていただければと思います。

未来は明るい!


蝦名聖也
〈編集・構成=宮内麻希(@haribo1126)〉

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