知られてなくともスゴイ企業

第2回 世界中の腕時計を光らせている会社

2009.06.12 FRI

知られてなくともスゴイ企業


畜光性夜光顔料、N夜光(ルミノーバ)の結晶。アルミン酸塩化合物を主成分に希土類元素の賦活(ふかつ)剤を添加焼成することで生成されているそう。光の吸収-発光-吸収-発光を半永久的に繰り返すことが可能

世界の夜光塗料シェアほぼ10割のスゴイ会社!



世界の夜光塗料で7~8割のシェアを保ち、保有する特許のライセンス生産まで含めると、シェアはほぼ10割という、市場独占状態にあるとんでもない企業が日本にありました!

根本特殊化学株式会社。取締役社長の松澤隆嗣さんにいろいろと夜光塗料についてお話を伺いました。

まず夜光塗料とはどんなものなのでしょうか?

「夜光塗料には2種類あり、蓄光した光を放出するものと、混ぜ込んだ放射性物質をエネルギーとして使うことで常時光り続けるものがあります。現在の夜光塗料は、ほぼ前者の蓄光性ですが、昔は後者の自発光性夜光塗料の方が一般的でした」

夜光塗料発明のエピソードなどあれば教えてもらえますか?

「じつは夜光塗料はノーベル化学賞と物理学賞を受賞したキュリー夫人までさかのぼります。キュリー夫人がラジウムという放射性物質を発見できたのは、ラジウム自体が光っていたからなんです。その発見以降、ラジウムを使った夜光塗料が使われるようになりました。最初は軍隊用の時計、潜水艦や戦車の計器など暗い中でも光り続ける必要があった軍需用に主に使用されていたのです」

へぇ~、そうなんですか。しかしラジウムといえば、放射性物質ですよね。人体に影響を及ぼしそうですけど。
お話を伺った取締役社長・松澤隆嗣さん。根本特殊化学は、夜光塗料だけの会社ではなく、長年培った放射性物質取り扱い技術をもとに医薬品事業などの分野に進出しています、とのこと
「多少にかかわらず環境への影響もありますから、今ではほとんど使われなくなりましたね。スイスではまだ使われていますが、日本では用途に制限がありますし、他の国でもほとんど使われてません」

それで放射線が出ない蓄光性のものがメインになっていくんですね。
その蓄光の仕組みはどのようなものなんですか? いや、あの、化学的な話になると文系の自分にはさっぱりわけがわからなくなるので、他の例とか使ってもらえると助かるのですが。

「そうですね、たとえばブラウン管のテレビ。電源を切った後も、ボゥっとした感じで光が残っている状態ってわかりますか? 蛍光灯とかも同様なんですが」

はい、わかります、わかります!

「テレビや蛍光灯に使われる蛍光体の、光をためてしまう特性を逆に強調させて、長く光るようにしたのが蓄光性の夜光塗料なんです。詳細については企業機密で明らかにできないのですが、放射線をまったく出さず実用に耐えられる蛍光体を開発できたのは当社のみです。現在でも放射線ゼロの安全な夜光塗料を作ることができるのは世界で唯一ウチだけなんです」

なるほど、世界で1社しか作れない製品を製造販売しているわけですね。これなら市場を独占できるのも当たり前です。他社では作れない製品を他社に先駆けて開発、商品化し、特許でその技術をしっかりと守る。まさにニッチな分野ならではの勝利の方程式といっても過言ではないでしょう。
神奈川県平塚市の「R&Dセンター」で蛍光体「N夜光(ルミノーバ)」を電気炉で焼成し、取り出す様子

なぜ夜光塗料に特化した会社になったのか?



世界の夜光塗料のシェアでトップを独走するスゴイ会社、根本特殊化学。
取締役社長の松澤隆嗣さん、夜光塗料を扱う会社を始めるきっかけはなんだったのですか?

「1941年に太平洋戦争が開戦したとき、創業者が『今度の戦争は夜間戦争が主となる。したがって光るものが軍事用にも民生用にも必要となるだろう』ということで、すぐに夜光塗料の販売を始めたと聞いております。当時の夜光塗料の主な生産国はドイツ。当社も最初はドイツから塗料を輸入して販売していたとのことです」

実際、戦争での需要はあったのですか?

「あったようです。当時はそれを当て込んで、大小様々な会社が夜光塗料を扱っていたといわれてます。しかし戦争が終わり、軍需がなくなった際、ほとんどの会社が撤退し、当社とあと1社くらいしか残りませんでした」

しかし、扱っていたのは放射性の夜光塗料だったわけですよね?
安全性を考えると、代替となる商品を急いで考える必要に迫られていたのではないですか?

「いや、当初はその考えはまったくありませんでした。ラジウムではなくプロメチウムという比較的エネルギーの低い放射性同位元素を使用していたため、時計になって、ケースの中に入ってしまえば消費者には影響なかったのです」

いつごろから放射線が問題とされたのですか?

「90年代が近づくにつれ、製作現場の安全や廃棄した時の環境汚染が問題とされはじめ、時計メーカーさんが自主的に使用を制限する動きがあったのです。結果、放射性の夜光塗料が販売できないことになり、当社は存亡の危機に立たされました。そのような状態で1993年、開発に成功したのが、まったく放射線が出ない夜光塗料『N夜光・ルミノーバ』です」
紙幣や有価証券の偽造を防止するためにも、特殊蛍光体は使われている。じつは写真の米100ドル紙幣にも同社の塗料が使用されているという
他社では同じような塗料は作れないんでしょうか?

「ただ放射線が出ないだけの塗料なら他社でも作れますが、実用にはほど遠いですね。使われているのは玩具くらいです。蓄光性能では当社の塗料が抜きん出ています」

その商品が世界市場を席巻、独占状態に至らせたわけですね。
ちなみに時計の文字盤以外だと、どのような需要がありますか?

「非常口や避難場所を指し示す避難誘導標識が量的には最も多いですね」

ああ、あの暗闇でも光るピクトグラムはあらゆる場所で見ますよね。

「最近、地下鉄など、避難経路の標識を取り付けることを義務化する条例が出てきています。今後、条例が整備されれば、ますます需要は拡大するでしょう。またニューヨークなどでも高層ビルへの避難経路標識の設置が義務化されてきてますので、海外での需要拡大も期待できます」

世界で唯一、実用レベルの蓄光性夜光塗料を生産できるのは根本特殊化学のみ。つまりシェアを保ったまま、市場の拡大が大いに期待される状況です。
本当にスゴイ会社でした。 記事で紹介したほかにも夜光塗料の意外な需要として、車のトランクを内側から開けるためのドアノブがあるそうです。
アメリカなどではトランクの中に閉じ込められて出られなくなった子どもが、熱中症になり死亡してしまうという事故が何回か起きてしまったことで、夜光塗料を使ったレバーをトランクの中に設置して、出やすいようにしておくことが義務づけられているからだとか。

暗闇でも電源なしで光る夜光塗料。
危険回避の分野でますます需要が拡大していく予感がひしひししますね。
そうなれば根本特殊化学は、ますます世界で必要とされる会社となる。
うらやましいだけでなく、日本人として誇らしいかぎりですね。

今後も「スゴイけど、あまり世に知られていない会社」を取材していきたいと思います。

みなさんからの「スゴイけど、あまり世に知られていない会社」の推薦も募集中です!

取材協力・関連リンク

関連キーワード

注目記事ピックアップ

編集部ピックアップPR

ブレイクフォト