伝説のアナウンスが今も語り草 元ANAパイロットに聞く

雑談にもつかえる 「名物機長」スピーチの極意

2016.05.05 THU


高揚感とともに不安もあるのが空の旅。そんな気持ちをジョークで和ませてくれたら、やはり誰もがうれしいだろう 写真/PIXTA
宴席などでのスピーチ。差し障りのない定型文は無難だが、そこにちょっとしたジョークやユーモアを交えてこそ余裕ある大人という感じがする。だが、口下手、雑談下手の人にとってはそれが難しい…。

そこで、教えを乞うべく訪ねたのは山形和行さん。山形さんは元ANAのパイロットで、現役時代は独特のユーモアを交えた機内アナウンスを行っていた。その名調子に魅了された人も多く、ファンクラブまで存在していたという。うまいジョークのコツとは?

■必ず聞いてもらえるよう、最初にインパクトの強いフレーズを


「そもそも機長のアナウンスに熱心に耳を傾けている人は多くない。だから私の場合、最初に言うフレーズのインパクトにこだわっていました。たとえば『本日は世界一安全な翼、ANAをご利用いただき…』など、普通のパイロットはあまり使わない『世界一安全な』といった言葉ですね。お客様の耳を向かせると同時に、『ですから安心してご搭乗ください』という思いも込めています」(山形さん、以下同)

山形機長のアナウンスには、今も語り草となっているものがある。

“本日早朝、東の空を燃ゆるがごとくの紅に染めて、深紅の太陽がイエローダイヤモンドの輝きを放ちながら昇っておりました”

“できるだけ快適に飛行いたしますが、突然、天使のいたずらか、強く揺れることもございますので、座席ベルトはしっかりとお締めください”

詩的な表現はロマンチックで、機体の揺れを「天使のいたずら」にたとえるジョークはなんともスマートである。こうしたフレーズは、いつ、どのように考えているのだろうか?

■音楽、テレビからヒントを得て汎用性の高いフレーズを入手!


「音楽の歌詞がヒントになることが多いですね。たとえば松任谷由実さんの『ベルベット・イースター』という曲の中に『天使が降りて来そうなほど』というフレーズがあります。私のアナウンスで『天使が微笑みながら舞い降りてきそうなくらい良いお天気…』という表現を使ったことがありましたが、ここからいただいたものです。他には本を読んだり、テレビを見たりしていると、かならず一言くらいは耳にひっかかるフレーズがあるんです。その中でアナウンスに取り入れられそうなものを使っていたという感じですね」

特に、天使という言葉を使ったジョークは山形機長の得意とするところ。こうした汎用性の高いフレーズをおさえておくのもポイントだろう。

■なるべくポジティブな表現を心がける


「お客様にとってマイナスな状況を伝えるときも、できるだけポジティブな表現を心がけるようにしていました。たとえば悪天候のフライトの際は通常のアナウンスでは『あいにくの天候ではございますが』ですが、私は『天使が小粒の真珠のような雨で頬を濡らして』といった具合ですね。たとえ何かのアクシデントがあっても、最終的にはポジティブな気持ちになっていただきたい。ジョークも入れつつ心を込めてアナウンスすると、ほとんどのお客様がコックピットに手を振りながら飛行機を降りてくださりました」

ちなみに飛行機というのは、年間50~70便程度が離陸時の旅客によるトラブルに見舞われ、予定通り出発できないことがあるという。その多くは、フライトへの不安による乗客の体調不良が原因なのだが、山形機長が操縦かんを握った機体はただの一度も旅客理由により空港に引き返したことがなかった。離陸前のジョークが乗客の緊張をときほぐし、安心感を与えていたのかもしれない。

「ポジティブな表現を使う」などは、ふだんの雑談にも取り入れられそう。ユーモアにあふれた、粋な大人になりたいものだ。

(榎並紀行/やじろべえ)

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