最近、なに読んだ?

町田康推薦!新進作家の芥川候補作

2015.08.28 FRI

BOOKレビュー


『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』 滝口悠生/新潮社/1512円(8月31日発売) 2001年の9月、大学生だった「私」は原付で東北を旅していた。2015年現在の「私」は、当時の感情や風景や音を思い返しながら記憶のなかの過去を綴っていく。時間を行き来しながら紡がれる青春小説。第153回芥川賞候補作。
三島由紀夫賞の選考委員を務める作家の町田 康さんは、前回の候補作のなかでとくに気になる作品があったという。その小説『愛と人生』の著者である新進作家・滝口悠生さんが、今月末に新刊を出す。町田さんは、この本をどう読んだのか?

──滝口悠生さんの小説を初めて読みましたが、面白いですね。

笑えたり、情けなかったり、哀しかったりするような、独特の雰囲気がありますよね。それに、小道具としてロックや音楽を使っている小説はたくさんあるんですけど、この『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』が画期的なのは、タイトルと内容が対をなしているというか、本当にそのものを小説にしていることやと思います。

──「そのもの」というと?

作中で、ジミヘンのフィードバック奏法について触れているところがありますよね。普通はエレクトリックギターの弦を鳴らして、ピックアップで振動を拾い、アンプで増幅してスピーカーから音を出す。そこで終わりなんです。でも、ジミヘンはスピーカーから出る音をもう一度ピックアップで拾って、ノイズを発生させます。この小説はそれと同じように、ある種のフィードバック文法といえるような手法を使って書かれていると思うんです。現在の自分が過去の出来事を書いているわけですが、書いた文章について「はたして本当にこうだっただろうか?」と考えて、またそのことを書く。

──なるほど。ジミヘンがスピーカーの音を演奏にフィードバックさせるように、書いた言葉をフィードバックさせているんですね。

ええ。過去を書いた言葉が現在に影響を及ぼし、その現在を書くことでまた過去の記述を変えていく。ループする文章の魅力があります。そういうフィードバックが過去と現在だけでなく、いろんなレベルでなされているのが素晴らしい。

──ギターを七輪に持ち替えて演奏するくだりなどは笑いながらするっと読んでしまいましたが、よく読めば実験的な仕掛けが隠されている。

するっと読めるのはこの作家のいいところやと思います。実験小説というと難しい感じがしますが、それを意識しなくても読めるように書いてある。多分それは小説として成功しているってことだし、作者の優れている部分じゃないですかね。


【町田 康の読み方】

▼小説はなんでもありで、もっとも自由な表現だと思う。

「こうでないといけないという制約が一切ないから純文学は面白いんだと思います。もちろん、最低限読んで意味が理解できる必要はあるかもしれないけど…なんか全然わからないっていう小説も、それはそれで面白かったりするし」

▼すごい作品に気づかず、埋もれさせるのはもったいない。

「僕が応援してもしなくても、書く人は書くし、書かない人は書かない。ただ、新人賞の選考委員をやる機会があれば、これは世に出すべき才能だという作品を絶対に取りこぼしてしまわないようには気をつけたいと思っています」

▼仕事で読むようになると、時間をかけて丁寧に読む癖がついた。

「小説ってぼーっと読んでいると、わかったような気になるんですよね。先へ進んでから『あれ?』ってなって、戻って読んだりする。書評や賞の選考をするときは読み違えがあってはならないから、注意深く読む癖がつきました」

(宇野浩志=取材・文)

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