佐渡島 庸平著『観察力の鍛え方』より

感情とは、自分の意思で自由に選べるもの。人類が解き明かしてきた“感情”の深堀り方

仕事
『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など数々のヒット作を手掛ける佐渡島庸平さん

現在は「コルクラボ」で新人クリエイターの発掘・育成で、全世界で読まれる新しい形のマンガ開発に注力しています。

佐渡島さんがクリエイターからよく聞かれる質問として、「いいクリエイターの条件とはなんですか?」というものがあるそうです。

佐渡島さんによるその答えは「観察力」。

いいアウトプットをつくるためには、インプットの質を上げないといけないということです。

しかし、そもそも「観察力」とはどうやって鍛えるものなのでしょう…?

そのヒントを佐渡島さんの新著『観察力の鍛え方』より抜粋してお届けします。

記事末には、佐渡島さんからの「新R25ワイドショー」のお題がありますので、最後までお楽しみください!

物語によって、見えないものに気づく力を鍛えよ

僕は幼少期より、たくさんの小説やマンガを読んできた。

現実の経験よりも、物語の中の経験を優先させていたこともある

大学時代は、飲み会に誘われても、本や映画を優先していた。

過去を振り返って、なぜ、自分はそうしていたのか、自問自答をする。

今は、友人と過ごす時間を優先するのに、なぜ昔は逆だったのか。

現実社会を観察していて、感情や関係を読み解くのは非常に難しい。

20代前半の僕には、それができなかった。

小説やマンガには、関係性、感情が、すごくわかりやすく描かれている。

会話を通じて、他者の内面に入っていくことはできなかったけれど、物語という装置を使うと、人の内面に入っていける。

物語によって、見えないもの(感情と関係性)に気づく能力を鍛えることができ、僕は現実社会と向き合う準備ができたのだと思う

感情や関係性を観察する能力を、学校生活の中で鍛えることは難しい。

むしろ、学校教育によって苦手になっている可能性すらある

僕らは、学校教育や会社で「感情」と「関係」を切り離すようトレーニングされる。

自分がどう考えるかよりも、感情と関係性を殺して、論理的に動けるように教育されている。

会社では、関係性を大切にして、お客さんを贔屓する態度よりも、すべてに対して「機械的に」平等に接することが重視される。

資本主義における工場の一員としては、そのほうが都合がいい。

だが、時代は変わった。

AIやインターネットで知の解放が起きた。

今また、「ルネッサンスの時代」が来ている。

すべてを機械的に処理するのではなく、人間中心主義が復権しつつある

人間中心主義では、論理よりも、感情や関係性を優先させる。

見えないものを観察するために必要な2つの要素。

感情と関係性

これは、今後の社会に重要になるだけでなく、人の心に残る物語を作るときに、最も大切な要素でもある。

だから、編集者の僕にとって、感情と関係性は、すごく大事な観察の対象なのだ。

感情とは取り扱いの難しいセンサー

感情とは何か

すごくシンプルな問いだが、この問いに答えるのはすごく難しい。

感情が動くときの、脳内物質の出方や、身体的変化について説明すれば、感情についてわかるかというと、何もわからない。

ここで辞書をひくと、

1 気持ち
2 快/不快を主とする意識の主観的な側面

とある。

英語にすると、feeling,emotion,affectionになる。

僕らは意識のある限り、ずっと何らかの感情をもっている

なのに、今の感情は何かと聞かれるとパッと答えられない。

ましてや、30分前、1時間前となると、出来事については話せても、感情はすぐには思い出せない。

感情を意識しているにもかかわらず、「よくわからない」というのは何とも不思議である。

犬や猫にも感情はありそうだが、人間と同じようにはなさそうである。

植物や細菌などにもなさそうだ。

身体の機能であれば、ヒトよりも複雑な仕組みをもっている動物はいる。

だが感情の複雑さは、ヒト特有と言えそうで、人間を人間たらしめているのは、感情のように思える

感情についての考察は、古典に求めるのが有益だ。

たとえば、現代では、感情的な人と合理的な人は、対立する概念として取り扱われることが多い。

しかし、孔子は『論語』の中で「従心」という考え方を説いた。

「七十にして心の欲するところに従えども矩を踰えず」

感情のままに行動しても、社会と調和することができた」という意味だと僕は解釈している。

つまり、孔子は、感情と理性は対立するものではなく、最終的に調和するものであり、それを目指すことこそが人としての成長だと言っているのではないか。

そして、世間でよくいうマインドフルネスやウェルビーイングは、この従心の状態ではないか。

現代社会は、70歳よりも若く、従心の状態を社会の中で実現する人を増やそうという挑戦をしているのではないか。

感情は、ヒトという動物にとって、最も合理的なセンサーだという考え方もある。

バイアスと同じく、危機的な状況に即座に対応できるよう進化の過程で獲得してきたのだ。

一方で、感情は、誰にでも備わっているものの、使いこなすことができる人は滅多にいない、取り扱いの難しいセンサーでもある。

そのセンサーをうまく使いこなし、理性と調和することで、社会との距離感を適切に保つことができる。

そうすれば、快の状態を長く維持することができる

感情を使いこなすことは、幸せへの近道かもしれない。

そのために必要なのが、感情を観察することだ。

そして、観察するためには、仮説が必要で、そのためには、最低限の知識がなければならない。

まずここでは、感情について知っておくべき知識を整理する。

ハーバードが明らかにした感情の12分類

いかに感情に意識を乗っ取られることなく、感情を殺すこともなく、感情のままに振る舞えるようになれるのか。

まず、感情にはどんなものがあって、いくつぐらいの種類があるだろうか。

喜・怒・哀・楽はわかるかもしれない。

仏教では、七情と言って、「喜・怒・哀・楽・愛・悪(お)・欲」の7つを基本の感情としている。

近年では、ハーバード大学の意思決定センターが、ネガティブな感情を、「怒り」「イライラ」「悲しみ」「恥」「罪」「不安(恐怖)」の6つ、ポジティブな感情を「幸せ」「誇り」「安心」「感謝」「希望」「驚き」の6つ、計12に分けて研究を進めている。
出典

観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか

感情を理解するためにまず大切なのは次の2点だ。

・感情とは選ばされているのではなく、自ら選んでいる
・感情にいいも悪いもない

まず感情とは、勝手に自分のところにやってくるのではない、ということは知っておいたほうがいい。

自分でその感情を選んでいることに意識的である必要がある

そもそも感情は扱いづらい、人類の叡智が詰まったツールだ。

感情を理解すると、自分の状態を知ることができる

感情とは、自分が今、何に注意を向けているのか、を自覚するツールだということができる。

たとえば、あなたが「怒り」を感じているとする。

そんなときは、自分の大切なものへの攻撃に注目している状態と言える。

怒りを感じているときに、自分にこう問うてみる。

自分は何を大切と思っているのだろう

すると、自分で無意識に大切にしていたことに気づけるかもしれない。

また、暴力や言葉ではない何かを攻撃と解釈して、怒りを感じる場合もある。

ここで「自分は何を攻撃と受け取ったのだろう」と問うと、自分が他者の言動の何に反応しているかに気づける。

ここで感情に支配された状態のままだと、攻撃を仕返したりして、相手を変えようとしてしまう。

自分に矢印を向けられれば、自分の中で注目しているところを変えることができる。

怒りを感じたときに、自分が変えられるものだけ考えるほうがずっと健全だ。

感情を理解すると、対処法も見えてくる。

それぞれの感情は、何に注目を向けている状態か

この知識があるだけで、随分と行動が変わるだろう。

感情とは、意思決定を素早くするための道具でしかない。

あなたの感情は、無意識に、思考の癖で、自らが選んでしまっているものだ。

そうではなく、自分で自由に選べるものだと思うほうがいい。

感情があなたを襲うのではない。

自分で選ぶのだ。

失恋しても、相手がいないことに注目するから「悲しい」だけで、ここから始まる新しい人生に目を向ければ、「楽しい」になる。

すぐに、またないことを注目してしまうかもしれないが、注目する先を変えれば感情も自然と変わる。

感情にいいも悪いもない

感情を理解し、自分が何に注意を向けているかが理解できれば、次に「感情の選択」を行うことができる。

一つの出来事に対して、たった一つの感情にしかなれないことはない。

「怒り」を手放して、「悲しみ」を感じることだってできる。

そして、その後に「安らぎ」を感じることも。

感情の中に、感じてはいけないものはない。

ずっと幸せを感じているのがいい、とも限らない。

むしろ、たくさんの感情を感じたほうがいい。

避けたほうがいいのは、一つの感情に浸って、ずっとその感情に支配されてしまうことだ。

全ての物事に複数の解釈が可能なように、感情が一つに支配されているというのは、解釈が固定化されているということ。

全ての感情は、ヒトが生き延びるために大切な感情で、全てを感じているほうがいい

感情の12分類をもとに、感情によって、リスク認知や情報処理の仕方が変わるということも研究されている。

たとえば、「怒り」を感じているとき、人はリスクを低く見積もる。

不安(恐怖)」を感じているときは、その逆だ。

ものすごく強い敵が目の前に現れて、その敵に対して「怒り」を感じていたら、無鉄砲に立ち向かっていけるが、敵に対して「不安(恐怖)」を感じていると、リスクを高く見積もるので、逃げるという選択をするだろう。

また「怒り」を感じているときは脳が情報をあまりちゃんと処理しなくなる。

逆に「不安(恐怖)」を感じているときは、分析的に理屈っぽく考える。

ポジティブ感情はどうか。

ポジティブであることは歓迎されがちだが、「幸せ」ならいいのかというと、そうでもない。

「幸せ」はリスクを低く見積もるから、計画を立てるときに、やや脇が甘くなる。

「誇り」を感じているときも、リスクを低く見積もる。

このように、同じ情報を受け取っても、感情によってその処理の仕方には大きな差が生まれ、異なる意思決定となる

大切なのは、感情を無理にコントロールするのではなく、いったん自分で理解して、それによって観察が歪むことがないよう気をつけることだ

感情への知識があれば、感情と行動の相関について観察できる。

自分の感情を観察する

すると、自然と行動が変わる。

行動を変えようと意気込んでも、簡単には変わらない。

それよりも、感情を観察して、今注目していることを手放すと自然と感情が変わって、行動が変わる

感情は自分の心の中にある。

でも、見ることができない。

だから、観察が何も始まらない。

足がかりとして、知識を使って、自問をすることで観察が始まる。
観察力の鍛え方

観察力の鍛え方

新R25ワイドショーで、佐渡島さんからのお題に投稿しよう!

新R25ワイドショー」では、編集部が毎日1~2個更新するこだわりの「テーマ」に対して、アプリから会員登録したユーザーが自由に自分の知見を回答することができます。

今回は特別編として、佐渡島さんが出題者となります。
このテーマに回答する

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ネガティブな感情に向き合うと、どうしても足が重くなったり、考えること自体が苦しくなったりします。

そんな目に見えない感情をいかに観察し、どうやってそれを対処してきたのか、みなさんの体験を教えてください。
※テーマに回答するためには新R25アプリのダウンロードが必要です