オトコの好奇心が深まる1冊をご紹介!

“天職”はどこにある?

2012.09.27 THU


『舟を編む』 三浦しをん/光文社/1575円
辞書編集部を舞台にした
極上の職業小説

一つの仕事にのめり込む人々の熱情が、行間から立ち上ってくる小説だ。

舞台は、玄武書房という大手出版社の辞書編集部。そこに、主人公の馬締(まじめ)が営業部から異動してくる。馬締は、人と話すことが苦手で、本に囲まれて生きてきた。組織の中では浮いてしまう性格で、営業部でも評価はからっきしだった。そんな彼が、辞書作りという仕事にどっぷりとハマっていく。

一つの言葉を説明するために心血を注ぐ辞書の編集は、地味な作業の積み重ねだ。ふとした会話から言葉の用例を採集する日々。なにせ見出し語の数は23万、『広辞苑』や『大辞林』に匹敵する国語辞典の編纂だ。1年や2年で出来上がるものではない。異動時には27歳だった馬締が、ようやく完成の追い込みにかかるのは40歳の手前。

作品に登場する人物のなかで、馬締や、その前任者である荒木、監修者である松本先生は、いわば天職と巡り会えた人たちだろう。一方、辞書編集部から広告宣伝部に異動することが決まったお調子者キャラの西岡は、彼らほど辞書作りに打ち込めない。「いったい、どうしたらなにかに夢中になれるのだろう」と迷っている。新たに編集部に入る女性社員の岸辺も、異動当初は「私、なにかヘマでもしたのかな」と憂鬱な気分に浸る。

仕事に向かうスタンスとしては、西岡や岸辺に近い人が多数だろう。そう簡単に、夢中になれるものなんて見つからない。そんな二人が、“天職組”に感化され、仕事ぶりが変わっていくさまを丁寧に描いている点が、この作品を極上の職業小説に仕立てている。

  • 好きの数だけ職業はある(かも)

    『世にも奇妙な職業案内 増感号』
    ナンシー・リカ・シフ/ブルースインターアクションズ/1995円

    カメ救護士、口臭測定士、ドッグフード・テスター、砂の城作り指導者…本書には見たことも聞いたこともない職業人が次々と登場する。それでも「彼らは自分の仕事を愛している」と著者はいう。本の最後を飾るのは「オナラの減少下着開発家」。世界中で1万5000セットを売り上げるれっきとしたビジネスであり、「成功のにおいはいたるところにあるのだ」。
  • セカンドの哲学

    『二塁手論 現代野球で最も複雑で難しいポジション』
    井口資仁/幻冬舎新書/756円

    野球のなかでは一見、地味に思えるセカンドというポジションだが、本書を読むと、その印象はガラリと変わる。井口選手に言わせれば、花形と思われているショートよりも「身体の使い方という意味で言えば、セカンドの方が遥かに複雑だった」。自分のポジションに対して、努力や研究を重ね、クオリティを高めていく。仕事に対する真摯な姿勢が伝わる隠れた名著だ。
  • 仕事はマンガに学べ

    『仕事マンガ!  52作品から学ぶキャリアデザイン』
    梅崎 修/ナカニシヤ出版/2310円

    『バンビ~ノ!』で一人前になるための「実戦」の大切さを語り、『THE3名様』では当世若者就業事情を考察する。52のマンガ作品を「仕事マンガ」という視点から紹介した本書は、さながらキャリアの博覧会だ。『土星マンション』や『団地ともお』など、狭義の職業コミック以外の作品を取り上げている点も本書の特徴。仕事に対する幅広い視野が獲得できるだろう。
“天職”はどこにある?

※フリーマガジンR17 「R17的ブックレビュー」より

斎藤哲也=文

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