「ねじれの発想力」で差をつけろ! 第3回

男子トイレに思いがけない感謝の辞

2014.03.07 FRI


公衆トイレでたまに見かけるこんな標語にも、「ねじれの発想力」による“深謀遠慮”が隠れていた!? 写真提供/PIXTA
“あさっての方向”から難題を解決する「ねじれの発想力」。今回は「公共トイレ」のお話。淑女の皆様にはおわかりにくいとは思うが、男性トイレの小用の便器(いわゆる朝顔)の前にマナー標語を書いた小さなプレートが貼ってあることがある。

一番よく見かけるオーソドックスなものは、こんなタイプ。

「次の人が気持ち良く使えるように、トイレは綺麗に使いましょう」

ごもっとも、異議なし。きっとトイレを汚す不心得者があまりにも多いんで、たまりかねてこんな言葉を掲げているんだろうと想像できるし、毎日清掃する人たちのご苦労にはただただ頭が下がるばかり。

でもねぇ、こんな当たり前のことを今さら表示されても、マナー標語としてのインパクトはちと弱い。普段から気をつけている人たちはこんなこと言われなくても気をつけているわけだし、マナーなどお構いなしの人間はいくら注意したって気にも留めないだろうから、とても“抑止効果”があるとは思えない。

これよりは効果がありそうなのが、次のようなタイプ。これも割とよく見かける。

「もう1歩前へ!」

ズバッと剛速球を投げ込まれたようで、かなり強烈。確かに酔っ払ったオヤジなんかがそそうしちゃうのは、たいていの場合、“もう1歩の踏み込み”が足りないからで、思わずドキッとする人は多いはず。

とはいえ、頭ごなしに怒られているようでもあり、「何が悲しくって、大のおとながこんな注意を受けなきゃならないんだ!」って反発したい気持ちもわいてくる。だって、圧倒的多数の人はマナーをわきまえた良識ある利用者なんだから。

そこで(だろうと思ってるんだけど)登場してきたのが、こんなタイプ。

「いつも綺麗に使っていただき、有難うございます」

なんのこっちゃ! いきなりお礼を言われても、俺、このトイレを使うの初めてだし……。これって「ほめ殺し」ってやつ? 意表を突かれて一瞬そんなふうにとまどうものの、「ありがとう」と言われて悪い気がする人はいないから、結果的にいつにも増して気をつけてトイレを利用させてもらうことになる。それが人情というモノ。

これ、「ねじれの発想力」が生んだマナー標語の傑作だと思う。“発想転換の公式”に当てはめて解説してみよう。まずは「綺麗に使いましょう」と優しく丁寧に呼びかける。これは「正面突破の発想」だ。それでも汚す人が減らない場合は、発想を逆転して「もう1歩前へ!」と一転、強い調子で警告する。ここまでやってもなお改善しないなら、いっそ相手の機先を制して「前もってお礼を言っちゃえば、かえって注意してくれるようになるんじゃない?」という考えに至るのだ。

それで思い出したのが、山本五十六・連合艦隊司令長官の有名な言葉。

「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」

今も多くの企業経営者が「人材育成の要諦」として心に留め置いている名言だが、「綺麗に使っていただきありがとう」の標語を考えついた人も人情の機微に通じた苦労人なんだろうな、と心密かに敬意を表する次第であります。
(高嶋健夫)

※「ねじれの発想力」とは?
難題への対応を迫られる場面で、一見すると無関係に思われる事象を結びつけ“あさっての方向”から解決策を考え出す発想力のこと。「ねじれの位置」にある2本の直線が最接近する1点で、高速道路のジャンクションで路線を乗り換えるように、大胆かつ柔軟に発想を切り替えるのが成功のコツ。

※この記事は2012年3月に取材・掲載した記事です

  • 著者プロフィール

    高嶋健夫(たかしま・たけお) 本屋のせがれに生まれ、新聞記者、雑誌記者兼編集者、書籍編集者をひと渡り経験して、現在はビジネス分野を専門とするフリージャーナリスト。R25・35世代と比較しながら団塊世代の攻略法を説いた『R60マーケティング』(日本経済新聞出版社)など著書多数

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