ポイントは“業務に関係ある行動”かどうか

これってパワハラ? 過去の判例から探る境界線

2016.05.19 THU


何気なく行う余興や飲み会の罰ゲームも、「業務の範囲」を超えているため、拒否の機会などを与えないとパワハラになる可能性も… 写真:CHIRO / PIXTA(ピクスタ)
職場における“パワハラ”問題が深刻化している。厚生労働省によれば、労働局に寄せられる労働相談のうち、パワハラが含まれる「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は急増中。2004年度は1万4665件だったのが、2014年度は6万2191件となっているのだ。

裁判も多数起こされているが、「『どこからがアウトか』という明確な線引きがない」ともいわれるパワハラは、自分が気づかないうちに加害者になる可能性もありうる。

「裁判では“パワハラ”という言葉はあまり使われず、あくまで被告の言動が相手に精神的・身体的苦痛などを与える“違法行為”であったかが問われます。その判断はいくつもの要素を複合的に見るため、線引きが難しいとされます」

そう語るのは、労働問題を数多く扱うベリーベスト法律事務所の松井剛弁護士。とはいえ、ビジネスパーソンとしては少しでもその境目を知っておきたい。そこで、特に違法かどうか見極めにくかった過去の判例をもとに、パワハラの境界線を探ってみた。

松井氏がまず挙げてくれたのは、2009年の判例。同僚を中傷したり、取締役に上司の悪評を流したりした社員Xに対し、人事担当Yが個室で指導したという。Xはふてくされた態度だったため、Yは強い口調で「あなたがやっていることは犯罪だ」「秩序を乱すような者はいらん」と言った。これに対し、Xが会社を訴えた裁判では、Xへの慰謝料10万円という判決になった。

「裁判でまず論点になるのは、暴行や傷害、脅迫や名誉毀損などがあったかどうか。これらは確実にアウトです。この件ではそこまで明確な材料はありませんでしたが、『犯罪だ』『いらん』などの言葉が、適正な指導の範囲を超えた人間性を否定するものと見られました。発言者が力を持った人事担当というのもポイントです」

パワハラ裁判では「業務と直接関係がない言動の有無」が争点になりやすく、違法か否かを決める大きな要素になる。その例として、松井氏は以下の判例を挙げる。

「ある企業の研修会で、ノルマを達成できなかった社員が罰ゲームとしてコスチュームを着用し発表を行いました。すると、その様子を上司が撮影し別の研修会で映像を公開。これについて罰ゲームを行った社員が上司を訴えたところ、上司に慰謝料20万円の支払いが命じられました」

決め手となったのは「拒否の機会を与えなかったこと」だが、「罰ゲームの内容が業務と無関係だったことも判決を左右した」と松井氏は語る。

なお、ある自衛隊員Aが自殺した事件では、生前にAを「ゲジゲジ」と呼んだり、焼酎を家に持って来させたりした上官Bの行動が裁判で問われた。これも「業務と関係ない嫌がらせ」に思えるが、違法とはならなかった。

「Bは、生前Aを自宅に招待するなど好意を持っており、2人の関係は良好だったと判断されました。親しい上司と部下の軽口だと考えられたのです。2人の関係によって発言の意味が変わるのも、線引きを難しくするゆえんです。ちなみに、本件では別の上官も訴えられており、こちらは別途、違法の判決が出ています」

パワハラ裁判の慰謝料は10万円などあまり高額にならないことが多いが、「パワハラを行った人が懲戒処分になることも少なくない」(松井氏)とのこと。部下や後輩を持った人は特に、パワハラと判断される行動かどうかを意識しておくべきだろう。
(有井太郎)

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