ヒットの舞台裏

市場調査0。キングジムの開発戦術

2013.07.04 THU


株式会社キングジム www.kingjim.co.jp 1927年、切り抜き式人名簿を販売する「名鑑堂」として創業。1961年に社名をキングジムに変更し、オフィス用ファイル「キングファイル」で急成長を遂げる。現在はファイルのみならず、「テプラ」や「ポメラ」といったデジタル文具、デジタルとアナログを組み合わせた“デジアナ文具”「ショットノート」など、幅広い商品を取り扱う。
最近、ビジネスマンの仕事をサポートしてくれる便利なアイデア文具が増えている。特に熱いのがキングジムの「デジタル文具」だ。テキスト入力のみに特化したデジタルメモ「ポメラ」(2008年発売)は累計25万台、手書きメモをデジタル化して管理できるショットノート(2011年発売)は累計200万冊を売り上げるなど、いずれも当初の販売目標を遥かに上回る大ヒットを記録した(2013年5月時点)。

同社の商品開発のアプローチは独特だ。まず、商品を作る際に欠かせないはずの市場調査を一切行わない。

「初めて世に出すものに対して、コストをかけて市場調査しても本当にヒットするかは分かりません。弊社は社長からして『10回空振りしても1回ホームランを打てばいい』という方針ですから、他社では二の足を踏むようなニッチな商品でも『とりあえず出してみよう』となるんです」

こう語るのは開発本部の亀田登信副本部長。たとえばポメラはその典型。高機能モバイルギア全盛の時代、“メモ機能のみのテキストエディタ”というコンセプトに対し、社内の反応は薄かったという。開発者の立石幸士氏は、当時をこう振り返る。

「役員へのプレゼンでも15人中14人は無反応。ただ、1人だけ『いくらでもいいから欲しい』と言う人がいて、なんとかGOが出ました。開発中にもやはりメール機能くらいつけた方がいいんじゃないかという声は出ましたが、それではこの商品の個性が死んでしまう。万人に受け入れられなくても、一部のユーザーに深く刺さるものを作ることが重要だと考えていました」(立石氏)

アイデアをすぐメモできる起動の速さ、乾電池2本で20時間以上稼働など、あくまで“メモ帳”としての快適性を追求。最後まで当初の信念を押し通した結果、ポメラは潜在的な需要を見事に掘り起こしてみせた。

この成功体験は全社的な開発マインドを上げ、若い社員のやる気を喚起する。立石氏の後輩である遠藤 慎氏も刺激を受けたひとりだ。

「ポメラの成功を近くで見ていて、自分も! という気持ちになりましたね。その後、開発からデザイン課に異動になったのですが、他部署の若手を集めて新商品のアイデア会議を開いたりして、企画はずっと温めていました」(遠藤氏)

“お茶会ミーティング”と名付けられたこの会議から生まれたのがショットノートだ。デザイン課所属のまま、課の垣根を越えて商品化にこぎつけたという。

「アイデアが良ければ企画の出所は関係ない。大事なのはキングジムがいいものを出すことです」(亀田氏)

セオリーにとらわれないこの柔軟性こそが、次々とヒットを生み出す最大の秘訣かもしれない。

榎並紀行(やじろべえ)=取材・文

取材協力・関連リンク

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト