業界別ビジネスモデルの謎

第2回 チェーン展開するハンコ屋さんの謎

2008.12.05 FRI

業界別ビジネスモデルの謎


イラスト/村田らむ 小売業における基本は原価をおさえ高く売ること。つまりハンコ屋さんであれば、最も高価な印鑑素材、象牙を安く手に入れ高く売ることにつきます。といっても、象牙の密猟は完全な犯罪なのでご注意を!

最近、街のハンコ屋さんが派手になっている、そのワケとは?



そういえば昔のハンコ屋さん、印章店といえば商店街の中に埋もれてしまうような地味なたたずまいで、ガラス越しに中を見ると職人気質の店主が独りで黙々と印を削っている。
印鑑を作るといった歴とした用事がない限りは入るのをはばかられる、店という印象でしたよね?

それが最近目に付くハンコ屋さんといえば、ポップなキャラまで配したド派手な看板を掲げ、お店の前には宣伝文句の書かれたのぼりが何本も立つといった様相。しかも駅前の一等地、ファストフード店の隣にあったりする。

いくら日本がサイン社会ではなくハンコ社会だとはいえ、それほど売れまくる商品とは思えない。実際にしばらく見ていても、そんなに客が入っていく様子はなかった。なのになぜ一等地に派手な看板を掲げ続けていられるのか。

あの派手なハンコ屋さんに儲かるビジネスモデルが潜んでいるに違いない!
ビジネスモデルに詳しい経営コンサルタントの小屋知幸さん、教えてください!!

「ハンコ屋さんのビジネスモデルは3つに分けられます。まず1つ目は旧来からあるビジネスモデル、個人経営のお店です。昔からのコネを頼りに近所の商店や小さい会社の印鑑をメインで商売しているところが多いですね」

確かに個人レベルではそうは買い足すものではないですが、商店や会社では印鑑=消耗品。買い換えることも多いから商売になりますね。

「そして2つ目が野中さんの気にされていた派手なハンコ屋さん、フランチャイズ制の店です。フランチャイズのメリットは、チェーン展開することで知名度が上がり、ブランド力が高まることで個人消費者のマーケティング(集客)につながります。見たことのある看板、見たことのある店ということになれば、一般客も入りやすいですしね」

派手でポップな看板も気軽に入りやすい雰囲気作りってことのようです。

「フランチャイズの最大のメリットは営業面でのサポート。チェーンの母体で広告展開してくれますから。あと専門的な知識を持っていなくても設備とテクニックをサポートしてくれます」

特別な技能がないとできなかったはずのハンコ屋さんが、今では誰でも開業資金さえあれば始められる商売になっているということ。それでここ数年、街に派手なハンコ屋さんが増えていたっていうわけですね。
ちなみに3つ目のモデルとは?

「ネット通販店です。店舗を構えなくてよい分、コストが抑えられて商品が非常に安く提供できるんです」

ん!? お話を聞く限り、オペレーションを考えればネット通販店がベスト。となれば街の派手なハンコ屋さんは次々と減っていっているはずなのですが、むしろ増えているという印象を受けるのは私だけでしょうか?

まだ、何か儲かる秘密が潜んでいるはずです。はい。
撮影協力/はんこ広場・池袋西口店 皆さんもおなじみのハンコ屋チェーン店。写真は『はんこ広場』の店舗ですが、他にも『はんこ屋さん21』『はんこスーパー』『はんこ屋アルヨ!』などなど、実に20以上のはんこ屋フランチャイズチェーンがあるそうです

ハンコ屋さんはどうやって儲けているのか?



駅前や商店街には必ずといっていいほど見かけるフランチャイズのハンコ屋さん。
でもたとえポップな看板でお客さんが入りやすい雰囲気を演出したとしても、売っているのは一般的に消耗品ではないハンコ。そんなに売れるとは到底思えません。いくら店の壁に激安! と掲げても、店舗を持たずにコストを抑えられるネット通販店には価格で勝てないはずなんです。

なのになぜ、つぶれないどころか、微妙に増えている気がするのはどうしてなのでしょう?
3年前、45歳の時に脱サラしてハンコ屋さんを始めた、都内の某ターミナル駅近くのフランチャイズ店オーナー佐藤さん(仮名)に聞いてみましょう。

なんでハンコ屋さんを選んだのですか?

「飲食業と違って在庫が腐らないというのが大きいですね。加えて印鑑というのは服みたいに流行りすたりがないので、一度仕入れたものは何年でも置いておけます」

なるほど。売れ残るということを考えなくていいんですね。

「あと他業種よりも開業資金を抑えられます。飲食店であれば1000万円以上かかることもざらですが、ハンコ屋は500万円程度で開業が可能です。もちろん開業時にフランチャイズ契約として保証金と指導料は取られます。合わせて300万円くらい。これは他業種のフランチャイズでも同等でしょう。他に月々のロイヤリティが必要。ひと月5~8万円くらいで、10万円以内に収まっています。あとかかる経費としては家賃ですね。都内で月20~30万円くらいです」

その家賃もネット通販店にすれば抑えられるのではないでしょうか?

「印鑑は実印であれば最低でも1万円、高いものであれば4万円以上と安い買い物ではないですから、店舗に来て素材を実際に手に取って確かめたいという人が結構います。だからネットの影響はさほど大きくないビジネスなんです。売り上げは都内の店で月に100~150万円くらいですね。立地が悪いと50~60万円くらいになっちゃいます。それだと商売になりませんが、100万円以上の売り上げがあれば、自分の人件費を考えなければ最低30万円の純利益が出ますよ」

ハンコだけでそんなに売り上げが出ますか?

「おっしゃるとおり、それだけじゃないです。印刷、名刺、ゴム印でカバーしてます。全体を10とすれば、ハンコ:名刺:ゴム印が3:3:3くらいで、残りの1がチラシなどの細かい印刷物になります。ただし月によってその割合も変化します。1~4月くらいは印鑑の売り上げが大きく、逆に8月はほとんど動きません。印刷物だと12月の年賀状ですね。実はこの売り上げが一年中で最も大きいです」

つまりはハンコ屋さんといっても実際は、「ハンコ屋兼ゴム印屋兼名刺屋兼チラシ印刷屋、でも一番儲かるのは年賀状屋」ってことなんですね。 ハンコが必要なお客さんは、
同様に印刷物のニーズもあるのではないかと。
だったら名刺も作っちゃおう、チラシも刷っちゃおう、
年賀状も刷っちゃおうということですね。

このように隣接領域で業務を広げる販売戦略のことを
ビジネス用語で「業態化」というそうです。

業務を広げれば儲けは増すし、売り上げが安定する可能性が高まる。
なるほどいいな「業態化」。

業態化かぁ編プロでいうと、雑誌の編集&執筆の技術を生かして、
商品カタログを作ってみたり、広告チラシを作ってみたり、
ウェブサイトを作ってみたりって、もうすでにやってますよ!
なのに懐が寒いのはなぜ?

というわけで、楽して儲けるビジネスモデルの探求はまだまだ続きます!
皆さんが気になる業種、気になるチェーン店、不景気なのに儲かってる業界、
安売り店に対する疑問等々ありましたら、多少にかかわらず、お便りをお寄せください。

私、野中が取材調査して、ビジネスモデルの謎に迫ります!

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