業界別ビジネスモデルの謎

第9回 あの映画で注目! 葬儀ビジネスの謎

2009.03.23 MON

業界別ビジネスモデルの謎


イラスト/村田らむ アカデミー賞受賞でにわかに注目される葬儀業界。映画のなかでは納棺師の月給は50万円なんて場面も出てきましたが、実際はどうなんだろう?

納棺師の収入は?葬儀社の収益は?



アカデミー賞外国語映画賞受賞に加えて、主人公が一般にはなじみの薄い納棺師という職業であることもあってか話題になった映画『おくりびと』。
その中で納棺師の会社事務員が納棺師についてこんな説明をするセリフがあります。

「納棺師とは、もともとは家族がやっていたものを葬儀社がやるようになって、さらにそれを専門にやるようになった究極のすき間産業」

どういうことなんでしょうか? 5年以上にわたって葬儀業界を取材し『死体の経済学』(小学館)を書き上げた、ノンフィクションライターの窪田順生さん。教えてください。

「昔は遺族が自分たちで仏の体を拭き、着替えさせた後、自分たちで買ってきた棺桶に納めていました。それが近代になると、葬儀社が納棺を代行するようになります。家族とはいえ、遺体に触るのは怖いというのが理由でしょう。さらに時代が進むと、葬儀社も遺体に触るのは避けたいという傾向に。祭壇を設置したり棺を売るだけで十分に利益は出ますから、葬儀社は仕切りに徹して、下請けに納棺作業を振るようになるのです。それを請け負う業者がいわゆる納棺師ということなのです」

なるほど、たしかにすき間産業ですね。
ところで納棺師に払う代金ってどのくらいになりますか?

「納棺、遺体修復、遺体運搬などをトータルで行う納棺専門会社の場合ですと、損傷が少ない遺体で死化粧が3万5000円。それに出張費1万円、着替えさせる仏衣が5000円、納棺の儀代金が5000円。しめて5万5000円が一般的な価格です。遺体の損傷が大きい場合は死化粧代がかさみ、多くて10万~15万円くらいになります」

ただし、この明朗会計は納棺業者が遺族と直接取引した場合に限って提示できる値段だとのこと。

「納棺師のほとんどは葬儀社の下請けです。葬儀費用自体がグロスでいくらという世界ですから、納棺師に支払われる代金も葬儀社の言い値になります。日本消費者協会の調査によると葬儀費用の全国平均は約238万円(2003年調べ)。納棺の費用は、前述の専門業者価格が一般的だとすると、葬儀費用全体の2~5%。そのくらいは支払われるでしょう。例えば地元の名士の納棺を頼まれた場合、葬儀費用は1000万単位になりますから、100万単位の代金を受け取ることもあるそうです。原価は仏衣にかかる費用くらいの微々たるもの。利益率は非常に高いといえるでしょう。ただ、まあ、葬儀社の方は粗利は50%以上というのがほとんどなので、そちらの方がはるかに利益率は高いですけどね」

やはり元締めが一番儲かるんですね。

「ちなみに、仕事の機会があるなら、小規模の方が儲かるビジネスモデルです。葬儀の仕事は定期的に来るものではありませんから、固定費は減らした方が得策です。社員を持たずに期間従業員や派遣社員を使い、霊柩車はレンタル、棺や小道具はネットで購入した方が固定費は抑えられます。中国製の棺などは5000円~1万円で買えますからね。生花や仕出しの発注は代行業者があります。唯一、必要なのは祭壇。これだけは持っていないと信用に関わりますから。その購入費が100万~200万円程度。初期投資はこれくらいで済みます」

あとは営業次第?

「それより人脈が最重要。訃報が出たとき、自分につながるパイプを持っていないと商売になりません。病院や警察に知り合いがいるのは当たり前。自治会長を押さえておくというのも手です。あと、地方でいわれるのはタクシーですね。緊急時は人が集まり、タクシーが頻繁に使われますから。ドライバーに情報が入りやすい」

高齢化社会も進むことですし、ビジネスとしてはアリかもしれませんが、業界に知り合いがいないと新規参入はまず不可能。葬儀社に就職して、人脈を築いてから独立するのが現実的みたいですね。
遺体に死に化粧を施す。亡くなった人は肌にみずみずしさがないため油分が多い遺体専用のファンデーションを使用。また外からはわからないが目が落ちくぼむので、眼球の部分に綿が詰められている (※写真はモデルを使ったイメージです)

映画『おくりびと』から思う“おくりびと”という仕事



葬儀社の粗利は一般的に50%前後。下請けをする納棺師たちも儀式中心で原価はほとんどかからず、利益率はとても高いという。

しかし、その、やはり遺体を扱うというのは抵抗がありますし、本当に映画『おくりびと』のようであればやりがいはありそうだけどって、実態を知りもしないのにあれこれ悩んでいても仕方ない。
ということで聞いてみましょう。千葉と茨城で納棺業を行っている、エンゼルケア代表取締役の早川賢一さん! 納棺の現状、実態を教えてください!!

「まずその前に。関東では納棺業者じゃなくて湯灌(ゆかん)業者というのが一般的ですね」

湯灌とは葬儀前に遺体を入浴させて洗浄すること。湯灌をするかしないかには地域差があって、遺体を清拭(せいしき)するだけのところもある。つまり地方によって湯灌が当然のところでは湯灌業者、湯灌がなく清拭だけが当然のところでは納棺業者と呼ばれるようです。では実際に映画『おくりびと』で行われていてような、親族の前で遺体を仏衣に着替えさせるといった儀式は行われているのでしょうか?

「昔は厳粛な儀式として、親族みんなの立ち会いのもと、我々が着替えさせていただいていました。ただし『やっぱりプロだね』と感心される一方、親しい親族から『故人は見せ物じゃないんだから』という批判的な意見もまれにいただいていたんですよ。やはりほとんど話したこともないような遠い親戚もいる前で、故人を着替えさせるのは見ていて抵抗があったようです。葬儀社の方針や土地柄によっても変わりますが、特に立ち会いを希望する場合をのぞき、今は体の処置と着替えは見ていないところで行います。そして綺麗に着付けてから私どもが介添え役となり、家族と一緒に身支度を整えていきます。少しでも手を出して参加すれば自分でやってあげたという満足感が得られますからね」

なるほど。ところで納棺というのは、頼まないとどうなりますか?

「葬儀社の方でそのまま柩に入れます。ただ棺に入れるだけのところもあれば、決められた儀式に従って厳粛に納めるところもあります。映画が話題になって以降は『納棺は誰がやるんですか?』と聞いてくる葬家が増えたので、『専門の納棺業者にも頼めます』とオプションの説明がしやすくなったみたいですね。それまでは納棺が別料金になるということに抵抗のある葬家が多かったようです。葬家自ら『納棺師に納棺をお願いしたい』と依頼されるなんて昔は考えられなかったですから」
納棺の様子。遺体に死装束を着せて、胸の上と下腹部の上にドライアイスの塊を各2個ずつ置く、そして最後に棺布団(棺用の布団)をかけるのが一般的だそう (※写真はモデルを使ったイメージです)
映画のおかげで認知度も上がり、売り手市場になったと。でも、やはり気になるのは遺体を扱うということですよね。それは業界のみなさんはどう思っているのですか?

「葬儀社もその下請けである私たちも、こだわりをもって挑む職人だと思ってやっています。遺族が気になってできないことを技術で実現させるのが仕事ですから。そして絶対に忘れてはいけないのは、故人に対する敬意を持った行動。人の死を目の前にする厳粛な場で、お金のために動いたり、遺族を騙そうという気持ちでいたら、すぐに見透かされます。遺族を単なるお客さんと思っているか、それとも死者に対して敬意を持って行動しているか。そこが大事だと思います」

やはり葬儀業界は、金のことだけ考えてるような、邪(よこしま)な人間には務まらない仕事なのかもしれません。 身内の死という現実を前に、正気ではいられない遺族が相手だけに、ドタバタに乗じて高い値段をふっかけるというのが、一般的にいわれていた(悪い意味での)今までの葬儀業界のビジネスモデル。

それゆえに他業種では考えられない利益率を誇っていたわけですが、最近では不景気の影響もあってか、通夜や告別式などをおこなわず、亡くなったらそのまま火葬場に直行するという直葬も増え、葬儀の単価も下がりつつあるため、昔のようにはいかないようです。

実際にここ最近は十数年後にやってくる団塊の世代の需要を見込んで参入してきた業者が増えたそうですが(外資も多数とのこと)、撤退する企業も多いのだとか。

ちなみに料金の不透明性が問題になりがちだったので、細かい内訳を提示する業者も増えましたが、それだけではあまり売りにはならないそう。

状況が状況だけに、遺族側から「おおまかに、だいたいの相場で~」という依頼も存在するのが、葬儀業界の難しいところらしいです。

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