業界別ビジネスモデルの謎

第10回 国民的ビジネス!? メガネ店を知る

2009.04.03 FRI

業界別ビジネスモデルの謎


イラスト/村田らむ できあがっている商品をただ売るだけの一般的な小売業と違い、メガネ店はお客さんの目の検査(検眼)をして、顔の形状に合わせてメガネをフィッティングさせて販売するというビジネス形態なんです

日本人の潜在的な メガネの需要はどのくらい?



昔のハリウッド映画に登場する日本人といえばメガネがトレードマーク。最近でもアメリカのテレビドラマ『HEROS』で俳優のマシ・オカさんが演じる日本人ヒロ・ナカムラがメガネをかけています。

みんながメガネをかけているというのが、今でも海外から見た日本人の印象としてあります。
しかし実際のところ、どのくらいの日本人がメガネをかけているのでしょうか?
メガネ小売業を中心に経営コンサルタントを行う、バップ研究所代表の村松美尚さん。日本人約1億2000万人のうち、どのくらいの人がメガネを必要としているのですか?

「おおよそ7000万人です。そのうち日常的にかけているのは6000万人。残りの1000万人はコンタクトのみ使用したり、目が悪いけどかけてない人といわれてます」

つまりメガネ需要は全人口の半分である6000万人。2人に1人はメガネ。確かに多いですね。
そうなると市場規模も当然大きなものになりますよね?

「『眼鏡データベース2008』によれば、去年はメガネだけの売上が4460億円。メガネ店で購入された関連物販を含めると5351億円になります。しかしこの数字は一昨年、2007年に比べて4.1%減少してます。ちょうど1年前、昨年度末の統計によるとメガネ取扱店数は1万6123店。そのうちメガネ専門店は約9000店。現在では、この不況でメガネ取り扱い店全体で1000件がなくなっているんじゃないでしょうか」

え!? 減っているということは、儲かってないということなのでしょうか?

「まともな利益を出している会社はごくわずかという状況です。原因は不況による客足の減少というのが第一にありますが、それよりも深刻なのが単価の下落。たとえば安いところでは、1本5000円ほどで売っているところもあるんです」

確かにかなり安くなった印象はありますね。メガネといえば、フレームが1~2万円で、レンズがさらに1万円~2万円。合計2~4万円というのが相場だったような。それが5000円は安い。
1人1本あれば十分と思われていたメガネですが、最近では若い世代を中心TPOに合わせて使い分けるという考え方が浸透してきました。そんなわけでメガネもデザイン性の高いものが増えているそうです
「メガネ店は『半医半商』といわれています。できている商品を右から左へ流すのではなく、そのお客さんに合ったものを作って売る商売。検眼して視力を的確に把握し、矯正するメガネを加工して売る商売。接客は密でなくてはならず、人件費がどうしてもかかってしまう。そう考えると5000円は非常に厳しい価格です。しかしその金額で売る店があれば、ほかも価格を下げざるを得ない。こうしてメガネの単価は下がり、利益が上がらないという状況に陥っているのです」

安いメガネがシェアを独占している状況であると。

「いや、その勢いは止まってきました。一時、1万円以下のメガネがシェアの21%を占めた時もありましたが、今では17%に下がってます。その要因は、安いものはそうでないものに比べればあまり良質ではなく、かけ心地が良くない場合があるのが大きいと思います。日常でかけ続けるものですから、自分にフィッティングするかどうかが、メガネにとって最も重要な要素なのです。レンズを入れたフレームをお客さんに合わせてフィッティングさせるのもメガネ店の技術。ただしいくら技術があっても作りの雑なメガネではフィッティングさせようがありません。安かろう悪かろう、といった店は淘汰されていき、ツーポイントを率先して扱うような加工技術が優れているお店が生き残るのではないでしょうか。ツーポイントの加工とフィッティングは難しいので、メガネ店の技術を測る上で指針になるのです」

適正な価格で、適正なサービスを行う店だけが残る。そうすれば安定した需要のもと、まだまだ伸びる業種ですか?

「そうですね、需要は減りませんから。メガネのように手軽に視力を矯正できるような画期的なものが生まれない限り、大丈夫でしょう」
ヨンさまのCMでおなじみ『眼鏡市場』の新宿東口本店。1万8900円のオールインワンプライスという大手ならではのスケールメリットを生かしたビジネスモデルです

人気のワンプライス店の秘密と 個人経営メガネ屋さんの現状



不況で客足が遠のき、単価の下落も相まって利益が上がらず苦労しているというメガネ業界。
しかしながら全国民の半分である6000万人はメガネをかけていることからして、安定した需要が今後も確実に見込める業界ではあります。

一方で多くの店舗が倒れていく今、利益を上げて生き残っている店にこそ、将来に続く安定した需要を勝ち得るメガネ店のビジネスモデルがあるのではないでしょうか? というわけでペ・ヨンジュンのテレビCMでおなじみ『眼鏡市場』を展開するメガネトップ営業企画部の足澤智規さん。そちらの販売形態を教えてください!

「1万8900円のオールインワンプライスです。店内に展示してあるフレームを選んでいただき、それに20種類あるレンズをつけた価格です。どの組み合わせを選んでも1万8900円、遠近両用や薄型レンズを選んだ場合でも追加料金0円です」

オールインワンプライスという業態を選んだわけは?

「メガネを作る場合、まずフレームから選ぶのが一般的です。そのフレームには値札が付いていて、いくらなのかわかる。けど、それにレンズを付けたらいくらになるかわからない。最終的に自分がいくら払うのかわからない、というのがあると思います。それはメガネ店に対しての不信感も抱いてしまうでしょうし、不安感も煽る。なのでレンズ込みの値段を提示すれば、安心感を与えられるのではないか、消費者の不安を取り除けるのではないか、というのが理由でした」

確かに視力の状況によってレンズは変化するため、メガネというのは誰にでも当てはまる合計金額を提示できなかった。それを平均化した価格にしてしまおうという発想。結果、消費者に安心感を与え、大いに受け入れられているのですね。では、どうしてオールインワンプライスの価格設定が可能になったのでしょうか?

「うちは自社工場を持っていますし、また業者に依頼する時も大規模な発注による価格交渉力があります。だからこそ、1万8900円という価格を提示できるのです。ほかにも効率を上げるべく、接客担当、診査担当、フィッティング担当、加工担当など、それぞれの専門別に作業を分担してます」

なるほど大規模チェーン店ならではのビジネスモデルというわけですね。
では、個人がメガネ店をやるにはどのような業態がいいのか?
その前に、個人で営んでいるメガネ店の現状はいかがなものなのか?
三鷹で『メガネデパート』というお店を経営している内山嘉孝さんに聞いてみました。
三鷹駅前に店を構える『メガネデパート』。老舗のメガネ店ならではのきめこまやかなサービスと技術力で勝負。お客さんのメインはシニア層だそうです
「うちはもともと、父親がやっていた時計店で、そこはメガネや貴金属も売る兼業店でした。私が受け継ぐ時にメガネ専門店にしたのです。開店した当時の約20年 前、メガネ業界は日の出の勢いでした。粗利が多く(※現在でも個人商店での粗利は6割ほど)、他業種から参入してくる人も多かったですね。当時からすでに 現在の高齢化社会は予測されてましたから、ますます客は増えていくだろうと。確かに現在、うちのメイン客は、老眼が始まっているシニア層です。1日の来客 数は10人程度ですね」

その来客数で経営は成り立つのですか?

「規模にもよりますが、1~2人でやっている店で、1日に3万円くらい買ってくれるお客さんが3人いたら問題なくやっていけます。ただ正直、売り上げは昔の半分くらいで、厳しいことは厳しいです」

お客さんが減った理由はなにかわかりますか?

「やはり安売り店が出てきてから急速に落ちましたね。消費者はどうしたって安い方を選びますから。加えて昔のように広告費を使わなくても、インターネットで集 客できてしまう。ひたすら安いメガネに消費者が飛びつく現状。ただ、それも長くはないでしょう。大手も経営が危なくなるほど、価格設定がおかしな状況になってますから」

そんななか、個人経営の店が残る術はなんですか?

「調整ですね。検眼や加工はもはや機械がかなりの精度でやってくれます。ただ、毎回違うお客さんの顔にメガネをフィットさせるのは、やはり人間の手でやらないとうまくいかない。そこで手を抜かずしっかりとやっていれば、分かってくれるお客さんはいるはずです」

いくら不景気とはいえ、潜在需要が確実に存在するメガネ店。お客さんがいなくなる心配ありません。ただしユーザーは四六時中メガネをかけているケースが多いわけですから、一番気を使わなければならないのはフィッティングだということは間違いなさそうです。 シャッター商店街になっても最後まで生き残っていることの多いメガネ店。

その商品をお客さんに合わせて加工し販売するというビジネスモデルは、通販やネット販売に向かないこともあり、いまだに店舗型が強い業態でもあります。つまり専門店の中では淘汰されにくい業種であることは間違いないようです。

もちろん安定した需要が望める業界ではあるのですが、経済環境悪化による買い換えサイクルの長期化により、市場規模は右肩下がりにはなっている様子。

なかなか未曾有(みぞう)の大不況のなかで、儲かる小売業というのは難しいようです。

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