「ねじれの発想力」で差をつけろ! 第4回

なぜ?一塁走者は手袋を握るワケ

2014.03.17 MON


野球の試合でよく見る仕草にも、無意識に訴えかける「ねじれの発想」が隠れている? 写真提供/PIXTA
野球中継を見ていて、ヒットや四球で出塁したランナーが手袋を握りしめてリードを取っていることに気づいた人は多いだろう。今では当たり前の風景になっているが、20年くらい前から一気に広まったように記憶している。初めて見た当時、「何これ?」と怪訝に思って、大手スポーツ紙でプロ野球担当記者をしていた高校時代の友人に聞いてみたことがある。

「あれって、何かのゲンかつぎ?」

「違う違う。あれはね、指を怪我しないようにするためなの」

「???」

「要するに、二塁に滑り込んだ時に不用意に手を広げてベースタッチしたりすると、勢い余ってベースにぶつけて突き指したり、野手にスパイクされて大けがしたりする危険性があるでしょ。指は野球選手の生命線。指を怪我したらバットも握れないし、投球も捕球もできなくなるでしょ。その大切な指を守るために考え出された工夫なの、わかる?」

「???」

「だからさぁ、手袋を握ると『グー』になるでしょ。何も持っていないと『パー』の状態でベースタッチに行くことになるでしょ。『パー』よりは『グー』のほうが指を守れるよねぇ。つまり、手袋を握って『グー』を作っておけば、それだけ怪我をするリスクを小さくできるじゃない、わかる?」

「なんとなくわかってきた。危険を感じたハリネズミが全身のハリを総毛立たせて身構えるのと同じような理屈だな」

「う~ん、まぁちょっと違うけど、そのような要素もあるんだろうな」

この「手袋握りしめ作戦」、誰がいつごろから始めたのかについては諸説入り乱れていて定かではないが、どうやら大リーグで始まったものらしい。それにしても、これってスゴイ「ねじれの発想力」だと思う。

だって、「指を怪我しないように」なんてどんな選手にもわかり切った基本中の基本的注意事項。「滑り込む時には無防備に手を開くな!」なんてことも、いちいちコーチに注意されなくたって十二分に意識しているはず。ところが、いざゲームになると、闘争本能が先に立ち、怪我をすることなんか忘れて、とっさに手を開いてベースを抱え込みにいっちゃったりする。そりゃ、そうでしょう。ランナーにとってはまさに「生きるか死ぬか」の瀬戸際なんだから。こればかりはいくら理屈を説いても、防ぎようがない。

そこで、誰が思いついたか知らないけれど、「どんなに意識しようとしても無理だったら、いっそ無意識に働きかけたほうが効果的なのでは?」と発想をねじったのだ。人間は手でモノを握っていると、特別に意識しなくたって、落とさないようにずっと握り続ける。赤ちゃんだって、大人が指を出すとちっちゃなお手々でしっかりと握って放さないくらいだから。つまり、手袋という小道具を使ってこの「無意識の力」を引き出し、制御しきれない闘争本能という無意識の力と対峙させる──なんと見事なフロイト的ソリューションではありませんか! 

スポーツの世界では、ドギモを抜くような革命的な新技術、新戦法が登場することがある。陸上ハイジャンプの「背面跳び」、水泳の「バサロ泳法」、スキージャンプの「V字飛行」、バレーボールの「時間差」や「一人時間差」……。アスリートやコーチたちが必死に研鑽を積み重ねて編み出したこれらの技術・戦法の背景にも、きっと従来の常識や固定観念にとらわれない数々の「ねじれの発想力」が潜んでいるに違いない。
(高嶋健夫)

※「ねじれの発想力」とは?
難題への対応を迫られる場面で、一見すると無関係に思われる事象を結びつけ“あさっての方向”から解決策を考え出す発想力のこと。「ねじれの位置」にある2本の直線が最接近する1点で、高速道路のジャンクションで路線を乗り換えるように、大胆かつ柔軟に発想を切り替えるのが成功のコツ。

※この記事は2012年3月に取材・掲載した記事です

  • 著者プロフィール

    高嶋健夫(たかしま・たけお) 本屋のせがれに生まれ、新聞記者、雑誌記者兼編集者、書籍編集者をひと渡り経験して、現在はビジネス分野を専門とするフリージャーナリスト。R25・35世代と比較しながら団塊世代の攻略法を説いた『R60マーケティング』(日本経済新聞出版社)など著書多数

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