「卵を1つのかごに盛るな」

資産運用はほぼ放置でOK。ベテラン個人投資家が語る初心者向け投資法とおすすめ商品

お金
最近は、「老後の資金を貯めたい」「早期退職をしたい」と考えて、若いうちから資産運用を始める人も増えてきました。

私も将来のためにそろそろ始めようかな、と考えているところ。

しかし資産運用は、学校でも会社でも教えてもらえません。どんな金融商品を選べばいいのか、何から始めればいいのか…など初心者にはわからないことがたくさん。

ということで今回は、投資歴15年以上のベテラン個人投資家・水瀬ケンイチさんに、初心者向けの投資法おすすめの金融商品などを解説していただきました。

結論、意外と手軽に資産運用は始められそうですよ。

〈聞き手=森伽織〉
【水瀬ケンイチ(みなせ けんいち)】1973年、東京都生まれ。都内IT企業会社員として働くかたわら個人投資家として資産運用をおこなう。インデックス投資歴16年。2005年よりブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆し、日本経済新聞やマネー誌などで紹介される。著書に『お金は寝かせて増やしなさい』 (フォレスト出版)、『全面改訂ほったらかし投資術』(朝日出版・山崎元との共著)がある
森

資産運用を始めたいんですけど、いろんな情報があって何から始めようか迷ってしまいます…。

特に初心者向けのものがあれば教えてください!
水瀬さん

水瀬さん

そうですね、手法でいうと「積立投資」が初心者向きです。
森

どんなところが初心者向きなんですか?

積立投資のメリット①:ほぼ放置できるからラク

水瀬さん

水瀬さん

積立投資は、一定のタイミングで、決まった金額分の金融商品を、長期で購入しつづける方法

適切な金融商品を選んで最初の設定さえしておけば、その後は放っておいても自動的に運用できます。
森

それは手軽でいいですね!

積立投資のメリット②:高値づかみのリスクを減らせる

水瀬さん

水瀬さん

また、積立投資の基本である「ドルコスト平均法」を適用することで、リスクも減らせます。
森

ドルコスト平均法…?
水瀬さん

水瀬さん

ドルコスト平均法というのは、毎月など定期的に同じの金額分の金融商品を購入しつづける方法。

あらかじめ購入するタイミングが決まっているので、感情的な取引で「高値づかみ(金融商品が高値になっているときに買ってしまう)」が連続することを防げるんです。
森

仮想通貨が盛り上がったときは、まさに高値づかみしてる人が多かったですよね…

積立投資のメリット③:長期継続によるリターンが期待しやすい

水瀬さん

水瀬さん

3つ目のメリットは、好況でも不況でもモチベーションが維持しやすい点です。
森

好況のときにモチベーションが上がるのはなんとなくわかりますが…不況でも?
水瀬さん

水瀬さん

はい。市場が好況であれば、その時点でのリターンが大きくなって嬉しいですよね。

一方で、市場が悪化してもチャンス。金融商品の“価格”(※1)が下がるので、より多くの“量”(※2)が買えます。保有する“量”が増えれば、また好況に戻ったときに、上がった“価格”との掛け算でリターンが大きくなります。(※3)

この原理がわかっていると、長く続けるモチベーションになりますよね。
※1 後述の投資信託の場合は、一口あたりの値段を指す「基準価額」のこと

※2 投資信託の場合は「口数」

※3 投資信託の運用成績は「基準価額×保有口数」で表せる。安い時期なら同じ金額でもたくさんの口数を買えるため、基準価額が上がったときに口数との掛け算で大きなリターンが期待できる
森

それはありそうですね。でも、長く続けると何かいいことがあるんですか?
水瀬さん

水瀬さん

長期で積立投資をしていると、「複利」の効果がどんどん大きくなることが期待できます。
森

…?
水瀬さん

水瀬さん

複利とは、運用で生まれた利益を再投資することで、雪だるま式にお金が増えていくことです。

たとえば10万円を5%の年利(投資額に対する利益の割合のこと。運用成績によって変動する)で運用できたとすると、年間5000円の利益が出ます。

これを投資に回すことで、翌年は10万5000円に対して5%の利益、5250円が得られるんです。
森

だから長く続けるといいんですね!

投資信託の積み立てなら、さらにリスクを抑えられる

水瀬さん

水瀬さん

ここまでの話は、あくまで適切な金融商品を選んだ場合のこと。もしそこを間違えると積立投資のメリットは得られません。
森

その「適切な商品」って…
水瀬さん

水瀬さん

初心者なら「投資信託」がオススメです。

投資信託は、私たちが出したお金を資金としてプロが株式などを運用し、その実績に応じた利益を還元してもらえる金融商品です。
水瀬さん

水瀬さん

さらに「分散投資効果」の恩恵も自動的に受けられます。

「卵を1つのかごに盛るな」という資産運用にまつわる格言を知っていますか?
森

いえ、知りません…
水瀬さん

水瀬さん

たとえば森さんが、たくさんの卵が入っているカゴを落としてしまったとしましょう。

1つのカゴにだけ卵を盛っていたら、すべての卵が割れてしまいます。でも複数のカゴに分けて盛っておけば、1つを落としたとしてもほかのカゴの中身は割れずに済みますよね。
森

「全滅」するリスクを回避できますね。
水瀬さん

水瀬さん

そう。投資も同じように、複数の金融商品を買ってリスクを分散させるのが定石

投資信託なら、もともと複数の投資対象を含んでいるため、この効果の恩恵が受けられるんですよ。

投資信託のうち選ぶべきはインデックスファンド

森

きっと投資信託にもいろんな商品があるんですよね?
水瀬さん

水瀬さん

ありますね。まずは「インデックスファンド」から購入するのがいいでしょう。これを一般的には「インデックス投資」と言います。
森

(またよくわからない単語が…)
水瀬さん

水瀬さん

ざっくりいうとインデックスファンドは、市場の動向が反映される投資信託のこと。

「日経平均株価」など市場の動きを表す指数(インデックス)に、その日の一口あたりの値段(基準価額)を連動させるんです。
森

それって何がいいんですか?
水瀬さん

水瀬さん

大きなメリットは、手数料が安く済むこと。

運用会社は、連動させる指数を構成している代表企業の株を指数どおりに買えばいいだけなので、運用コストを抑えられ手数料が安いんです。
森

ふむふむ。
水瀬さん

水瀬さん

一方で投資信託には「アクティブファンド」という商品もあります。これはファンドマネージャーと呼ばれるプロが、市場の平均以上の利益を目指して運用します。

企業分析や投資戦略の実行にコストがかかり、手数料が高くなりがちです。
森

でもリターンが大きいなら、手数料が高くてもいいのでは?
水瀬さん

水瀬さん

実はプロが介入したからといって、大きいリターンが期待できるわけでもないんですよね。

過去のデータを見ると、投資のプロであってもインデックス運用になかなか勝てないんです。アクティブファンドの7~8割はインデックスに負けているという調査があるくらい。それも、日本だけでなく、世界中で。
森

へー、不思議。それなら手数料が安いほうがいいですね。

インデックス投資は口座開設までの準備が重要

森

私のような資産運用初心者が、いざインデックス投資をやるとしたら、何から始めたらいいのでしょう?
水瀬さん

水瀬さん

インデックス投資を始めるなら、事前準備がとても大事。

大まかに以下のようなステップで準備しましょう。
①生活防衛資金を貯める

②リスク許容度を明確にする

③資産配分を決める

④口座を開設する

⑤商品を選んで積み立て設定をする

資産運用を始めるステップ①:生活防衛資金を貯める

水瀬さん

水瀬さん

まずは最低限の生活が2年ほど送れる「生活防衛資金」を確保する目処をたてましょう
森

2年の生活費…だいぶハードルが高い気が。
水瀬さん

水瀬さん

「目処」さえたてればいいんです。たとえば毎月1万円を貯めながら、1万円は投資に回すなど、貯金と投資を両立するのもOKです。
森

「このペースなら3年で生活防衛資金が貯められるぞ」とわかればいいんですね。
水瀬さん

水瀬さん

そうやって急な出費に対応できる余力をつくることが大事です。

そうしないと、途中でやめるリスクも高くなりますし、損するタイミングで資産を売却することになるかもしれません。

資産運用を始めるステップ②:リスク許容度を明確にする

水瀬さん

水瀬さん

「リスク許容度」をはっきりさせておくことも、長期的な運用のために欠かせない準備です。
森

どれぐらいのリスクを受け入れるか明確にしよう、ってことですね。
水瀬さん

水瀬さん

これを決めておかないと、ちょっと市場が悪化しただけでやめたくなる原因になります。

実際に1年以内に運用をやめてしまう人も多いと聞きますよ。
森

ノリで始めたらそうなってしまいそうですね…

ではリスク許容度は、どのように決めればいいのでしょう?
水瀬さん

水瀬さん

これは人それぞれなので、明確な答えはありません。

年間いくらまでの損失であれば、投げ出さずに続けられるか」と自分に問うしかありませんね。
森

そこをなんとか、目安だけでも教えていただきたいんですが…!
水瀬さん

水瀬さん

1つの目安として、「毎月貯金できる金額」を基準にする方法があります。

これを基準に、「貯金可能な金額の半分」などと決めておけば、市場の状況が悪くなっても、過剰に不安になることはないでしょう。

資産運用を始めるステップ③:資産配分を決める

水瀬さん

水瀬さん

次に、リスク許容度に見合った資産配分を考えましょう。

金融商品にはリスクが異なるさまざまなものがあります。これらを持つ割合を調整することで、全体のリスクを許容範囲内に抑えるんです。
森

具体的にはどう配分を決めればいいでしょう?
水瀬さん

水瀬さん

今回ご紹介しているインデックス投資に限定するなら、株式と債券(国などが発行する値動きの小さい金融商品)の割合でリスクを調整しましょう。

100から自分の年齢を引いた割合を株式に、それ以外を債券に割り当てるのがオススメです。
森

25歳なら、全体の75%を株式のインデックスファンドにするんですね。
水瀬さん

水瀬さん

そういうことです。若いうちなら損失が出ても取り戻しやすいので高めのリスクを許容して、歳を重ねるほどリスクを低くしていく考え方がベースにあります。
森

わかりやすい基準ですね!
水瀬さん

水瀬さん

さらにその内訳も、考えなければなりません。

インデックスファンドは運用対象が違う商品がいろいろあるんです。先進国の株式に投資するインデックスファンドや、新興国の株式に投資するインデックスファンド、債券に投資するインデックスファンドなど。
森

はい。
水瀬さん

水瀬さん

初心者は、世界中の投資家たちの判断が反映されている「世界の株式時価総額の比率」をマネましょう。

この比率はだいたい「日本株式:先進国株式:新興国株式=1:8:1」。そうすれば無難なバランスになるはずです。
森

みんなの意見と同じだと、たしかに安心ですね。
水瀬さん

水瀬さん

インデックスファンドには、はじめから世界の株式時価総額の比率に調整してある「全世界株式インデックスファンド」というものもあります。

自分で組み合わせる手間が省けるので、これを買うのもオススメです。
森

おお、それは便利ですね!

資産運用を始めるステップ④:口座を開設する

水瀬さん

水瀬さん

資産配分の設計が完了したら、いよいよ証券口座を開設します。

証券会社には、インターネット上で自ら手続きをする「ネット証券」と、投資家一人ひとりに営業担当がつく「対面証券」があります。

ネット証券のほうが手数料が圧倒的に安いのでオススメです
森

具体的に、「このネット証券がいい」というのはありますか?
水瀬さん

水瀬さん

ダントツで「SBI証券」か「楽天証券」がオススメです。商品数が豊富で人気です。

この2つのどちらかにしておけば、問題ないでしょう。

オススメの投資信託は運用コスト最安水準の「eMAXIS Slimシリーズ」

森

口座を開設したら、あとは商品を決めるだけですね!
水瀬さん

水瀬さん

特にオススメなのは、「eMAXIS Slimシリーズ」ですね。先ほども言ったとおり、インデックスファンドを選ぶ基準は手数料が安いかどうか。

「eMAXIS Slimシリーズ」は、運用会社が「業界最低水準の運用コストを、将来にわたってめざし続ける」と謳っている商品なんです。
森

本当に…? ほかがもっと安い商品を出すかもしれませんよね?
水瀬さん

水瀬さん

その場合は必ず追随し「最低水準をめざし続ける」と公言しているんです。実際に今まで、何度もライバルファンドの運用コスト引き下げに対して、追随値下げをしていますよ。
森

他社のチラシを見せると安くしてくれる家電量販店みたいですね!
水瀬さん

水瀬さん

しかも「全世界株式型」の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」という銘柄があるので、初心者が買うのはこれ1つでOK

先ほどオススメしたSBI証券と楽天証券でも、この「eMAXIS Slimシリーズ」を買えますよ。

少額の投資なら「NISA」を活用するとお得

森

ここまで教えていただければ、もう私でも始められそうです!
水瀬さん

水瀬さん

ちなみに少額から始めるなら、「つみたてNISA」という少額投資非課税制度を活用するとお得ですよ。

通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかるのですが、「つみたてNISA」口座ならそれが非課税になるんです。
森

おおっ! まずは月1~2万円ほどでゆるく資産運用をしていこうと思っていたので、ちょうどいいです!
水瀬さん

水瀬さん

積立投資は数十年単位で続けることで、リスクを避けながら大きなリターンが期待できるもの。続けられないと意味がないので、あまり無理しないように。

まずは少額から始めて、慣れてきたら月々の積立金を増やしていきましょう。
「資産運用」というと、複雑で難しいイメージがありましたが、意外と少ない知識からスタートできそう。

水瀬さんいわく「1日準備して、細かい知識は運用を始めてから身につければ大丈夫」とのこと。

私もさっそく、少額からインデックス投資を始めようと思います!

〈取材・文・撮影=森伽織(@orca_tweet1)/編集=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉
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