最近、なに読んだ?

長沼毅「人類進化の方向を占う本」

2014.11.07 FRI

BOOKレビュー


『一万年の進化爆発 文明が進化を加速した』グレゴリー・コクラン、ヘンリー・ハーペンディング/日経BP社/2376円 ヒトはどのような自然淘汰を経て今に至ったのか? 最新の分子遺伝学の知見を踏まえ、現生人類の進化に「文化」や「文明」がどう介在してきたのかを解き明かす、壮大なサイエンス・ノンフィクション。 (桜井としき=撮影)
南極から砂漠、深海まで…地球の最果てを歩き回り、極限環境の生物を研究してきた生物学者・長沼 毅さん。彼が選んだ1冊は、地球生命史上もっとも特殊な生物、ホモ・サピエンスの進化の謎に迫る大著だった――

──『一万年の進化爆発』を読んで、ヒトの見方が変わりました。

面白いでしょう。生命を研究するうえでも、私の興味の中心は常に人間なんです。ヒトがどうやって今に至り、将来どうなっていくのか。

──まさにこの本のテーマですね。

そう。最初は当たり障りのない生物進化の概略や現生人類の起源が書いてあるんですよね。遺伝子の突然変異によって髪や肌の色、病気への耐性などの変化が現れ、生存競争に優劣が生じるっていうような。

──そして、たまたま自然界に適応したものが生き残る、と。

それが自然選択(自然淘汰)による進化です。この本の肝は、ここ数万年の間にその選択圧がずいぶん様変わりして、人類の文明自体が生き残るものを選択する圧力になり、進化を加速させているという話。

──最初は突飛だと思いましたが、人間が生きる環境が自然から文明社会に変わったわけですから…。

そこで行われる選択は、突き詰めると人為的なものですよね。昔は神というデザイナーが生物を創ったと信じられていたけれど、ダーウィンが神ではなく自然淘汰によるものだと喝破した。そして最近になって我々は、自然淘汰に人間が介在し始めたことに気づいたんです。

──ほかと比べてIQが高い人種の話もありましたが、とくに近世になってからの加速度がすごい。

19世紀以降、社会が急速に知能を求め始めたからです。社会システムが複雑になるにしたがい、事務作業から国家統治まで複雑なことをできる人が要求されるようになった。極端に言えば、我々がこの先どんな社会をつくっていくかによって選択圧が変わり、遺伝的進化の方向性までもが左右されるでしょう。

──様々な生物を見てきた長沼さんにとっても、やっぱり人間は特殊ですか?

そりゃそうですよ。なぜなら、人間は自然界というシステムの歯車に過ぎないのに、宇宙や生命のことを考える。歯車が全体のことを考え始めるなんて、生命史上初めてのとんでもない事件ですから。


【長沼 毅の読み方】

▼少年漫画の科学者がかっこよかった

「『鉄腕アトム』などの漫画で読んだ科学者はかっこよかったですね。だからというわけじゃないけど研究者の道へ進み、宇宙飛行士の試験を受けたり(二次選考で野口聡一さんに敗れた)、生命を研究したりするようになりました」

▼動物と植物は、種類が多すぎるから読まなかった

「子供の頃に読んだのは、おもに百科事典。とくに天文・宇宙・地理・歴史あたりの項目です。ほとんど読まなかったのは動物と植物。あれは種類が多いから面倒くさくて。私は『生命とは何ぞや?』というたったひとつの原理が欲しいんです」

▼ 1リットルの脳のなかで宇宙全体を考える

「科学書のなかでも宇宙の本が好きなんです。生命は宇宙のほんの一部だし、人間の脳なんてせいぜい千数百グラムしかないのに、宇宙全体を考えられるのがすごいと思う。だって、たった1リットルの脳のなかに全宇宙が入っているんですよ?」

(宇野浩志=取材・文)

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