“個人”より“組織” での業務改善を!スマートワークの軌跡

「長時間労働」減らす意外な処方箋

2015.03.31 TUE


連合が実施した「労働時間に関する調査」によると、部下の業務量がオーバーしそうなときに「上司が適切なマネジメントを行っているとは思わない」という回答が4割近い。現状では“現場任せ”になっている様子がうかがえる。 yokotaro / Imasia(イメージア)
長時間労働をいかに改善するか?――ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティの意識が高まるなか、各企業が対策に本腰を入れつつある。重要な経営課題と位置付けて取り組む企業も少なくない。

だが、往々にして、部課長が「残業時間を減らそう!」と呼びかけるだけ、あるいは「残業が減らないのは仕事の効率が悪いからだ!」と部下を叱咤するだけで、実効性ある対策が取られないままになりがちだ。当然のことながら多くの場合、残業は減らず、現場のストレスが高じるだけ…なんてことになってしまう。必要なのは、「なぜ残業(長時間労働)が発生してしまうのか?」という原因分析と、「どうしたら残業(長時間労働)を減らせるのか?」という具体策の検討だろう。

そんな「原因と対策」にトップ自ら向き合い、成果を挙げている企業もある。そのひとつが、人材派遣大手のリクルートスタッフィングだ。同社は2013年1月から、社長の肝入りで「スマートワーク」というプロジェクトをスタート。「限られた時間内で、賢く・濃く・イキイキと働いて最大の成果を挙げる」ことを標榜し、働き方の改革に取り組んでいる。

いったいどんな対策を講じたのか? 成功事例と聞くと、“妙手”を期待したくなるが、同社の取り組みは“シンプルな打ち手”ばかり。真似しようと思えば他企業でも真似できるものばかりだ。ポイントは、“社長自身が本気になって、現場社員を本気にさせた”ことにある。

実際、同社では、画一的な“対策”は敢えて上から押し付けず、各論の“やり方”はプロジェクトメンバーたちに委ねている面も大きい。社長以下の経営陣が注力したのは、「スマートワーク」の狙いを現場に浸透させ、時間当たりの生産性を「評価」に反映させるなどの環境整備――いわばゲームの「ゴールとルール」を明確に示すことだ。「目指すべきゴールの意義に理解を得られれば、あとは現場が自走できる」というスタンスは、圧倒的な当事者意識を持つ現場への信頼感があればこそ、だろう。

もちろん、すぐに現場の理解が得られたわけではない。「最初はなんでこんなことやるんだろうと思った」(同社・中央ユニットリーダー・春木将平)という声もある通り、単なる「残業削減プロジェクト」と誤解する向きもあった。

「結果にコミットしたい人が多い会社だと思うので、そのための時間を短くすることに(スタッフ、クライアントの満足度が下がるのではないかと)抵抗感があった」(春木)という現場に対し、経営陣が粘り強く繰り返したのは、「スマートワークは単なる労働時間削減が目的ではない」という点。“短時間で成果を挙げられる組織”になり、空いた時間で各自が新たなインプットを増やして成長することで、スタッフ・クライアントへの提供価値も高める――それこそがスマートワークの“真の狙い”であることを1年かけて浸透させていったのだ。

一見、地道な土壌作りだが、“急がば回れ”とでも言うべきこの取り組みこそが、スマートワークを成功に導いた最大の要因かもしれない。事実、プロジェクトへの理解が高まるにつれ、単なる「時短テクニック」を超えた本質的な打ち手が現場から生まれていった。新宿ユニット(支社)で営業マネジャーを務める平山圭介の話からは、“現場発”のきめ細やかな打ち手の一端が垣間見える。

「生産性を上げるために『カエル(帰る)会議』を開き、“ムダな仕事”と“コアな仕事”をグループ内で見つめ直した。フォーマットの異なる受注書類を統一し、ミスを減らすためのチェックポイントを精査。17時半以降の会議はやめ、1時間以上の会議も原則やらない。今は時間内に終えられるようになったけど、以前は強制終了することもありました」

自グループのみならず、他グループと連携しての打ち手もある。グループ全体で“集中タイム”を設け、急ぎの要件以外の電話は、他グループの協力を得て折り返し対応にするのもひとつ。また、自グループだけが早く帰ると後ろめたさを感じてしまうこともあるため、グループ横断で「早帰りデー」を設け、イベントなどを行うこともあるという。前出の春木もこう語る。

「以前の育成の仕方には“失敗して学んでいく”みたいな部分もあったけど、今はそもそも“失敗を防ぐ”ことの重要性を意識するようになった」

こうして単なる時短を超えた“業務改善”の意識が“現場発”で全社に広がっていった。

もちろん、全社でルール化した仕掛けもある。22時以降の残業は原則禁止にし、どうしても必要な場合は「事前申請」を徹底。申請なしに22時を超えた場合は「事後報告書」が求められる。…というだけなら珍しくないが、ポイントは“申請の面倒くささ”と“上長を巻き込んだ仕組み”にある。申請書は手書きに限定し記入項目も多く、「書きたくない(=深夜残業したくない)」と思わせるうえ、本人のみならず、上長も書かねばならない。上長がその業務を適切であるか検証し、本人と共に改善策を考える機会を作るためだ。長時間労働が“個人の問題”ではなく“組織の課題”であることを認識している証だろう。

長時間労働は“個人の問題”に帰してしまうと、“仕事の効率を上げよ”という口先だけの号令になりがちだ。だが、それでは問題が解決しないことは、連合の「労働時間に関する調査」からもうかがえる。

20~59歳の雇用労働者を対象にした同調査によると、残業原因のTOP3は、「仕事を分担できるメンバーが少ないこと」(53.5%)、「残業をしなければ業務が処理しきれないほど、業務量が多いこと」(52.6%)、「職場のワーク・ライフ・バランスに対する意識が低いこと」(23.7%)。経営層の見方とは異なるかもしれないが、現場は「長時間労働」を構造的な問題と捉えていることがうかがえる。

実際、同調査で「どうすれば残業を減らすことができると思うか?」を尋ねたところ、「適正な人員配置」(55.6%)、「上司が部下の労働時間を適切にマネジメントする」(25.7%)、「職場のワーク・ライフ・バランスに対する意識が低いこと」(24.0%)…といった項目のほか、「意味のない会議やミーティングを減らすなど、仕事の進め方を変える」(22.4%)といった項目も挙がっている。現場が考えるこれらの“課題”に経営陣も向き合うことこそ、労働時間改善のカギ。リクルートスタッフィングの取り組みは、まさにそれを体現した取り組みといえそうだ。
(目黒 淳)

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