中村圭著『説明は速さで決まる』より

聞き手を一瞬で惹きつけ、相手の頭の中に説明ルートをすり込む「5つの言葉」

仕事
会議で質問されても、とっさに説明できずしどろもどろになってしまった…そんな経験はありませんか?

このような失敗は、説明力不足が原因。相手に一瞬で伝わる説明術を身につけることで克服できると、コピーライター・中村圭さんは話します。

コピーライターといえば、商品の魅力を短くわかりやすく伝える「説明の専門家」。

そのノウハウが詰まった中村さんの著書『説明は速さで決まる』より、説明力を底上げする3記事をお届けします。

コピーライターはこっそり「説明のルート」をつくる

いったいどうすれば、もっと簡単に、相手の意識を離すことなく自分の説明を聞いてもらえるようになるのでしょうか。

じつは、説明する相手に気づかれないで、自然と相手の頭のなかに説明のルートが共有される。

そんなテクニックがあります。

それが、「透明ルート標識」という技術です。

たとえば「ポイントは3つあります」は、「何キロ先まで行けば柏、何キロ先まで行けば新宿」など、この先どこを進むのかを説明する標識のようなものです。

「説明1→説明2→説明3というルートを通って、説明が進んでいきます」というお知らせをするやり方です。

これを、相手に知らせることなく、無意識的に頭のなかにこれから説明するルートを受け入れる準備をさせるのが「透明ルート標識」です。

相手が気づかないうちにルートをつくれることから「透明」と名づけました。

透明ルート標識のつくり方

さて、ここからは具体的に透明ルート標識のつくり方を紹介します。

日本語とは不思議なもので、わずか1単語でお互いの頭のなかに同じ説明のルートが思い浮かびます。

この単語の使い方は便利です。

あなたのすることはたった1つ、冒頭で、あなたが主張したいことに、これから紹介する単語を組み合わせて説明するだけです。

広告におけるキャッチコピーのようなものです。

まさに、「説明にキャッチコピーをつける」ということです。

相手を一瞬で惹きつけて、一瞬で相手の頭に自分と同じ説明ルートを無意識につくり、その後に続く説明を相手がスムーズに受け入れやすいようにしてくれます。

では、具体的に説明していきましょう。

①「時代」…過去から未来を旅させる言葉

たとえば僕が、「短い説明が必要な時代です」と話し始めます。

すると、この言葉を聞いた瞬間に、相手の頭のなかにはある説明のルートを受け入れる準備ができます。

それが、「(1)これまでの時代」→「(2)これからの時代」という説明のルートです。

説明する僕も、このルートに沿いながら話していきます。次の説明のような形です。

「短い説明が必要な時代です。(1)情報量がまだ少なかった時代は、長い説明も受け入れる余裕が人々にはありました。でも、(2)情報にあふれたいまの時代、短く説明しなければまず相手の頭のなかに入れてもらえません」

このように、一言目に「〜な時代です」という透明ルート標識を出すことで、相手の無意識には「(1)これまでの時代」「(2)これからの時代」という「説明のルート」を受け入れる準備ができます。

なぜなら「時代」という単語には、「過去」から「いま」の時間の流れのイメージが含まれているからです。

「◯◯な時代」と聞いた瞬間に、相手の無意識は話を受け入れる準備ができているので、あなたの説明が頭のなかに入ってきやすくなります。

また、説明するあなた自身も、ルートを意識しながら話すことで、説明をしやすくなります。

自然と最短ルートを通って説明ができるわけです。

このひと言、時間にして、わずか3秒程度

最初にこのワンフレーズを加えるだけで、説明がしやすく、また受け入れられやすくなるのが、「透明ルート標識」です。

付け加えるなら、「時代」というキーワードは、とくに変化の激しい現代では、とても使いやすい言葉です。

1年どころか、数ヶ月、ネットの世界では数日間で世の中の流れやトレンドが変わる。

そういう世の中で、人々は自然と「いまはどんな時代か?」「これからはなにが主流になるのか」を確認するのがクセになっています。

いまが「どんな時代か」を教えてくれる人は、価値のある存在であり、そういう話にはつい耳を傾けたくなるのです。

SNSやウェブの記事などでも、伝え方が上手な人は「時代」という単語を使って、キャッチーかつ端的に主張を伝えています。

また、この言葉は説明に使うと便利なだけではありません。

「いまってどんな時代だろう?」と考える習慣をつけ、ネタを貯めておく良い訓練になります。

「どんな時代か」を気にする周りの人に感謝されるので、ぜひ積極的に「時代」というキーワードを意識しながら、情報収集をしてみてください。

②「挑戦」…問題・課題と解決策をつなげる言葉

次にご紹介したい単語が「挑戦」という透明ルート標識です。

この単語には「始める」という意志に加え、「そこに至るまでの障害になりそうなこと」を「それをクリアするだけの理由を持って始める」といった意味が含まれています。

そこで、この「挑戦」という単語をなにかを始めたいという主張に組み合わせると、「(1)成し遂げたいことの前にある障害」→「(2)それを越えられる理由」という説明のルートを、相手の頭の中に準備してもらうことができます。

たとえば、新規事業の提案をしたいとします。

そのとき、挑戦という単語を組み合わせると、ルートに沿って、このような説明ができます。

「私たちは新規事業に挑戦すべきです。1)たしかに我が社はいままで新規事業の経験はありません。しかし、(2)何十年間も積み重ねてきた企画の力は新規事業にも活かせると私は信じています」

新しいことを始める、そんな説明をするときに、聞く相手はマイナス要素を思い浮かべやすいです。

そのときに、挑戦という言葉をひとことめに使えば、マイナスとなる壁の要素をこちらから話せます。

そして、マイナス要素を乗り越える方法を踏まえ、説明できます。

③「卒業」…現状を認めながらも終わらせる言葉

続いて、挑戦とは反対に「なにかをやめる」…そんなちょっと気まずい提案で使いやすいのが「卒業」という透明ルート標識です。

アイドルが辞めるときに、よくこのフレーズを使いますね。この卒業という単語を使うと(1)昔の成果を褒めながら」→「(2)辞めようという提案というルートができます。

たとえば、自社の社長が長らく続けてきた対面の営業手法が、顧客のニーズと合わず時代遅れになっていたとします。

このときに、「もう対面のビジネスはやめたほうがいいと思います」と言うと、どうしてもトゲがあります。

社長自身、その問題点に気づいているかもしれませんが、その営業手法をいままで大切にしてきたという思いもあるでしょう。

こんな直球の言い方をしては、そのあとの説明を聞いてもらえません。

ここで、「卒業」という単語を使ってみます。

「そろそろ私たちも対面のビジネスから卒業するべきじゃないでしょうか。(1)たしかにいままで対面のビジネスは効果をあげてきました。しかし、(2)ウェブが発達してきたいま、その役目を終えてもいいのではないかと思うんです

こんな風に、従来のやり方の一定の成果を認めつつ、ポジティブに終わりを提案することができます。

頭のなかに情報があふれている状態だと、人は「聞きたくない話」より「聞きたい話」をインプットしやすいです。

「卒業」を使うことで、「辞める」という説明を相手の頭のなかに入れやすくなるのです。

④「出会い」…相手の短所をスムーズに表現する言葉

次に「出会い」という単語です。

これは、冒頭で使うことによって、相手の頭のなかに掛け算のルートを受け入れる準備ができる標識になります。

たとえば、

「必要なのは、大企業とベンチャーとの出会いです。(1)大企業はその資本力と経験を、(2)ベンチャーは機動力と最先端の技術を活かし合うことで、新しい事業をつくり出していけます」

というように、相手の頭のなかに(1)と(2)の掛け算を思い浮かべてもらいながら、説明をすることができます。

ここでのポイントは、互いの長所しか述べていないのに、暗に互いの短所にも言及しているというところです。

先の説明では、じつは「大企業は動きが遅い」「ベンチャーは経験とお金がない」という両者の短所も述べているのです。

しかし、短所、あるいは課題を指摘されることは、聞いている相手にとってあまり気持ちのいいことではありません。

そこで、「出会い」という言葉を使って両者の長所と短所を補い合う関係性を先にイメージさせ、暗に両者の短所に言及しても、心理的抵抗を少なくするわけです。

⑤「力」…ネガティブな言葉をポジティブにする言葉

最後にご説明したいのが「」という単語です。

本のタイトルなどでもよくありますが、単体ではネガティブにしか受け取られないような単語でも、「力」をつけると途端にメリットを感じるようになります。

たとえば、失敗という単語でも「力」をつければ、不思議なもので、メリットを感じる準備が相手にでき上がります。

「営業は失敗力が大切です。(1)失敗というと一般的には避けるべきものという印象が強いと思います。しかし、(2)失敗すればするほど経験が貯まります。恐れず失敗することで、飛躍的な成長も見込めるのです」

(1)その言葉単体でのネガティブな意味を説明し、(2)しかしその言葉を自分がどうポジティブに解釈しているのかという説明のルートをつくれます。

どんな言葉につけてもメリットを伝えやすい便利なルート標識です。

現代人は、自分にとってメリットがある情報か、そうでないかに敏感です。

主張したいことに「◯◯力」とつけると、聞いてもらえる可能性が上がります。

仕事からプライベートまで、幅広く使える「説明スキル」を学ぼう

説明は速さで決まる 一瞬で理解される「伝え方」の技術

説明は速さで決まる 一瞬で理解される「伝え方」の技術

一瞬で伝える説明術を身につければ、上司や部下への質疑応答や、自己紹介に悩むことはなくなります。

会議はスムーズに進行できるようになり、企画のプレゼンでもチャンスをつかめるようになるでしょう。

仕事からプライベートまで幅広く使える「コピーライター直伝の説明術」を、ぜひ学んでみませんか?