「ねじれの発想力」で差をつけろ! 第6回

電気ポットが強める親子の絆

2014.03.28 FRI


「i-PoT」は一見ありふれた電気ポットだが、給湯ボタンを押すだけで“元気メール”を送信してくれる見守り機能が付いている 写真提供/象印マホービン
故郷の実家で暮らす高齢の親が元気でいるか、いつも心配。そうはいっても、毎日わざわざ電話するのもおっくうだし、忙しい時にはかけられないこともある。親の方だって、用もないのに毎日電話されては監視されているみたいで気分悪いだろうし、気まずい空気になっちゃうのも困るしなぁ……。何かうまい方法はないだろうか?

そんな悩みを解決してくれる、手間いらずの「高齢者見守りサービス」がある。遠くで暮らす家族に成り代わって親が元気かどうかをチェックしてくれるのは、なんと電気ポット! 象印マホービンの見守り機能付き電気ポット「i-PoT(アイポット)」がそれだ。

どういうことかというと、見た目はごくフツーの電気ポットながら無線通信機能が内蔵されていて、「給湯」ボタンを押すと、その情報がインターネット回線(NTTドコモのFOMA)を通じてシステムセンターに自動送信され、そこからあらかじめ指定しておいたアドレスに1日2回メールで使用状況を通知する仕組みになっているのだ。名付けて「みまもりほっとライン」。

ひとり暮らしの若い人などを除けば、どこの家庭でも朝起きて、家族の誰かが最初にやるのは「お湯を沸かす」こと。だから、お湯を沸かせば、それは何より確かな「元気でいる証拠」になる。つまり、「i-PoT」はお湯を沸かすという日常のありふれた生活習慣を、高齢者が元気かどうかを確認する“定点観測”に変えちゃったのだ。これなら、わざわざ専用の見守り装置をセットしたり、毎日電話をしたり・させたり、近所の人に世話を頼んだりしなくても済むから、抵抗感や心理的負担なく気軽に利用することができるというわけ。

こう説明すると、きわめて理路整然としていて「なるほど、合理的だよね」とすんなり納得できると思う。でも、実際にこの仕組みを考え出すには、かなりの「ねじれの発想力」が必要だ。だって、「お湯を沸かす」ことと「お年寄りを見守る」ことは直接的には全く無関係な“異次元の事象”。コロンブスの卵ほどの発想の飛躍がなければ、そう簡単に結び付く代物ではない。いったい誰がこんなアイデアを思いついたんだろう?

そこで、象印マホービンの新矢浩司・特機企画室マネージャーに尋ねると、「実は当社の社員ではなく、東京・池袋で開業されている網野先生というお医者さんなんです」と教えてくれた。きっかけは、今でいう孤立死。1996年3月、地元・池袋で障害のある男性と高齢の母親が亡くなり、1カ月経ってから発見されたという悲しい出来事が発生。そこから「どの家庭にもある日用品を使って、お年寄りを見守る仕組みは作れないだろうか?」と相談してきたのだそうだ。この網野先生、高齢者の生活習慣や気持ちを熟知し、いつも地域の人たちに寄り添っている名医に違いない。

同社によると、「i-PoT」の契約件数は現在、全国で約3,800件(利用はレンタル制)。なかには「i-PoTを使うようになってから、親が毎朝『これからスイッチを入れるよ』と電話してくるようになり、かえって親子の会話が多くなった」というユーザーもいるとか。う~ん、使い方としては本末転倒というか、もう一段階「ねじっちゃった」印象もあるけど、これはこれで「ITが強めた親子の絆」というちょっといい話ではある。

余談になるが、「i-PoT」という商品名、どう考えても米アップルの携帯音楽プレーヤー「iPod」のパクリだろうと思うよね。で、取材の際、少し意地悪だと思いつつも質問したところ、新矢さんは苦笑しながら「皆さん、そうおっしゃるんですけど、実はウチの方が半年以上先に発売してるんですよ。商標登録もしてあります」。げっ!? 調べてみると、確かに「i-PoT」の発売は2001年3月、一方の「iPod」はその年の11月。独創的な機能だけでなく、ネーミングの点でも最先端を行っていたんですね、さすが!
(高嶋健夫)

※「ねじれの発想力」とは?
難題への対応を迫られる場面で、一見すると無関係に思われる事象を結びつけ“あさっての方向”から解決策を考え出す発想力のこと。「ねじれの位置」にある2本の直線が最接近する1点で、高速道路のジャンクションで路線を乗り換えるように、大胆かつ柔軟に発想を切り替えるのが成功のコツ。

※この記事は2012年3月に取材・掲載した記事です

  • 著者プロフィール

    高嶋健夫(たかしま・たけお) 本屋のせがれに生まれ、新聞記者、雑誌記者兼編集者、書籍編集者をひと渡り経験して、現在はビジネス分野を専門とするフリージャーナリスト。R25・35世代と比較しながら団塊世代の攻略法を説いた『R60マーケティング』(日本経済新聞出版社)など著書多数

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