“未来のなでしこ候補”が絶望の先に見つけた目標はドレスデザイナー

坂本愛里・体育会系女子からの華麗なる転身

2016.03.12 SAT

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「もしあの時、あのサッカーの練習をしていなかったら…、と思うことも昔はありました。でもケガをしてなかったら、洋装の世界を知ることもなく、素晴らしい先生方との出会いなどもなかった。今は逆に、高校時代の自分に“ありがとう”と言いたい気持ちです」
2015年8月にフィンランドで開催された「マスターテーラー世界大会」の「金の針・糸」部門で、栃木県宇都宮市在住のドレスデザイナー・坂本愛里さんが、日本人女性としては初となる準優勝に輝いた。紳士服・婦人服を仕立てるテーラー業界は、いわゆる“男性社会”。しかも、第一線で活躍している年代が60~80代と非常に高い。坂本さんが出場した若手技術者の部門でさえ、対象年齢は50歳まで(22歳~)。男女混合の世界最高峰の大会で、33歳の坂本さんが2位に登り詰めたことは大変な快挙であった。

「2011年に『全日本洋装技能コンクール』で日本一になることができて、それ以降“次は世界で一番に!”との思いで目指してきた大会でした。今回4度目の挑戦で初めて日本代表として出場させていただいて、2位になれたことはうれしかったんですけれど…。私は小さいころから体育会系で育ってきたので、やっぱり一番がいいなと思いました(苦笑)。次回も出させていただけたら、今度こそは1位を獲りたいですね」

生まれつき運動神経が抜群で、走ることが大好きだった坂本さん。小学4年生の時に1歳下の弟さんに付き添う形で、サッカーのクラブチームに入団。同級生にはのちの「なでしこジャパン」の中心選手・安藤梢選手もいた強豪チームで、6年生の時には全国優勝も果たした。将来の夢は、「東京の体育大学でサッカーを続けながら教員免許を取って、地元で体育の先生になること」。しかし、その夢は高校2年の秋に一瞬にして崩れ去った。練習中に、右足首の複雑骨折という大ケガに見舞われ、2カ月間入院。3年生の夏まで松葉杖生活を余儀なくされた。

「3年の春には進路を決めなくてはいけなかったのですが、体育大学には実技試験もあるので、この状態では無理だなと。子どものころからずっと、体育大に行って学校の先生になることしか考えていなかったし、両親も応援してくれていましたから、もう何をどうしたらいいのかわからなくなりました。サッカーのチームにも籍は残していましたが、悔しくて、辛くて、卒業間際まで練習や試合を見に行くことはできませんでした」

白紙に戻った進路相談。担任の先生から体育以外にできることを聞かれ、「手先が器用なことくらい」と答えると、指定校推薦があった青山学院女子短期大学の家政学科を勧められた。それまでサッカー一筋とあって、手芸や裁縫などにはまったく興味がないどころか、針すら触ったことがなかったが、3年生の夏に足を運んだオープンキャンパスで気持ちが大きく動いた。

「キャンパスが表参道に近い渋谷で、学生寮が代官山。『あっ、ここだ!』ってそのオシャレな雰囲気だけで決めちゃいました。もし違う場所にあったら、別の大学に行っていたかもしれません(笑)。洋装の道に進もうと思ったのは、友だちの紹介で始めたアルバイトがきっかけでした。代官山にあるオートクチュールのお店で、試着のお手伝いなど裏方のお仕事だったのですが、そこには色とりどりのキレイな布地がたくさんあって、今まで見たことがない世界が広がっていました。その布たちが、パタンナーさんやデザイナーの先生の手によって、みるみるうちに素敵なドレスに変身していく…。これだ、この仕事をやりたいと」

短大を卒業した翌年に帰郷し、海外挙式のプロデュース業を営んでいた母と一緒に、ウェディングドレスを中心としたオーダーレンタル店「アイリーンティアラ・ブライダル」を開業。22歳の若さで一国一城のデザイナーとなったことから、洋装の知識と技術をさらに高めるための努力と勉強は絶えず続けてきた。26歳の時には、国家資格である「婦人子供服製造技能士一級」試験に史上最年少で合格。国内外でその実力が広く認められるようになった現在でも毎月1回、大先輩にあたる熟練の女性テーラーの元に通って指導を受けている。

「オーダーメイドはとても難しくて、だからこそおもしろいんです。お客様が試着された際、ご自分の体のサイズにぴったりだと言って喜んでくださると、私も本当にうれしくて。洋装において着心地の良さというものは一番大事ですから、それをこれからも勉強し続けていきたい。私はサッカーをやっていたので、忍耐力は人一倍あるんです。大変なことも大変だと捉えることはなくて、これをやっていれば決して損になることはない、必ずプラスになって戻ってくると信じて、何事にも取り組んでいます」

(菅原悦子)

■TOP WOMAN 第10回

  • こだわり仕事道具
    デザイン画を描く際に使う「Aoyama Gakuin」のロゴ入りシャープペンと、デザイナーになって初めて買った裁ちバサミ。常に初心を思い出させてくれる2品
  • 世界が認めた瞬間
    1910年から隔年で開催されてきた「マスターテーラー世界大会」は洋装界で最も歴史と権威のあるコンクールだ。坂本さんの受賞作品を着用したモデルさんと

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