スペシャルインタビュー:堀江貴文(2)

堀江貴文「僕個人がやりたいことなんてどうでもいい」

2011.06.02 THU


取材・文=武田篤典 撮影=稲田 平
世界一の企業よりロケットの方がドキドキ。



ロケットはおおよそ5年がかりで打ち上げ実験までようやく漕ぎ着けた。堀江さん自身は、ロケットの専門家ではない。では、どんなふうにこのチームにかかわっているのか。

「いわばリーダーですね。組織って誰かが“こうしよう”って決めないと進んでいかないものです。技術もある程度理解したうえで、方針を決める。計測機器を買っていいかどうか決める(笑)。たとえばロードセルという推力を計算する機構だとか、圧力センサーとか、バルブとか…結構高いんですよ。1回の打ち上げ実験で何百万という世界。なので“これはやろう、これは別の方法を考えよう”っていう判断をしたり。僕は素人なので、みんなからのレクチャーを受けて、いろいろ勉強しつつ。あと、実験では読み上げ担当。僕はだいたい取り乱さない。緊急時でも淡々とやる方なんで、向いているんですね。たまにスゴイ技術者でも実験になるとめっちゃ緊張しちゃって焦って、手順を飛ばしちゃったりする人もいるから、手順書も作ります。あとはプロジェクト全体の進行担当とデバッグ。これはソフトウエアづくりでも基本は同じ。それから人材捜しに資金調達。もちろん実際に自分でパイプをカットしたり、バルブを組み立てたりも!」

六本木ヒルズ49階の広々とした会議室で、ときにペットボトルをロケットに見立て、両手をブンブン振り回しながら語る。

「ロケットって複合的な技術なんですよ。燃焼工学から機械加工技術から、電子工学、電波の扱い方、諸々の素養が必要。さっき言ったバルブも特殊でね。普通にネジを締めると隙間から流体が漏れちゃう。そこにグリスとかを詰めてふさぐんですけど、超低温の液体酸素が通るとグリスと反応してやっぱり漏れるんですね。だから傘の先っぽ切ったみたいな特殊の台形の金具をバルブに巻き付けて圧着するんです! これがスゴイ!。締め方もえらくめんどくさいんですけど、やりながら覚えていくみたいな(笑)」

ものすごくうれしそうなのである。

だが、2011年4月26日、ライブドアの粉飾決算事件で旧証券取引法違反に関する上告が棄却され、懲役2年6カ月という判決が確定した。近く、ホリエモンは収監される。

「うん、ロケットに関してはこの間話し合ってロードマップを決めてきました。資金繰りの話と、今後の計画。僕がしばらくいなくなるんで、逆に先のことまで決められた、みたいな(笑)」

今年7〜8月には海に向かって打ち上げる。1.5〜2kmの高度で、テレメトリー(ロケットに搭載したセンサーやカメラからのデータを地上とやりとりすること)を実験。冬には姿勢制御の実験。翼を付けず垂直に打ち上げたロケットを、エンジンの噴射口などを制御して、姿勢を保つ。来年夏には10km上空まで打ち上げ、その次には2段式のエンジンで高度100kmを目指す。そして最短で、2013年の夏には軌道飛行を目指す。
いない間の不安はないのか尋ねると「不安より、悔しい」という。

「参加したいんですよね。これからの2年半のロケット団に。動画も見られないし…これは写真とかレポートを毎週送ってもらうことになったんですが。今はツイッターとかメーリングリストを使ってネット上で情報共有してるんですけど、収監されたあとはウチのスタッフが全部プリントアウトして、写真も全部紙焼きにして郵便で送ってくれる…ということになりました。あとは、僕が出してるメールマガジンの連載でロケット団の活動の状況を書いてもらうことも決まったし、まあいい感じですよね(笑)」

その先——。

刑期を終えてロケットが文字通り軌道に乗ったとして、その先、宇宙で堀江貴文はどんなことをしたいと考えているのだろう。

「僕個人がやりたいことよりも、みんながいろいろなことに挑戦できるプラットフォームを整備したいんですよ。僕たちのロケットが軌道に乗って、1回の打ち上げがたとえば1000万〜2000万円ぐらいでできるようになれば、みんなが斬新なアイデアにチャレンジすることができると思うんですよ。現状1回何億っていう話だと、より確度が高いものじゃないとできない。そうじゃなくて何か面白いことをやれる環境づくりが大切だと思っています。それをずっとやっていくと有人宇宙飛行も見えてくるのかな」

そして強調する。

「僕個人がやりたいことなんて、ホントどうでもいいんですよ。プラットフォームさえ整備できれば。絶対僕より面白いことを考えてくれる人がいるんだから。それを見てみたい。かつて僕はインターネットの事業をやっていました。いち早く気づいて、それを仕事にはしたけれど、全部自分が考えて発展させてきたわけではもちろんないですよね。スゴイヤツらが出てきて、次々とスゴイことをしてくれた。宇宙開発に関しても、同じようなことが起こる予感がすごくあるんです」

手元には2005年1月に発行された『R25』のバックナンバー。堀江貴文のロングインタビューが掲載された号だ。
「普通、世界一目指しません?」というタイトルが付いている。起業したからには時価総額世界一の会社を目指すのは当然である、と、当時32歳だった堀江貴文は語っている。

「30代で世界一になるつもりでした。そしたら会社をやめて、ロケットをやろうと思っていたので。当時、惰性で走っていったら世界一になれるところまではやったんですよ。たぶんあと2年か3年だったろうな。それはついえて、また1から同じことをやったらたぶん15年はかかるでしょうね。40歳から始めると55歳…じゃあ宇宙ですよ。ITはもう僕にとってはドキドキ感がないんですよね。思った通りに世の中が来ている。後出しじゃんけんみたいな言い草ですけど、僕、2005年のころスマートフォンの構想持ってたんですよ。今、普通に来てるでしょ。理想とする世の中に近づいてきたので、ITに関しては満足。世界一の会社、っていうより宇宙のフロンティアを目指す方がドキドキするし、カッコイイでしょ(笑)」

ただ、しばらくは「シャバを楽しもうと思う」と笑った。
収監が決まって以降、多忙を極めている。この取材時間だって急きょ、ある新聞社と分け合うことになったのだ。時間が来て、去り際に尋ねてみた。

——もう政治家になるつもりはないんですか?

「それも思ったんですけど、政治家よりも技術革新をした方が世の中変わります。だってフェイスブックは世界を変えられたけど、日本の首相は世界を変えられないでしょ。技術が世界を変えていくと僕は思っている。地球しかないとみんな思ってると思うんですけど、そんなことない。宇宙に行けば、瞬間で何かが変わると思いますよ」

  • 『ホリエモンの宇宙論』

    第二次大戦からのロケット開発の歴史や、なぜロケットがかくも巨大なプロジェクトになったかという背景など懇切丁寧にわかりやすく語りつつ、今なぜ彼が宇宙ビジネスに夢中なのか。そこには何があるのかを論じる。1429円(税別)講談社刊
  • ほりえ・たかふみ

    1972年福岡県生まれ。東京大学文学部在学中に起業。元・株式会社ライブドア代表取締役CEO。06年1月証券取引法違反容疑で逮捕される。07年3月東京地裁で懲役2年6カ月の実刑判決を受け、11年4月上告棄却、収監が確定した。逮捕後は経営コンサルタント、作家、俳優、AVプロデューサーなど多岐にわたり活躍。メールマガジンは1万人以上の読者を持つ

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