秋本治著『秋本治の仕事術』より

ヒントになったのは“町工場”。『こち亀』作者が教える「スケジュール管理の極意」

仕事
『週刊少年ジャンプ』で1976年から2016年まで連載した長寿マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。

単行本は200巻まで発売されており、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」として「ギネス世界記録(TM)」に認定されました。

作者である秋本治先生は、40年間一度も休載せずに連載を続け、現在も新作の執筆にいそしんでいます。

いったいどうやって40年間も週刊連載を続けられたのか

秋本先生が執筆した著書「秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由」に、その答えが書いてあります。

新R25では「アイデアを出しつづける発想」「連載を続けられた時間術」の2つを抜粋してお届けします。

小さな無駄な時間を省けば誰でも時間は詰められる

僕も昔は、『こち亀』一本に、一週間のうち7日間、フルでかけていましたが、連載に慣れてくると、6日でできるようになりました。

週に1日の休みができるということは、1か月で4日も余裕ができるということです。

それでは、やろうと思えば5日でも描けるんじゃないかと思ってトライし、だんだんペースができ上がってきたのです

もちろん、週刊連載でも時間をかけて凝った話を、月に一本は描きたくなります。

僕の場合、懐かしいことがテーマの回などは特に時間がかかり、一本に一週間以上かかることもありました。

そんな場合でも作品のストックがあれば、目先の締め切りは気にせず、十分な時間をかけて凝った話に取り組むことができます。

連載を持っている漫画家さんで、作品のストックを持っている人はあまりいないと思います。

直近の〆切を目指し、ギリギリで数本描いたり、一本に絞って描いたりしていらっしゃる方がほとんどです。その方がライブ感があり、迫力のある作品になるのは確かです。

僕のように、読み切りを描くために連載マンガを描く時間を詰めているというと、真面目にやっていないのかと疑われてしまうかもしれません。

でも、決してそうではありません。単純にいうと、無駄な時間を省いていけば、誰でも時間はかなり詰められるのです

たとえばアイデアを練るとき、ネームを考えるとき、ゆっくりコーヒーを飲んで、「どうしようかな…」と考えます。この「どうしようかな…」に2日かけているのであれば、「1日でやるぞ!」と決めてしまう

それだけで週に2日は空きます。こういう小さな“無駄な時間”を見つけてカットすれば、かけるべきところに十分な時間を充てることができるようになるのです。

僕がこう考えるようになったきっかけは、以前、ある町工場の仕事ぶりを紹介する映像を観たことでした。

一人が工具箱から工具を探し、片付ける手間が1日合計10分かかるとします。それが12 人だと120分のロスになる。月20日間働くとすると、合計40時間のロスです。

そのことに気づいたその町工場は、工具箱をなくしてしまい、工具はすべて壁に取り付けたそうです。これで探したり片付けたりする手間はゼロ。40時間は自由時間になります

創作活動ではよく、「無駄な時間も大切」と言われたりしますが、僕にとっては無駄は無駄でしかないのです。

規則正しい勤務体制こそが理想の働き方

数十年前、マンガ制作のために「アトリエびーだま」という会社を設立し、以来アシスタントは社員として雇っています。

マンガ制作の現場というのは毎日が修羅場のようなもので、漫画家もアシスタントも徹夜で食事もとらずに、血眼になって24時間描き続けるというイメージが強いようですが、うちの場合は少し違います。

勤務時間は9時から19時までと定めていて、昼と夕には食事のための休憩時間が1時間ずつ

残業はなるべく少なく、そして徹夜はしないという方針で勤務してもらっています。社員はきちんと休みを取り、タイムカードで出退勤管理をしているというのも驚かれるポイントです。

こうした規則正しい勤務体制は、僕自身の理想的な働き方に合わせています。

もっとも僕も漫画家になった当初は、明け方の4時や5時まで描いていたものです。

結婚してからは2時くらいに切り上げるようになったのですが、ラジオの深夜放送が好きで、1時からはじまる番組を結局5時ごろまで聴いてしまっていました。

翌朝はまた9時からはじめていたので、睡眠時間はかなり少なかったと思います。

これはよくないと思うようになり、終わる時間を24時、22 時、21時と早めていき、最終的には19時に切り上げるという習慣ができあがりました。

はじまりの時間を早めたわけでもありません。朝は9時から、これはデビュー当時からまったく変わっていないのです。

不思議なもので、終わりの時間をこんなに繰り上げ、マンガを描く時間を減らしても、できる仕事の量は変わりませんでした

2時までに終わらせればいいんだ」という気持ちを切り替え、仕事のできる時間を短く設定してしまえば、おのずと仕事のスピードを速めていけるものなのです。

僕もアシスタントも、昔に比べると描くスピードはかなり速くなっていると思います。

もちろん、急に速くすることはできません。マラソン選手がタイムを少しずつ縮めていくのと同じ感覚で、調整しながら少しずつ速めていった結果です。

時間を切り詰めるコツはスケジュールを自分で決めること

最初に僕がペースを早めるようになったのは、単純に休みがほしいというのが理由でした。

週刊連載マンガ一本を描くのに7日間をかけていると、本当に一日も休むことなく、365日間ぶっ続けで働かなければなりません。

デビュー当初は気も張っているので、それでもなんとかやっていましたが、人間ですので徐々に辛くなってきました。

そこで、いままでよりも一日早くネームを完成させ、空いた時間でちょっと映画を観にいこう、という風に積極的に時間を余らせる働き方を身につけていったのです。

その際にもっとも気をつけたのが、担当編集者にバレないことでした。

いま考えるとおかしなことですが、休むということになぜか罪悪感を持っていたのです。編集部には〆切ギリギリになってから「できました!」と電話。そうやって秘密裏につくったオフの日を満喫するようにしていました。

やがてそのペースにも慣れてくると、「本気になって力を出せばできるんだ」という自信が生まれ、さらにペースアップが可能になりました

そしてスケジュールの立て方が板につくと連載マンガのストックが生まれ、読み切りマンガも描いてやろうという意欲がわいてきたのです。

時間を切り詰めるコツは、とにかくスケジュールを自分で決めるということに尽きます。

スケジュール管理を人任せにしていると「次はどうする? その次は何をすれば?」と、いつも時間のことが気になってしまいます。

それよりもスケジュールは自分で管理し、今日やるべきこと、明日やらなければならないことをすべて把握する方が、精神衛生的にもずっといいのです。

複数の仕事を並行してやる場合は月間カレンダーでタスク管理する

スケジュール管理は長く手帳派でしたが、いまは違います。

『こち亀』をやっているころは基本的にそれ一本だけなので単純でした。しかし連載終了後、4作品を新しくスタートすることになったので、スケジュールが複雑になり、手帳では管理しきれなくなったのです。

複数のマンガを同時にやる場合、それぞれの作品の入稿、校了などの日程をきちんと把握しておかなければなりません。

それができていないと進行がギリギリになり、ちゃんとチェックできないまま印刷に回さざるをえないようなことも起きます。

僕はそれが許せないので、きちんとタスク管理をすることにしたのです。

いま使っているのは、月間カレンダーのような形のスケジュール表を3か月分ずつ自作し、そこに作品ごとの予定を書き込んでいく方法です

ネームも4作品別に、ネーム帳4冊。毎回打ち合わせのたびに、赤・青・黄・黒の4色の専用ネーム帳を使い分けます。

スケジュール管理ができていたら想定外の事態が起きてもへっちゃら

若いころはよくわかっていなかった僕ですが、スケジュール管理というのは、仕事の基本中の基本だと考えるようになりました。

それにスケジュール管理さえきちんとできていれば、想定外の事態が発生しても慌てずに対処できるし、突然の思いつきもすぐに実行できたりするのです。

打ち合わせで、沖縄のことを描くことが決まったとします。手順として次にしなければならないのは現地取材ですが、僕の場合は「じゃあ、明日行きましょう」ということができます。

逆に、スケジュール管理ができていなくて、いつもキツキツで仕事をしている人は、「スケジュールが空いたとき、余裕があるときに行きましょう」という約束になるのでしょうが、連載を持っている漫画家がスケジュールを空けられるのは、きっと一年以上先になることでしょう。

打ち合わせでせっかく盛りあがった気持ちは、取材に行けるころにはすっかり冷めてしまっています。鉄は熱いうちに打たなければいけません。

いや、僕はもしかすると、午前中にことが決まったら「今日の夕方に出発しよう」ということだってできます(笑)。

そうなると慌てるのは担当さん。急いでチケットを取らなければなりませんから。

40年以上も続けているプロフェッショナルな仕事術がここに

秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由

秋本治の仕事術 『こち亀』作者が40年間休まず週刊連載を続けられた理由

「なぜ、40年間も週刊連載を休まずに持続できたのか」 これは僕がよく聞かれる質問です。

対する僕の答えは、“目の前にあることをこなし、ひとつひとつ積み重ねること”。月並みかもしれませんが、これしかないのです。

出典https://www.amazon.co.jp

秋本先生は「はじめに」でこのように書いていますが、実際に本を読んでみると、日々の働き方や仕事のコントロールの仕方など、40年の経験をもとにしたたくさんの学びが詰まっています。

今の自分の働き方に、少しでも疑問に思っている方はぜひ手に取ってみてください。

巻末には、本書のために描き下ろした特別漫画「両津勘吉の仕事術」も掲載されていますよ!

(C)秋本治・アトリエびーだま/集英社