新社会人を勇気づける“ビジネスエッセイ”

品田遊「仕事は自分との戦いだ」

2016.03.07 MON


イラスト:ソノダノア
壁に「今年の目標 ちゃっちゃとやる」と書いた紙が貼ってある。三年前の正月に書いたものだ。たぶん、来年も貼られているだろう。

僕はなにごともちゃっちゃとしたい。だが、ちゃっちゃとしようとしても、ちゃっちゃとできない。真面目だから、じっくり取り組んでしまうのだ。メールの返信だって丁寧にやるから長い時間が必要になる。「返信するぞ」と決意するまでに二時間、「お世話になっております」と入力するまでに一時間、内容を書きあげるまでに三分、送信ボタンを押すまでに二時間ほどかかる。合計五時間三分。ちょっと無駄な時間が多いような気がする。内容を書くのをやめて「お世話になっております」だけ送れば五時間で済むだろう。

「一度仕事に手をつけることができればもう半分は終わっている」という格言を聞いたことがある。でもこの格言は嘘だと思う。二回手をつければ仕事が全部終わったことになるのかといえば、まったくそんなことはないからだ。ともかく、仕事ほどやり始めるのが難しいものはないし、ネットサーフィンほどやめるのが難しいものはない。気がつくといつも余計なことに気を取られてしまう。

だが、生まれ持った性格はそう簡単に変えられない。自分は自分でコントロールするしかないのだ。仕事に集中するため、僕はさまざまな作戦を講じてきた。「三十分タイマーを設定する」という手を使ってみたことがある。始点と終点をはっきりさせれば集中できるだろうと考えたのである。しかし「トイレ中はタイマーを止める」というルールの裏をかき、トイレの中でスマホを見たりするようになってしまった。「ToDoリストの通知機能を使う」作戦は「重要な予定をToDoリストに登録しない」という手で打ち破られた。

これは自分との戦いだ。仕事をしなければという自分と、仕事から逃れたい自分。義務感と欲望のせめぎ合いは、いつも欲望が優勢である。しかも「義務感」側が講じる作戦の手の内は常に「欲望」側に筒抜けで、裏をかかれてしまう。誰か僕のインターネットを止めてくれ!

そんなとき、いいフリーソフトの存在を知った。URLを登録しておけば、オンにするだけでそのページが白紙化して見られなくなるのだ。さっそくダウンロードし、つい見てしまうサイト群を登録。「オン」に設定した。これで仕事に集中できる。今回の戦い、「義務感」の勝利だ。僕はさっそくメール返信作業を始めた。

ふと気づくと僕は、真っ白な画面をじっと見つめていた。作業を始めてから五分も経っていない。返信の文面は「お世話になっ」で止まっている。愕然とした。僕は無意識に、仕事をするよりも白いモニターを見つめる方を選んだのだ。

ちゃっちゃとしたい。


文:品田 遊(しなだ・ゆう)
ダ・ヴィンチ・恐山として2009年12月に始めたTwitterのネタポストで頭角を現し、漫画やトークショー、雑誌連載など幅広く活躍するマルチクリエイター。2015年に『止まりだしたら走らない』(リトル・モア/コルク)で小説家デビュー。

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