斎藤哲也の読んでるつもり?

技あり! な読ませる歴史本の秘密

2014.04.18 FRI

BOOKレビュー


『仁義なきキリスト教史』架神恭介/筑摩書房/1620円 桜井としき= 撮影
■キリスト教の歴史にはやくざがよく似合う

歴史小説は数多くあれど、鬼才・架神恭介の『仁義なきキリスト教史』ほどぶっ飛んだブツにはなかなかお目にかかれない。なにせ本書は、キリスト教2000年の歴史を、あろうことかやくざ抗争史に見立てて描き出してしまうのである。

文体もまんま『仁義なき戦い』のノリ。「おどりゃこの腐り外道が! そぎゃあなことして許される思うとるンかッ」「イエスのヤサと面ァ、こいつが案内してくれるわい。のう……」と、いまにもドンパチが始まりそうなきな臭さがページのあちこちから漂ってくるし、凄惨な暴力シーンも待ち受けている。

一見、荒唐無稽な翻案に思えるが、著者もあとがきで記しているように、キリスト教史は罵倒や内輪揉め、暴力、派閥抗争に満ちていて、やくざとの相性は抜群。とくにキリスト教を伝道しまくったパウロや、カトリックを批判して宗教改革を始めたルターの極道ぶりは際立っている。

エンタメ作品であるゆえ演出や脚色はあるものの、史実に対してもできるかぎり誠実であろうとしており、参考文献を見れば、著者は相当な文献を咀嚼して、この怪作を書き上げたことがうかがい知れる。おそらく多くの人は、本書を読むことで、聖書を実際に読んでみたくなるんじゃないだろうか。

■作者の状況や思考が歴史に差し込まれる

革新的な歴史語りという点では、昨年発売されて、大いに話題をさらった『HHhH』も外せない。ナチスのゲシュタポ長官ハイドリヒ暗殺事件と、その後にプラハを襲った悲劇を描いたこの小説は、物語のなかに「歴史をどう語るべきか」という作者の思考や時代考証を差し込んでいくという離れ業をやってのける。たとえば「翌日、僕はその文章を削った。そうするとまずいことに空白のようなものができて、具合が悪くなった」と、文章を推敲するプロセスまでも、作者は小説のなかに書き込んでいくのだ。

したがって、読み手のほうも、物語の世界だけでなく、それを書く作者の状況や感情、息遣いを感受しながら読み進めることになる。こんな読書体験は滅多に味わえるものじゃない。

ただし、小説ではないが『HHhH』と語り口が通底している傑作歴史ギャグマンガが日本にもある。みなもと太郎の『風雲児たち』だ。本作もまた、作者が時折コマの間に顔を出して、描写のネタを明かしたり、資料について言及したり、物語にツッコんだりしているし、膨大な資料を参照する姿勢まで『HHhH』と共通している。

関ヶ原の戦いを描いた連載開始からまもなく35年! 「幕末編」最新巻では1860年の遣米使節団(の帰国)まで辿り着いた。日本が誇る、空前絶後の歴史物語である。

(斎藤哲也)

<書籍紹介>
●『仁義なきキリスト教史』架神恭介/筑摩書房/1620円
●『HHhH プラハ、1942年』著:ローラン・ビネ、訳:高橋 啓/東京創元社/2808円
●『風雲児たち 幕末編』1~23巻 みなもと太郎/リイド社/各566~596円

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