大阪の大改革を成し遂げたリーダー論『実行力』より

組織にとって“一番嫌なこと”を打ち出す。リーダーに求められるビジョンの掲げ方

仕事
組織におけるリーダーの役割とは?

その答えは人によってバラバラです。

今回は、38歳で大阪府知事に就任した橋下徹さんの新著『実行力』から、橋下さんの考えるリーダーのあり方について、3本の記事をお届け。

大阪府庁1万人・大阪市役所3万8千人の職員、組織、そして国をも動かし、結果を出してきた秘訣に迫ります。

衰退傾向のある組織に効く“逆張り”のビジョン

リーダーになったとき、すでに自分のビジョンを持っている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、僕の講演などでは、「では、自身のビジョンはどうやったら作れるのでしょう?」といった質問がよく飛んできます。

僕の持論のひとつは、「逆張りの法則」です。

組織がうまく回っているときには、あえてリーダー・トップが新しい画期的なビジョンを打ち出す必要はありません。

簡単に言えば、うまくいっているのであれば、それをそのまま進めていけばいいだけで、リーダー・トップが口を出していらんことをしないほうがいいのです。

しかし今の時代、今までの方針をそのまま続けていけばいいという組織は少ないでしょう。衰退傾向が出ている組織のほうが多いのではないでしょうか。

そのときにこそ必要なものがリーダー・トップの方針・ビジョンであって、「逆張りの法則」が効いてくるのです。

2008年の大阪は行き詰まっていた

僕が2008年に知事になったときに、大阪は経済的に低迷してうまくいっていませんでした。

そこで、僕は「現状が悪いのであれば、まずはこれまでの方針の全否定から入ろう」と思いました。

これが、先ほど述べた「逆張りの法則」です。これまでと逆のことをやることがただちに正しい正解になるとは限りませんが、今までがダメだったのなら、やってみる価値はあります。

逆張りというのは、組織にとって「一番嫌なこと」です。

自分たちのやってきたことを否定されるのですから。当然、OBの顔もちらつきます。ゆえに、逆張りの方針を打ち出せるのは、トップだけです。

僕は、組織内で反発を受けるのを覚悟して、低迷する大阪を逆張りの方針で変えようと考えました。

それまでの大阪の方針は、大きく分けて二つありました。一つは大阪府域内での「産めよ増やせよ」というもの。府内の人口を増やす、府内の企業を増やすという方針です。

もう一つの方針は、府内にある中小企業の技術力を守っていくというものです。大きくまとめるとこの二つに集約されます。

大阪は、高度成長時代から今にいたるまで、「産めよ増やせよ」のやり方を続けてきて、高度成長期が終わりそれが行き詰まっても、誰も変えることができませんでした。

そうして、大阪は徐々に衰退していったのです。

大阪府庁の職員たちはみな、「産めよ増やせよ」、「中小企業の技術保護」を2つの柱として一生懸命に行政をやってきましたので、それを否定することなどできません。逆張りにするということは、自分たちの間違いを認めることであり、OBが間違っていたと言うようなものです。

当然のことですが、大阪の方針を決める担当部局は、僕の逆張り方針に猛反発してきました。

僕は、外部有識者の意見も聞きながら、職員たちと話し合いました。

「大阪がかつて良かったときは、2つの柱がうまく効いていた。しかし今、大阪はこんなに衰退している。東京に並ぼうと言いながら、全然並べない。これを何とかしなければいけない

そのような議論を踏まえて、これまでとは逆の道を進んでいくことを受け入れてもらいました。

正しい解になるかどうかはわからないけれども、とりあえずこれまでと真逆のことをやってみようという呼びかけです。

逆張りの方向性として出てきたのが、「中継都市」と「付加価値都市」です。
※「中継都市」と「付加価値都市」の詳細は『実行力』を参照

僕が感心したトランプ大統領のビジョンの打ち出し方

僕が感心したのは、巨大なアメリカ連邦政府組織に対するトランプ大統領の方針・ビジョンの出し方です。

トランプ政権は、2017年末に税制改革法を成立させ、法人税率を35%から21%に引き下げました。その他の大胆な税制改革も実行しました。

安倍政権も法人税率を下げましたが、6~7%下げるのに4~5年かかっています。トランプ政権は、2017年1月に発足して1年も経たないうちに14%もの減税を実現させました。

その起点になったのは、トランプ大統領のA4一枚の指示書(大統領令)です。

優れたリーダー・トップの方針というものは、簡潔で具体的で、「それがあるからこそ組織が動くことができる」というものです。

もし最初の指示で大統領が20枚くらいの紙に細かいことを書いてムニューシン長官に渡していたら、おそらく財務省の現場は手足を縛られてフリーズしてしまったでしょう。

リーダーはそこまで現場のことを把握しているわけではありません。

大統領がいくら指示しても、それが法令に反していたり、他の諸制度との整合性がとれていなかったりということは多々あります。

制度案の中身の詰めは、やはり現場がやらなければなりませんので、現場が判断できる裁量を与えてあげなければなりません。

他方、日本の予算編成でよく出される「メリハリのある予算」「少子高齢化時代の課題に対応できる予算」「将来世代に負担を残さない予算」などという方針では、組織は大改革に踏み出せません。

このような抽象的なスローガンは、ごく当然のことを言っているだけで、これまで組織が踏み出せなかった障壁について、それを乗り越えろ! という指示ではないからです。

小学校時代によく教室の前に掲げてあった「明るく、元気に、助け合いましょう」などという標語と同じです。

これだと結局、例年通りの予算を作らざるをえません。

そうではなく、リーダーの指示がなければ組織が踏み出すことができないその要点を、簡潔に指示するのです

「A4一枚の方針」が政府組織を動かしている

トランプ大統領は、国防・安全保障・関税に関する方針も、まずはA4一枚の紙に具体的かつ簡潔に、それがなければ組織が動くことができないという要点に絞って書き、政府組織に指示を出しています。

そしてこれらについても、大統領は長官などの各閣僚を通じて政府組織の現場とキャッチボールしながら、最終的には分厚い戦略を完成させています。

その戦略をもとにワシントンの巨大なアメリカ政府組織が、これまでの政府の常識的な動き方と異なることを実行している。

つまりトランプ大統領の「A4一枚の方針」が政府組織を動かしているのです。

もちろんその動き方について、また政策の方向性については賛否両論あるでしょうが、トランプ大統領がワシントンの巨大な連邦政府組織を大胆に動かしていることは間違いありません。

中国製品に25%の関税を課すことなどは、官僚の発想では絶対にできないことです。

ワシントンのインテリ・エリートたちは、自由貿易に反する高率の関税によって、中国に対し貿易戦争を仕掛けることなど思いつくことすらできないでしょう。

しかし、大統領が大きな方針を出して、官僚組織に実行するための戦略プランを作らせれば、実行できてしまうのです

僕は大阪府庁1万人、大阪市役所3万8000人の公務員組織を動かすだけでも大変でしたが、トランプ大統領は、ワシントンの巨大な官僚組織を動かして、これまでのアメリカの政治ではありえなかったような政策を実行しているのですから、すごいことだと思います。

リーダーが読むべき哲学が詰まった橋下さん著『実行力』

実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた

実行力 結果を出す「仕組み」の作りかた

「僕がリーダーとしてこだわってきたことは『実行力』です」

2008年に、いきなり1万人の行政組織のトップに立った橋下さん。

4年という限られた任期で結果を残すために行動した経験から、チームのマネジメント法、組織を動かす思考など、部下を動かすためのリーダー像がわかる1冊です。