「ねじれの発想力」で差をつけろ! 第7回

シャンプーとリンスを間違えない方

2013.04.04 THU


花王が「ギザギザ付きシャンプー容器」の第1号を発売したのは1991年10月。それ以降、現在まですべてのシャンプー製品に継承されている 写真撮影:高嶋健夫/商品提供:花王
「変だな、このシャンプーなんで泡立たないんだろう。あれっ、間違えてリンスをつけちゃってた!」

髪を洗う時、1度や2度はこんな失敗をした経験があるのでは……。どのメーカーの製品でも、同じブランドのシャンプーとリンス(コンディショナー)は同じような色・形のボトルに入っているから、よく確かめないとこんなふうに取り違えてしまうことになる。

でも、もう大丈夫! 意外に知られていないのだけれど、実はシャンプーとリンスを間違えずに使う方法があるのだ。どうやるかというと、使う時に「容器を触ってみる」こと。シャンプー容器には、側面に「ギザギザ」状のきざみが浮き彫り加工されている。一方のリンスにはそれがない。だから、容器を触れば、手触りの違いで簡単に区別できるというわけ。

この識別方法、今から21年も前に花王が開発した。それ以前、同社の消費者相談窓口には「使う順番を間違えて困る」「小さい表示しかないのでわかりにくい。なんとかして!」といったユーザーからの要望が毎年数件ではあるが必ず寄せられていたという。特に困っていたのが、ラベルの表示が見えない目の不自由な人たち。そこで「これはなんとかしなければ」と解決方法の開発に乗り出し、容器の形を変えたり、材質を違えたりと100以上の試作品を作ってはモニターによる検証テストを繰り返し、2年以上かけてこの「ギザギザ付き容器」を考案した。

現在では、この識別方法は日本化粧品工業連合会の業界標準になっていて、旅行に携帯するミニボトルからお徳用サイズの大型ボトルまで、花王だけでなく大半のメーカーのシャンプー・リンスに採用されている(一部、ポンプの上部などに付いているものもある)。

これを知っていると、目の不自由な人ばかりでなく、誰にとってもとても便利。だって、お風呂に入る時は、誰でもメガネやコンタクトレンズを外すし、そもそも浴室は湯気がこもって視界が悪い。それより何より、髪を洗う時は目をつぶっているわけだから!

人間は情報の8割以上を「視覚」から得ているといわれる。その次に頼っているのが「聴覚」。要するに、普段はもっぱら目と耳から情報を獲得していることになる。けれども、人には「五感」、すなわち視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という様々な感覚が備わっている。ギザギザ付き容器の開発者は試行錯誤を重ねるなかでそのことに気づき、そこから、目の代わりに“手(指)で見分ける”という秀逸な識別方法を編み出したのだ。

手触りによる識別方法は、他にもたくさん実用化されている。電源スイッチの「on」やキーボードの「F」と「J」の上に付いた小さな凸点、「Suica(スイカ)」や「PASMO(パスモ)」といったICカードに付いた切り欠き(凹み)などが代表例。身の回りにあるモノや機械に「なにやら怪しげな凹凸が付いているぞ!」と気づいたら、どんな意味があるか考えてみよう。「ねじれの発想力」を磨く格好のトレーニングになるはずだから。
(高嶋健夫)

※「ねじれの発想力」とは…
難題への対応を迫られる場面で、一見すると無関係に思われる事象を結びつけ“あさっての方向”から解決策を考え出す発想力のこと。「ねじれの位置」にある2本の直線が最接近する1点で、高速道路のジャンクションで路線を乗り換えるように、大胆かつ柔軟に発想を切り替えるのが成功のコツ。

※この記事は2012年4月に取材・掲載した記事です

  • 著者プロフィール

    高嶋健夫(たかしま・たけお) 本屋のせがれに生まれ、新聞記者、雑誌記者兼編集者、書籍編集者をひと渡り経験して、現在はビジネス分野を専門とするフリージャーナリスト。R25・35世代と比較しながら団塊世代の攻略法を説いた『R60マーケティング』(日本経済新聞出版社)など著書多数

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