オトコの好奇心が深まる1冊をご紹介!

話が通じない相手とのつき合い方

2010.11.18 THU


『「独裁者」との交渉術』 明石 康:著、木村元彦:インタビュー・解説/集英社新書/756円
弁舌巧みな発信力よりも
聞く力こそ交渉の第一歩

自民族のためなら虐殺にすら手を染めるような政治家とひざを突き合わせて、和平交渉を進めていく。想像するだけでも、わきの下から嫌な汗が出てきそう場面だが、著者の明石氏は、そんな修羅場の交渉に半生を捧げてきた人物だ。
本書は、国連や日本政府の代表として、カンボジアPKO、ボスニア紛争、スリランカ和平に尽力した明石氏が、当時を回想しながら、自らの交渉術を語ったもの。交渉術というと、巧みな論理やレトリックを駆使して、相手にイエスと言わせる“弁舌”面ばかりが強調されがちだが、明石氏は「発信力」に偏重した交渉力を戒める。とりわけ和平調停のような場面では、「調停者は雄弁である必要はない」「滔々と捲くし立てるよりも、まずはグッド・リスナーであるべき」と“聞く”ことの重要性を力説する。
明石氏はボスニア紛争の際に、「指導力不足により、ボスニアの民族紛争を結果的に長びかせた」と、欧米諸国の政治家やメディアから執拗なバッシングを受けた。だが、本書を読むかぎり、ボスニアの悲劇は個人の指導力の問題ではなく、国連という組織に埋め込まれたひずみがもたらした問題である、という印象の方が強い。そして、本書から浮かび上がる明石氏は、“公正”であることを誰よりも尊重する交渉人とすら言える。
日常でもビジネスでも、異文化の人々とつき合う機会が増えていく僕らにとって、「あらかじめ敵を想定しない」という明石氏流の交渉術は、ますます重要になってくるに違いない。

  • カルチャーショックを乗り越えて

    『異文化間コミュニケーション入門』
    鍋倉健悦/丸善ライブラリー/882円

    異文化間のコミュニケーションについて、言語やふるまいなどに関する知見を踏まえて解説した好著。自分たちが当たり前に思っていることが相手からすれば突拍子もないと受け取られる場合はいくらでもある。「“常識”というものは、そもそも、普遍的なものなどではない」ってわけ。外交問題もまずはこのあたりを頭に叩き込んだうえで考えないとダメかも?
  • 無知との遭遇!?

    『なぜ「話」は通じないのか コミュニケーションの不自由論』
    仲正昌樹/晶文社/1680円

    社会思想などの分野で活躍する学者が、自身が遭遇した「話が通じない」ケースを取り上げながら、それらを哲学とクロスさせて綴った1冊。知識人や研究者のふるまいからネットでのやりとりに至るまで、一方的な主張や解釈など、困った事例は盛りだくさん。他人事とは思わず、コミュニケーションの基本として人の話を聞くことの大切さを実感されたし。
  • 異文化としての生徒

    『教育をぶっとばせ 反学校文化の輩たち』
    岩本茂樹/文春新書/788円

    話は通じず、聞く耳を持たない生徒──夜間定時制高校の教師となった著者が教室で向き合うのはそんな輩たちであった。暴力行為や親からのクレームなど、次々に持ち上がる問題に対して「異質と見えた彼らの文化の文法を学ぼうとする姿勢」で臨んだ日々が綴られる本書。綺麗事では済まされない教育現場からのレポートは、人間関係の機微をも教えてくれる。
  •  
話が通じない相手とのつき合い方

※フリーマガジンR25 276号「R25的ブックレビュー」より

斎藤哲也=文
text TETSUYA SAITO

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