業界別ビジネスモデルの謎

第12回 本はどうして定価?出版業界のしくみ

2009.05.01 FRI

業界別ビジネスモデルの謎


イラスト/村田らむ いくら業績が悪くても神風(ベストセラー)が吹けば、一気に業績が回復したりするのが出版社の良いところ

出版流通の仕組みとは?



世の中にあまたあふれている書籍や雑誌。
今さらですが、著者が原稿を書いて、出版社が本にしていることは間違いありません。
では出版社が作った本は、どのような経路を通って読者の元へ届けられるのでしょう?

物流コンサルタントを行うイー・ロジット代表の角井亮一さん! 出版流通の仕組みを教えてください!!

「出版流通には大きく分けて3者が存在します。まずは『出版社』。書籍・雑誌を出版する、いわばメーカーですね。日本には大小含め約4300社以上の出版社があるといわれています。そして『取次業者』。出版社が作った書籍を書店へ供給する会社です。一般にはなじみがないかもしれませんね。最後に『書店』。取次業者から仕入れた書籍を消費者へ販売するお店ですね。対面型の店舗だけでなく、最近ではオンライン書店もかなり増えてます。以上の3者から消費者へと、『出版社』『取次業者』『書店』『消費者』というのが流通の流れとなります。一見すると、『メーカー』『問屋』『小売店』『消費者』という、日本では一般的な流通に見えますが、出版流通には2つの特徴的な販売制度があります」

再販制度と委託制度ですね。

「そうです。まずは再販制度、正式名称は『再販売価格維持制度』なのですが、これは出版社が出版物の販売価格を設定し、取次や書店がそれを維持する制度です。B to B、つまり出版社から取次へ、取次から書店へ売られた書籍を、B to Cで消費者へ再販売する際に価格を維持しなさいということ。たとえば家電などは値引きされて売られているのに、書籍は値引きされないことを不思議に思ったことはありませんか? それはこの再販制度により定価が守られているからです。お酒も塩も定価販売ではなくなった今、この制度を守っているのは出版や音楽CDなどの著作物だけになりますね」

安売り競争で売値が下がり続けたら、出版なんてまったく儲かりません。もともと書籍は利益率の低い商品なので、定価販売だけは絶対死守して欲しいです!
出版取次大手「トーハン」。印刷所で印刷製本された雑誌も単行本もすべて一回は取次に納品されます。そして取次が全国の書店に配本するんです。まさに出版流通の要
「あともうひとつの特徴的な制度が委託制度。これは書店に販売を委託する制度で、一定の期間内であれば仕入れた書籍を出版社へ返品=返本できるので す。書店側の在庫リスクがありませんので、多種多様な書籍を置いてもらえるといったメリットがある一方で、出版社としては返本のリスクを負うことになりま す」

ある程度の返本を踏まえたうえで損益分岐点を計算して、定価や初版の刷り部数を設定するのが出版社の常識。しかし予想に反して60、70%なんて返本が あったりすると、当然赤字となり、数字が増えるほど赤字はかさんでくるわけで。ここ最近では80%、90%なんて返本率を聞いたこともありますし あぁ、恐い恐い!

「委託制度による負担も出版不況の原因のひとつになっています。売れ行きを見通せない取次や出版社には大きな負担になっています。不況の原因は当然それだけではないですけどね」

出版不況は止めどないと。加えて未曾有の経済危機ですしね。

「ただ出版業界の場合、景気悪化を逆手にとった仕掛けもあるんです。読者の自分自身を磨こうという意識が高まっていて、資格関係の書籍は好調だといわれています」

なるほど! 資格関係の書籍ならロングセラーの可能性がありそうですね! 早速、企画書を書いてみます!!
アニカの最新刊『受験を150%人生に活かす本 -駆け抜けたレールの先-』(津田岳宏著)。受験漬けの半生を駆け抜けた京大出身の若き弁護士による面白エッセイ。受験の正体と意義が受験にどっぷり浸かっていた著者ならではの視点で描かれます

どうやったら出版社を作れるの?



いきなり私事で恐縮ですが、私、野中、出版関係の編集プロダクション(編プロ)を経営しています。編プロというのは、出版社(版元)から発注された仕事(編集業務や原稿執筆業務)を請け負う会社のことです。わかりやすくいえば、出版社の下請けですね。

ちなみに当たり前ですが、下請けならではの苦労も多いです。好き勝手に本は作れないし、思いついた企画もすぐにカタチにできない。そもそも出版にたずさわる以上、いつかは版元になりたいと、そんな風に思っているわけです。もちろん下請けよりも版元の方が儲かるっていうのもありますけどね。まぁ、そんなことばかりいっていても出版社にはなれないので、あらためて出版社について考えてみましょう。

まずは出版社の定義。一般には単行本や雑誌など商業誌を出版している会社ということになるのですが、日本の場合は、出版社と書店の間に入って流通を取り仕切る取次と取引のある会社といってもいいと思います。(※ただし自主流通を行っている一部の例外を除く)

じつはこの取次と新たな取引を始めることは非常に難しく、そう簡単に取次は口座を開かせてくれません。これは出版業界では常識といってもいいでしょう。

では出版社を作るにはどうすればいいのでしょうか? 他業種から出版に参入して、『アニカ』という出版社を作ったすごい人がいるんです。『日本でいちばん小さな出版社』(晶文社)の著者でもある佃 由美子さん、そのあたりの経緯を教えてもらえますか?

「ウチの場合、大手取次の口座が取得できたのは幸運でした。というのも口座の取得に具体的なガイドラインはない様子なので。最初に10冊分ほどの出版計画を提出するのですが、その中心に据えたのが実績のある著者の資格系テキストで、定期的に刊行できる見通しが立っていたこと。また会社の業務実績や資金面なども審査基準とされるのですが、翻訳やシステム開発など他業種で十分実績をあげていたことなどが有利に働いたみたいです」

なるほど、では取次口座を取得後はどのように会社を運営しているんですか?

「会社は2人でやっているのですが、出版社としての業務は基本的に私ひとりが担当しています。今では、企画を立てて、編集して、製作して、装丁して、納品、営業、経理まで、全部ひとりでやってます。ただし原稿は執筆者に頼むことが多いですね」
代表的な巨大出版社「講談社」。ミリオンセラーを連発すれば、こんな立派な本社ビルが建てられるかも! と思ったけど、まずは出版社になることですね
編集業務だけでなく、経理や営業までひとりって、そんなこと可能なんですか?

「大丈夫ですよ。他業種では経理の経験もありましたし。営業に関しては大手のように書店まわりをする余裕もないので、配本は取次まかせです。ただし書店に 新刊紹介のFAXを送って注文を取るなど地道な活動はしています。といっても刊行サイクルは半年に1冊程度ですし、少部数なので伝票処理や納品発送なども それほど大変じゃないんですよ」

なるほど、少部数ですか。一般的に少部数だと赤字になってしまうとよくいわれますが、大丈夫なんでしょうか?

「ウチは誌面のレイアウトや装丁も自社というか私がやってますから。結果、制作費は印刷代と、著者が他にいれば印税。1冊の制作費は大体70万円から100万円くらい。初版は2000部くらいと決めてますので、そこから逆算して単価は決めればマイナスにはなりません」

ちなみに出版業が他業種よりも良いと思う点はありますか?

「やはり再販制度ですね。値段が変動してしまうと、売り上げの管理が大変になります。自分の言い値で売れるというのは非常にお得だと思います。採算分岐点を簡単に計算できますからね」

これから会社は大きくしていこうと考えているんでしょうか?

「ないですね。会社が小さいことのメリットもありますから。小さければ小回りが利いて動きやすいし、自分の作りたいものが作れるんです。なにより分け前が大きいので儲けやすいと思います」

なるほど、定価販売なので計算が立つし、少部数を少人数で回すことで、確実に元が取れると。しかもベストセラーが出た場合、いきなり何億円もの利益が上がることもありえる。

堅実でありながら一攫千金の夢もあるとは。しかも好きなものが作れるんです。やはりウチもすぐに出版社にならなければ! ウチも取次と取引して出版社に。と思ったら、ちょっと財務状況に難があり。取次に口座を開くためには、資産状況のチェックも厳しいのだそうです。
出版社になるためには、まずは地道に編プロとして稼いで実績を積みつつ、資金を貯めるしかないようです。いつになることやら。

はい、というわけで、「業界別ビジネスモデルの謎」は今回が最終回となります。
今まで、ご愛読していただき、ありがとうございました。

次回からは「意外な業界ナンバー1企業のひみつ」で、意外と知られていない業界トップシェア企業の正体に迫ります。

「じつはあの分野ではあの会社が世界シェアトップ!」など、みなさんがご存じの意外なナンバー1企業があったら情報をお寄せください!

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