“若者の車離れ”をどう食い止める? ホンダ椋本氏

自動車開発は“効率”じゃない「気持ちいいかどうか」

2017.03.23 THU

会社では学べない!ビジネスマン処世術 > 逆境オトコインタビュー


(撮影=森カズシゲ)
前編に続き、ホンダ史上最年少の開発責任者(22歳・当時)としてスポーツカー「S660」を担当した椋本 陵さんに話を聞く。

「若者の自動車離れ」と言われることが多いが、椋本さんはそういった時代性について「(自動車業界が好況だった)バブルっていうのは体験してみたいですね」と笑いつつも、自動車の開発に関しては「今は今でいいですよ」と話す。

「たとえば今は、コンピューターを開発過程でシミュレーションにかなり使うんですよ。衝突実験なんかはコンピューターのシミュレーションである程度見ることができます。データ上で車をぶつけて、ここをこうしたほうがいいとか。それがなかった当時はどうやって開発してたのかってすごい不思議ですよね。車をつくっていって…本当にバーン! とぶつけて、全然ダメだったらどうすんだっていう(笑)」

●「車って、乗らなきゃわからない。感覚が一番大事」

異例ずくめの「S660」の開発。20代前半だった椋本さんが周囲の理解、納得を得るには苦労がつきものと思われるが、何か工夫などがあったのだろうか?

「社内に対して、開発途中の車がどういうものか、基本的に資料だけで説明するんですけど、でも車って実際乗らなきゃわからないですよ。『S660』はすごい開発費がかけられていて、それなのに、そのリターンがすごい大きいかっていうとそうでもない…。そういうお金の面だけで“ピンッ”てやられて(没にされて)もおかしくないんですよ。

だから、実際に1台つくってみて、社内の役員たちに『乗ってみてください』って言ったんです。ほかにも開発や製造に携わるいろんな人に乗ってもらって、車を走らせて帰ってきたときにどう思うか? そういう感覚が一番大事だと思ったんですよね。降りた瞬間『車って楽しいね~』って言った人もいたぐらいでしたし、これは成功でしたね」

●自動車の屋根が開く仕様にするのに「理由なんてない」

「東京にいる友達と話すと、だいたい『車は買わなくてもいい』って言いますよね。一方で、僕の地元は岡山の田舎のほうなんで車って必需品で、車がないと生活できない。ただ、家族が日常使うものだからそんなにお金をかけられないとか…制約はたくさん(笑)。でも、まずは気軽に『車で走る楽しさ』を知ってもらえればと思うんです。たとえば最近、カーシェアリングの利用が増えているみたいで、月1000円ぐらいから借りられて、すごく気軽なんですよね。

最近の自動車業界は、よく自動運転っていうキーワードが出るんですけど、本当に運転の手間をなくしたいだけなら、公共の交通機関だけがあればいいはず。自由に移動できるという『走る楽しさ』はなくなっていないはずですよね」

椋本さんは、「S660」についても「“効率”を追い求めてはいない」という。

「この車(S660)は、『A地点からB地点に最短で移動するための車』ではないんですよ。たとえば屋根が開くんです。車の屋根が開くようにする構造ってすごく複雑で、衝突実験の基準をクリアするのも難しくなる。『なのになんで屋根を開けるようにするの?』って社内でも何度も質問されたんですけど、そこに理由はないんです(笑)。屋根開けて気持ちいいかどうかってだけなんです。

一度本当に気に入った車を所有してもらえれば、いつもの生活がちょっと変わるはずなんですよ。運転したり洗車したり、メンテナンスしたりすると、どんどん愛着が湧いてくるんですよね。それはやっぱり効率という言葉だけでは片づけられない。言葉では言い表せないですけど、めちゃくちゃ面白いんですよ」

取材が終わると椋本さんは、「最近ラジオで、『レコードやカセットが流行ってる』って話を聞いたんです」と話し出した。

「CDやiPodとかのデータで音楽を聴くのに比べたら、ノイズとか多そうじゃないですか。でもそれが“味がある”って流行ることもあるんですよね。車の運転の話もそれに似てるなって」

奇しくも、当連載1人目の取材対象者は、カセットテープ専門レーベル・「ゾンビ・フォーエバー」を運営する森 幸司さん。彼は「音が劣化するんですが、それも楽しんでもらいたい。(中略)そんな唯一無二の自分のカセットに、愛着を感じているんです」と話していた。

どんな業界も“お先真っ暗”と語られがちな昨今。逆境を前にして絶望的な気分になったときこそ、「効率じゃなく、愛着」と話す彼らのことを思い出してほしい。
(天野俊吉)

椋本 陵(むくもと・りょう) 1988年、岡山県生まれ。岡山県内の工業高校を卒業後、本田技研工業に入社。22歳で開発責任者(LPL)に最年少で抜擢される。現在は「デザイン室 テクニカルデザインスタジオ」勤務

取材協力・関連リンク

関連キーワード

注目記事ピックアップ

 

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト