残業と利益には相関なし!?

「残業メタボ上司」4つの誤解

2015.02.16 MON


「人事のため時短推進説得マニュアル」(リクルートワークス研究所)より マニュアルは以下の「取材協力・関連リンク」よりダウンロードできる。
会社員の「長時間労働」がいよいよ待ったなしの対策を迫られている。政府が昨年6月に閣議決定した「『日本再興戦略』改訂2014」でも「働き過ぎ防止のための取組強化」が盛り込まれ、国を挙げて是正に取り組む姿勢が浮き彫りになった。

なぜ「長時間労働撲滅」が“再興戦略”になるのか? なぜ「今」なのか? 背景には労働力人口の減少がある。内閣府によれば、現状のままだと労働力人口は2030年に15%、2060年には42%も減ることが予測されている(内閣府「人口減少と日本の未来の選択」より)。 国力を――ひいては一人一人の生活レベルを――維持するには、女性や高齢者、外国人労働力にも今以上に働いてもらい、少しでも減少幅を抑えるしかない。

だが、フルタイムで働く男性雇用者の平均労働時間は週44.4時間。うち週60時間以上の人が16%に及ぶ(総務省「労働力調査」2013年版より)。週5日勤務とすれば、1日あたり12時間超。過労死ラインを超えたこんな就業時間が前提では、子育て中の女性や高齢者が働くのは困難だ。多様な立場の人が働きやすい職場環境に転換しなければ、労働力人口の減少を食い止めることはできない。生産性を上げ、長時間労働せずに“成果”を挙げることが求められているのだ。

とはいえ「理屈はわかるけど、現場はそんなこと言っていられない。誰も好き好んで長時間労働しているわけじゃないけど、そうしないと仕事が終わらないのも現実」と冷ややかな目でみる会社員は少なくない。とりわけ会社から「成果」を迫られる管理職クラスには懐疑的な声も目立つ。リクルートワークス研究所の主任研究員・石原直子氏も、労働時間についての研究をする中でそうした声を散々聞かされてきた一人だ。

「確かにそういうビジネスマンは多いですが、実は誤解による面が大きいんです。長く働くことを良しとする企業文化のなかで育ってきたがゆえに、思い込みが抜けないんですね。特に目立つ誤解が4つあります」

同研究所は先日、「人事のための時短推進説得マニュアル」「課長のための時短推進始動マニュアル」を発表した。これはそうした誤解を解きほぐし、労働時間短縮に取り組む企業の背中を後押しするためのマニュアルだ。石原氏が指摘する「長時間労働をめぐる4つの誤解(と真相)」について、同マニュアルを元に紹介していただいた。

●誤解1:働けば働くほど利益が上がる
→真相:労働時間と企業の業績は無関係
「約600社の月平均残業時間と売上高利益率を分析したところ、何の相関関係もないことが明らかになりました。かつては『時間をかけるほど成果が上がる』タイプの産業が多かったかもしれませんが、今や〝成果の方程式”は様変わりしています。高い成果を生み出すカギは他社の真似できない『独創性』や『発想力』にあり、それを形にする人的ネットワークやフットワークが重要になります。しかし残業続きの毎日では、創造性はもちろん、社外と交流する時間や好奇心の赴くままに行動する余裕も生まれてきません。成果を上げなければならないからこそ、長時間労働の撲滅が必要なのです」(石原氏)

●誤解2:目標達成には長時間労働が必要
→真相:残業を前提に仕事をしている部署は業績が悪い
「われわれの調査では、残業を前提にした部署はむしろ業績が悪いことが判明しています。『まったく残業前提ではない上司』の部署のうち『業績が悪い』のは21.9%だったのに対し、『常に残業前提で仕事の指示をする上司』の部署では37.9%に上りました。『時間』は希少な経営資源であり、生産性を意識することは業績向上に不可欠です」(同)

●誤解3:残業を命じても信頼関係があれば問題ない
→真相:残業を前提に仕事をふる上司は、部下から信頼されていない
「上司の中には『ウチの部署には残業を嫌がる部下なんて1人もいない。“労働時間が長い”と部下から不満が出るのは、上司が自分も一緒に頑張るという姿勢を見せないからだ』という人がいます。しかし我々の調査では、『常に残業前提で仕事の指示をする上司』に対しては『信頼関係を構築できていない』と答えた部下が43.7%に上りました。『まったく残業前提ではない上司』では同様の回答が20.6%にとどまったことを思えば、これは大きな差です。残業は当たり前だと思っている上司は、部下には嫌われているのです。信頼関係のない組織で成果が上がるはずもありません」(同)

●誤解4:ビジネスマンたるもの、忙しいほうが充実感を得られる
→真実:労働時間が長いほど、仕事満足度は低下する
「残業してたくさん仕事をこなすと貢献感や充実感を得られる…という人は確かにいます。しかしこれは一時的な現象であって、〝持続可能なモチベーション”にはなり得ません。我々の調査でも“労働時間が長いほど仕事への満足度は低い”ことがわかりました。たとえば週労働時間が35~40時間だと「仕事に満足している」が47.6%に上るものの、週労働時間が60時間を超えると、31.5%に低下します。いくら仕事が楽しくても、『仕事人間』になってしまっては、生活はもちろん仕事にも発展がありません。家庭、趣味、地域…などさまざまな場面での経験が仕事の質を高め、充実感に繋がるのです」(同)

石原氏によると、実は同様の議論はリクルート社内でも長年繰り返されてきたという。もともと「仕事好き」の多い社風だけに、労働時間マネジメントには現場の反発もあったとか。

「当社は『世の中の“不”を解消する』ことで社会に新しい機会を提供するというビジネスモデルをもっています。そのためには、社員一人一人が仕事以外でも様々な経験を積み、生活者の視点で世の中の“不”や“変化の兆し”を捉える必要があります。オフィスで机の前に座っているだけでは新しい事業の芽を見つけることはできないのです。」

労働時間マネジメントは、往々にしてそれ自体が目的化しがちだ。それどころか「人件費削減のため」と誤解されかねないリスクをはらむ。だからこそ『なんのための労働時間削減か?』という本質について、経営ボードがメッセージし続けることが重要と石原氏。研究の中で話を聞いた多くの会社でもそうしたプロセスを経て、徐々に従業員の理解が得られるようになってきたという。

「長時間労働を続けたほうがいい理由はどこにもありません。長時間労働撲滅は、経営者が先頭に立って取り組むべきこれからの“成長戦略”なんです」。

石原氏がそう語る通り、時代の潮目は大きく変わりつつある。この不可逆的変化にどう向き合うか? 企業のみならず、一人一人のビジネスパーソンにとっても、それが生き残りのカギになっていきそうだ。
(目黒 淳)

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