「つねにニュートラルでいたい」

松田龍平

2011.02.17 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 text ATSUNORI TAKEDA 稲田 平=写真 photography PEY INADA 長友…
世界が構築されていて、人間が息づいている作品

「整理して言うとなると…難しいな。なんだろ…」

質問は、作品に出る基準について。松田龍平は言いかけてやめる。どうやら気持ちにぴったり合う言葉を探そうとしているようだ。

「…結局、ドキュメントではないものを作るなら何でもありというか、役者さんがいて、自由な発想で登場人物をどんなふうにも描ける。そこにきちんと世界が構築されてて、登場する人間が息づいているような作品をやりたいと思ってます。判断する材料はそれだけではないけど、脚本だったりするのかな。脚本って活字だから、実際にやったときに、どれだけ文字で書かれたセリフとセリフの間を埋めることができるのか。脚本を読んで、そこのところの想像力をかき立てられるようであれば…」

テレビドラマに初めて主演した。WOWOWが制作する『同期』。演じるのは警視庁捜査一課の刑事・宇田川。公安部に配属された同期の蘇我が突然、懲戒免職になり失踪。行方を追ううち、警察内部から圧力を受け、ついには蘇我にある殺人の容疑が…。友のえん罪を晴らすため警察組織と戦う、若い刑事の姿を描く作品だ。

何よりも注目は、演出を担当するのが『SRサイタマノラッパー』の監督・入江 悠であるという点。

「僕もあれを観て、入江さんと一緒に仕事がしたいなと思ったんです。系統が全然違う話だから、どういうふうに撮るんだろうって楽しみにしてたんですよ」

『SR~』は、埼玉県北部の田舎町で何者にもなれずくすぶりつつラッパーを目指す若者像を半端なまんまに描き出した傑作である。1シーンをほぼワンカットで、たっぷりと撮り、ときにドキュメンタリーとしか思えないような超リアル感が画面に息づいている。一方で『同期』は、きわめて端正な劇映画として、真っ当に撮り上げられている。

「“サイタマ”みたいには撮らないだろうと思ってたけど、ここまで撮り方を変えるのはスゴイなと。びっくりしました。」

同期の蘇我役に新井浩文をキャスティングしたのも入江采配。だがそれ以前に、02年公開の映画『青い春』で、同級生役(そんな生ぬるいものではないが)を演じて以来、松田龍平と友人同士。

「“同期”という関係性はハマりましたね。それより監督が新井くんのこと、好きだって言ってて、僕は個人的に新井くんのキャラクターを知っていたから、公安のエリートというイメージがなかなか湧かなかったんですが、撮影が始まったら、それが面白かったですね(笑)」

ドラマの冒頭、逮捕した犯人を2人が譲り合うシークエンス。かなり長く、悪態など織り交ぜつつ演劇的なやりとりが続く。ここで宇田川と蘇我の、つまりは松田と新井の“同期っぽさ”がじわーっと伝わってくる。しかもアドリブらしい。必見である。

「2時間のドラマ内で2人の関係性や距離感を見せる機会がないですからね、あの冒頭は印象的でしたね」

デビューは12年前。15歳のとき、大島 渚の誘いで『御法度』に出演。当時は普通の中学生だった。

ビジョンは、わからない。だが、確実にある

「将来…うーん、なんだろうな。考えてなかったですね」

俳優になるつもりはなかった。なりたいものもなかった。だからといって『御法度』1本で、また中学生に戻ったわけではない。結果的に12年続いている。

「役者をやっていこうと決める…ということはしてないんですよ。今もよく聞かれます、“これから俳優をずっとやっていきますか?”って。わからないんです。ただ、今やれることをやっていて、そこから得られるものが大きい。それが答えのすべてですね」

仕事を通じて得るものが大きいというのは結果論である。得るために演じているわけではない。

10年近く前、松田龍平はあるインタビューで「楽しんだり、何かを学んだりするのは違う」と言った。なぜなら“仕事”だから。プロとしてお金をもらうのは遊びでも勉強でもなく、報酬に見合ったものを提供することである、と。

「考え方は変わってないですね。確かにみんなで物作りするというのは楽しいんですよ。空気が盛り上がって、みんなクリエイティブになって自信を持ってやっているときなんか、とくにね。でも結局、どこに行きつくのかというと、出来上がったものなんですよね。むしろ場の“熱”みたいなものは、ときどきすごくコワイなと思っているんです」

その上がったテンションに押し切られて、最善の判断ができなくなる可能性があるから。

「だから出来上がったときの期待を込めて、現場での喜びはあえて押し殺すこともあります(笑)」

作品の完成まで、達成感は訪れない。世間の評価は気にならないと言えばウソになるが、何よりもまず「はじめに来るのは自分の感情ですね。そこにはウソつけないじゃないですか…つかなきゃいけないときはあるけど(笑)」。

そう、こういう取材のときとか。

「…(笑)。ただ、そういうときでもウソをつかず、素直にすげえなって思える作品がもたらす喜びは、何物にも代え難いですね。“いい作品の完成”に向かう以外に何があるんだろうって思っちゃいますけど」

“現場での盛り上がり=作品の完成度”とは言いきれないと、松田龍平は言った。それでも。

「そういう偶然みたいなものが映し出されているときって最高なんですよね。映像ってひとりで作るわけではなくて、いろんな役割の人がそれぞれの考え方を持って現場にいて、みんなが同じ方向を向くのはそんなに簡単なことじゃないんです。そうなったときに、自分の想像を超える出来になっているかもしれないという楽しさはあって」

作品に参加する俳優を船の乗組員にたとえる。舵を取るのは監督である。昔は「どこにつくかわからない」という状況を楽しんでいたという。予想外の方向に行きながら、そこでもがいてみる。それが少しだけ変わってきた。

「今は船の着く場所を、自分のやりたいこととある程度一致させたいと思うようになりました」

俳優としてのビジョンが明確になってきたから、だろうか。

「…ではないですね。“あることがわかってきた”だけで。普段、ひとつずつ物事を判断するときに照らし合わせる基準はたぶんあるんですよ。でもそういうのって自分の生理だから、客観的に“こうしたいからこうなんだ”ってルール化はされていません。状況に応じてそのつど、イエスかノーかはきちんと判断できるようになってきたのかな」

そういえば、俳優になる宣言は、まだ行っていないのであった。

「プライベートの自分の人生があって、俳優としての仕事がある。仕事で得られることも、当然、僕の人生のひとつですよね。僕は、自分の“いいなあ”って思うことに素直に行きたいんです。僕なんかいろんな人の影響をダイレクトに受けてますよ。それを恥ずかしいと思ったことはありません。どれだけ影響受けても自分は絶対その人にはなれないから。取り込んで噛みしめれば、出すときには絶対違う形になっていますしね。むしろずっとコワかったのはがんじがらめになること。経験していないのに“こうだ”と決めつけて遠ざけること。で、つねにニュートラルでいたいと思いながら生きてます…なかなかなれないんですけどね(笑)」

俳優は、人生の一部。こうした意識はつまり、“どんな人間になりたいか”という人生の問題にも関わってくるわけで。

「固定観念に縛られてもったいない思いをしたくないんですよ。感動したことに対して、素直に感動したいんですよね」

1983年、東京都生まれ。99年、映画『御法度』(大島渚監督)でデビュー。日本アカデミー賞、キネマ旬報、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞など新人賞を総なめ。02年、『青い春』(豊田利晃監督)に主演。04年、松尾スズキ監督『恋の門』でのテンション全開も、07年『悪夢探偵』の鬱演技も、10年『ボーイズ・オン・ザ・ラン』の超イヤなヤツも記憶に新しい。新井同様、『青い春』で共演以来の友人・瑛太とのダブル主演の『まほろ駅前多田便利軒』が4月23日公開予定。今回の『同期』が意外にもドラマ初主演だ。wowow.co.jp/douki

武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
稲田 平=写真
photography PEY INADA
長友善行=スタイリング
styling YOSHIYUKI NAGATOMO
中村兼也(BERONICA)=ヘア&メイク
hair & make-up KENYA NAKAMURA

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