最近、なに読んだ?

二村ヒトシ「今読んでほしい恋愛書」

2014.11.21 FRI

BOOKレビュー


『恋愛論 完全版』橋本 治/イースト・プレス/810円 原書は1986年刊。他に類を見ない文体と切り口で数多くの評論や小説を執筆し続ける作家・橋本 治による名著が、2度目の復刊。ゲイである著者の恋愛体験を語った講演をもとに、時代を超える本質的な恋愛論が繰り広げられる。 (桜井としき=撮影)
痴女モノのような“女性が強い”AVを撮りつづけて20年。男女の性愛を心身両面から探究し、書いた著作はロングセラーに…。そんな二村ヒトシさんが「今の若者にこそ読まれるべき本」と猛プッシュするのは、1980年代に書かれた恋愛論の名著だ。

──二村さんは、橋本 治さんの『恋愛論』に多大な影響を受けたとか。

ええ。でも実は、自分で本を出すまでその自覚はありませんでした。学生時代に読んだときは面白かったし考えるきっかけにもなったけれど、そこに答えがあるとは思わなかったんです。でも、僕の本を読んだ知人から「あれは橋本 治のパクリじゃないか」と言われて読み返したら、まったく違うアプローチでありながら、僕が書いたようなことがより明晰に語られていました。

──とくに共感したポイントは?

みんな恋愛というのはすごくいいものだと思い込んでいるけれど、相手に依存する恋というのは「自分が欠けている部分を、他人を求める気持ちで埋めようとすること」であり、僕は決していいものではないと思っているんです。

──橋本さんも恋愛は“社会的にはいけないこと”だと書いていますね。

社会というのは人と人が物事をうまく進めるためにつくられていますから、そもそも個人を圧迫するものです。普通はそういうことに気づかず暮らしているけれど、恋愛という光が差すことによって、自分が生きてきた現実の闇に気づいてしまう。恋愛っていうのは不倫や同性愛だから差別されるんじゃなく、まわりに祝福されようが結婚しようが、最初に好きっていう感情でくっついた以上、恐ろしいことなんです。

──陶酔でもしていなければ、しようと思ってできるものじゃない。

そうそう。「男はみんな気持ち悪くて、女はみんなこじらせている」というのが僕の持論なんですが、それはどちらも自意識の問題です。橋本さんも言うように「恋愛できない」と悩んでいる人はそのままでいい。恋愛する必要がないだけなんですから。

──この恋愛論は、30年経った今でも十分共感されそうですね。

それが橋本 治という作家の異常なところです。彼は時代によらず本質的な意味を追求するから、30年を経た文章もまるで今書かれた言葉のように読める。本当に今の若者にこそ、手に取ってほしい本ですね。


【二村ヒトシの読み方】

▼ひねくれた文芸書ばかりを読んで育った

「いわゆる古典文学みたいな教養としての読書は全然していませんね。ただ、星新一、筒井康隆、橋本 治など、社会学や心理学的な要素の入った日本のSF小説やエッセイは読み漁りました。物事を斜めから見るのが好きなんです」

▼もっとも実用的な恋愛本は、自分を見つめさせる本

「モテるための本やうまくお金を稼げる本が毎月のように出続けているってことは、決定版はないってこと。じゃあ何が一番実用的な本かというと、読んだ人が自分はなぜうまくいかないのかと考えさせられる本だと思うんですよね」

▼今の自分を知るためには、昔読んだ本を読み返すといい

「10代の頃に読んだ本を30年ぶりに読むと、こちらからの眼差しも本が訴えかけてくることも全然違うんです。若い頃の読みが浅いということではないけれど、初めて読むようなことが書いてある。読書体験ってすごいですよ」

(宇野浩志=取材・文)

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