オトコの好奇心が深まる1冊をご紹介!

読めばメシが美味くなる?

2011.11.17 THU


『逃避めし』 吉田戦車/イースト・プレス/1460円
一人暮らしでしか味わえない
料理の楽しみ方がある

仕事がテンパっているのに、片付けとか「なにもいまやらなくても」ということをついついやってしまった経験はないだろうか。漫画家・吉田戦車の場合、「逃避の虫」が疼くと、仕事場の台所の前に立つ。料理のスパイスは、「担当編集者に申し訳ない」と思う気持ちだ。

思い出の味を再現したり、食べ損ねた一品をリベンジしたり、メニューは気のむくまま。手の込んだものから、混ぜるだけの簡単なものまで様々だ。たとえばエビピラフは、取り除いたエビの殻と脚でダシをとり、土鍋で炊く念の入れよう。かと思えば、ラーメンスープ定食なるものもある。食欲が並の著者は日頃、ラーメンライスのセットをうらやましく思いつつも、注文できずにいる。その悔しさを晴らすべく、麺抜きの市販のラーメンスープとごはんの組み合わせを思いついたのだ。

本書のもとになった連載は、著者の結婚、子どもの誕生を経て、終わりを迎える。家事と育児を手伝うために自宅と仕事場を統合したからだ。もう小腹が空いたとき、気ままに包丁を握ることはない。一人の台所は、著者にとって後悔や妄想や懐かしさを思いっきり発散できるパラダイスだったのだと、読み終わって気づく。

みそにメープルシロップを混ぜると甘みそになるとか、鍋の残り汁で炊き込みごはんにすると美味いとか、コワザも満載。食にまつわる本がときどき登場し、ちょっとした読書案内にもなっている。本書片手に一人暮らしの台所を満喫するもよし、食の名著を辿るもよし、だ。

  • お弁当箱には人生が詰まってる

    『おべんとうの時間』
    阿部 了・写真 阿部直美・文/木楽舎/1470円

    「おべんとうハンター」の夫婦が、日本全国のお弁当を訪ね歩いた記録。幼稚園児から海女さん、鉄道運転士まで。年齢も職業も様々な人たちのお弁当風景とインタビューで構成されている。みんな、お弁当について語りながら、いつしか家族や幼い頃について話しだす。誰かの手料理をお腹いっぱい食べたときのようなあったかい気持ちになれる本だ。
  • たまには違う食べ方を試してみる?

    『天ぷらにソースをかけますか? ──ニッポン食文化の境界線』
    野瀬泰申/新潮文庫/620円

    天ぷらに添えるのは天つゆか、ソースか。カレーに入れるのは、ゆで卵か生卵か、はたまたどちらも入れないか。同じ料理でも、ところ変われば、食べ方も変わる。ネットでのアンケート調査と、実際に歩いて確かめた情報をもとにご当地作法を仔細に分析。狭い日本で、これだけ地域差があるのかと驚かされる。おのれの食の常識を揺さぶる一冊。
  • 読めば、モーレツにお腹が空いてくる

    『ロッパの悲食記』
    古川緑波/ちくま文庫/777円

    食糧不足の戦争末期。ヤミ洋食屋に材料が入ったと聞けば急いで駆けつけ、ハンバーグにビフテキ、カツレツ、カレーとめいっぱい食べる。しょぼいものしか食べられなかった日は「人生つまらない」と嘆く。エノケンと並び称された昭和初期の喜劇俳優は稀代の食いしん坊だった。食へのすさまじき執着心を綴った日記に、食欲を刺激されまくりだ。
読めばメシが美味くなる?

※フリーマガジンR25 297号「R25的ブックレビュー」より

澁川祐子=文

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