4代続く老舗ワイナリーの思いを受け継ぐ女性醸造家

「甲州」で世界に衝撃・三澤彩奈

2015.12.31 THU

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「20代の頃は、とにかく何でも吸収したいと思っていたので」。自社での収穫、醸造期を終えるとニュージーランドやオーストラリア、チリなど南半球のワイナリーを訪ねて修業を積んだという、たいへん勉強熱心な三澤さん。英語、スペイン語、フランス語が堪能だ
写真/森カズシゲ
2014年6月、世界のワイン界に衝撃が走った。イギリスで毎年開催されている世界最大のコンクール「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワーズ」において、山梨県にある中央葡萄酒が栽培、醸造した「キュヴェ三澤 明野甲州2013」が、日本のワインで初めて金賞を受賞したのだ。“ワイン後進国”といわれる日本のメーカーが、自社畑で栽培した日本固有の甲州種ブドウで醸造している点でも多くの称賛を集めた。このワインを手がけたのが、同社で栽培醸造部長を担っている三澤彩奈さんだ。

「アルコール度数が低めで非常に穏やかな『甲州』は、金賞を取りづらい品種だといわれてきました。1万5000銘柄を超える出品ワインの中で、インパクトに欠けるタイプは勝てないということです。正直、私自身も『甲州』の良さは外国の人にはわからないだろうと思っていました。昆布だしの味が欧米人になかなか受け入れられないのと同じように、『甲州』が醸し出す何ともいえない気品や繊細さは日本人にしかわからない感覚だと。そうしたハンディを打ち破った奇跡的な受賞でしたので、“日本のワインの味わいをみたか!”という気持ちがしましたし(笑)、まだまだ『甲州』はやれるんだということを示してくれたように思います」

1923年創業の中央葡萄酒で、現在、4代目オーナーを務める父・茂計さんのもとに、二人姉弟の長女として生まれた三澤さん。日本のワインが世界ではほとんど認知されていない時代から、人生をかけてワイン造りに取り組む祖父や父の姿を間近で見続けてきたことで、ごく自然と自分もワインに関わる仕事をしたいと思うようになった。日本の大学を卒業後、単身で海外へ渡り、フランスのボルドー大学ワイン醸造学部、ブルゴーニュの専門学校、南アフリカの大学院で勉強を重ねた。

「目からうろこの毎日でしたね。日本は醸造技術が先行していましたが、ワインの品質の80%はブドウで決まります。日本では大半のワイナリーが農家から買ったブドウでワインを造っていましたが、フランスでは自社でブドウの栽培から行うのが当たり前。そこを農家さんに任せていると、どこかで妥協せざるを得ないんですね。例えば、醸造家が今日が最高のタイミングだと思っても、農家さんの都合が悪ければ収穫はできません。それが自社畑であれば、摘みたい時にいつでも摘めるわけです」

留学後、2008年から醸造責任者(ワインメーカー)を任された三澤さんは、その6年前に開園された自社農場でのブドウ栽培に力を注いだ。世界のワイナリーでは主流であり、以前に茂計さんが一度は失敗した甲州種の「垣根栽培」を再開。南アフリカの大学院の教授から勧められた「高畝式」の排水法を新たに取り入れたことで、2013年に過去最高品質を誇る甲州種の収穫に成功したのだった。

「従来の栽培方法をまったく変えた、大きなチャレンジでした。ブドウは種を植えてから収穫まで3年かかるので、自分がやっていることが合っているのかどうか、その結果が出るまでがすごく長い。1年1年試行錯誤の連続で、ようやくここまでたどり着いたという感じです。だからこのワインが出来上がった時は、今まで辛いこともたくさんあったけれど、醸造家を辞めないで本当に良かったなと思いました」

ワインには、醸造家の人となりが出るという。同じ品種のブドウでも、造り手が変われば味も変わる。日本ではもちろん世界でも数少ない女性醸造家として、三澤さんが目指すワインとは――。

「自分にしか造れないワインですね。飲んだ後、いつまでもその味わいを反芻できるような、人の記憶に残るワインを造りたい。それと、今の『甲州』は完成から2~3年が飲み頃なのですが、5~10年しっかり熟成に耐えることができて、さらに美味しく飲める辛口の『甲州』にも挑戦してみたいです」

(菅原悦子)

■TOP WOMAN 第6回

  • こだわり仕事道具

    病気になりやすい日本の気候に対応したブドウ用収穫バサミ。傷んだ実を落としやすいよう刃は海外製より細く、健全な実を傷つけないよう先端は丸いのが特徴
  • 世界が認めた瞬間

    「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワーズ」金賞と同時に、アジア地域で最も優れたワインに贈られる「リージョナルトロフィー」も獲得した

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