「もっといろんなことをやりたい」

沢村一樹

2011.10.20 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
あなたが想像するよりも、
かなりいい話である

「“ミギソクフクブ”? “ウソクフクブ”が正しいんだっけ?」

スタッフに話しかけながら、取材のために用意された会議室の前を通り過ぎる。テレビ局内のスタジオのすぐ隣だ。ついさっきまでドラマの撮影が行われていたらしい。沢村一樹、白衣である。と、そのまま部屋に入ってきた。

胸には堂上総合病院のIDカード。沢村の写真の横には“相良浩介”という名前が記されている。ドラマ『DOCTORS~最強の名医~』の主人公である。

「ある大きな病院に、別の病院から単身やってくる医者であると。その設定を聞いたとき、ひとりワクワクしてたんです。“これって僕の大好きなブルース・リー映画のパターンだ!”と(笑)。ブルース・リーって、だいたいひとりで知らない土地に流れてきますからね。でも…」

堂上総合病院の医師たち(中心は、高嶋政伸演じる森山 卓)はクールだ。欧州車を乗り回し、ナースの人格を認めず、患者には冷酷。一方の相良は、ニコニコとナースに人形焼きを差し入れ、患者に親身に対応。

あ、でも単純にそういう…つまり“医療の本道を忘れたビジネスライクな医師たちと、型破りな人情医師との対立構造”というだけの話では、全然ないのだ。

沢村一樹は、相良を演じるプレッシャーが高まっていると言った。なぜなら「想像していたよりも、かなりいい話だった」から。

“想像”していたのは、たぶん先に書いたみたいな単純な対立構造だろう。だがこの主人公、単なるいい人ではない。そしてもちろんドラマそのものも一筋縄ではいかない。

「病院をよくしようという思いは間違いないんですが、理想論と実務のノウハウは違う。相良は、金儲けがしたい医師を否定しません。そういう周囲の欲求を踏まえながら、うまく自分の理想を実現する。つまり患者にとって最善なことの追求ですね」

人情だけを武器に、医療を仕事と割り切った医師たちの意識を改革するなど無理なのだ。

「医療ものである一方、ビジネス書のニュアンスもあるんですよ。交渉術や相手を説得するときの切り口の提示の仕方とか。相良という男のものの考え方は、普段も非常に役立つと思います。この相良浩介のような役に出会えることって、そうそう頻繁にあることではないので、喜びと同じような比重でプレッシャーが。喜びが大きいほどプレッシャーも大きくなるんだなっていうことを今回とくに感じてます」

ドラマの撮影にあたり、禁酒を始めたという。目標は1カ月。

「酒を飲むのをやめておくと、台本を読む時間が単純に増える…だけのことなんですけど(笑)。でもね、これがうまくいくと達成感が得られるんですよ。すごく小さいけれど、一つの成功体験。すると、次にまた何かを達成したくなる。それだけじゃなく、どんなに小さくても一つ成功を積み上げておけば、“オレだってやればできるんだ”って思えますし」

酒を休むことそのものよりも、自ら設定した課題をクリアすることが、後のモチベーションにも自信にもつながるというのだ。

これといい、ドラマをビジネス書として観る件といい、『R25』的にツボな話ばかり。すばらしいサービス精神なのである!

子どものときの思いが、
今すべていい具合に

「悔いのないようにしたいと思うと、そうなってしまうんです」

沢村一樹のサービス精神は、このインタビューに限ったことではない。舞台あいさつや番組宣伝など、様々な機会で面白さを発動させている。

「今も記者のみなさんに、このドラマの宣伝であいさつに行ったんですが…ついふざけてしまうんですね。マジメにもできるんです! でも、マジメにやってしまったときの後悔の大きさたるや!(笑)“なんて普通なことを言ってしまったんだろう…”と。僕が普通の人間だからなのかもしれないんですが、そういう場が無難に終わることがイヤなんです」

思いついたことを言うまでは自由。でもそれが受け入れられるのは“有段者”の証だろう。

「なんでしょうねえ…自分の頭の中に浮かんだことを試してみたくなるんですね。僕が面白いと思ったことが、みんなに伝わるかが気になって、それで実際に口に出してみてみんなが笑ったときの、快感がたまらないんです。もちろん、できるだけ記者のみなさんに取り上げてほしいので、一番記事を書きやすいキャッチーな言葉を探しながら話してます。でも、ここのところは、記者の方から“下ネタください!”って言われるんで困ってるんですが(笑)。よく言うんですが、下ネタってメインディッシュじゃなくてスパイスなんです! それだけ注文されても困ってしまうんですよね(笑)」

れっきとした連ドラ主演俳優である。子どものころから今の仕事を志していた。20代のほとんどはファッションモデルとして過ごし、俳優としてきちんと仕事をしたのは29歳のときの『続・星の金貨』。だが、このころからすでに、ことあるごとに「コントをやりたい」と発言し続け(そして当時のマネージャー氏に一蹴され続け)ていたという。

そのキャラクターを決定的にし、地位を確立させたのは05年の『『ぷっ』すま』。

「○○が水着に着替えたら」というコーナーだった。MCとゲストがそれぞれ素人女性に水着をプレゼンし、どちらの水着が選ばれるかを競う企画である。

「そのころまだ、下ネタを言うのがちょっと恥ずかしかったんです。どうしても言いたかったんですけど(笑)、この水着の企画に素の沢村一樹で出て下ネタを言うのは地雷だなと。それで衣装さんにお願いして、白衣と聴診器を用意してもらったんです。で、NHKのある人が観ていて『この人だ!』って思ったんですって(笑)」

それが『サラリーマンNEO』の監督だったのだ。

「楽しいですよ。“セクスィー部長”も“川上くん”も僕用のカメラがあって、何をやっても拾っててくれるんで(笑)。やってる途中に“あ! このカメラマン、何やってもずっとオレのこと追っかけてる!”って気づいたんですけどね(笑)。僕は普通、現場で何が起きても対応できるようにあんまりかっちりセリフは覚えないんです。でもNEOの場合は、1回でドンと撮っちゃうので、しっかりセリフを入れていって、そこからアドリブを出してます」

05年から出演、全身からむせ返るフェロモンを分泌する男や不器用で間の悪すぎる男などを演じて人気を博している。今や沢村一樹は“オモシロ”もできる俳優だという認知を完全に得た。さらには、小さな役でポロッとゲスト出演もこなす。次の一言で、彼の姿勢は完全に納得なのである。

「僕、小6ごろから竹中直人さんが大好きで。ブルース・リーの物まねの師匠のひとりだったし、その後“あ、ここにも出てる!”っていう、主役とかちょい役とか問わずにいろんな映画に出られる姿勢みたいなのも好きで。今、僕は、子どものときに一番なりたいって思ってたものになれてる実感があるんですよ。好きだったことの一つ一つが役に立ってる気もしていて」

先のことはあまり考えないという。予定は、聞いても基本忘れる。でも少しだけ思うことはある。

「30~40代にかけて、ちょっと楽な仕事がしたいなと思ってた時期があったんです(笑)。でも最近はもう少し働きたい。映画に出たいし海外の俳優さんともお仕事したいし、舞台も…。もっといろんなことをやりたいなと。意識しないとお笑いの方にブレがちなので、俳優の仕事は軸にしたいとは思っているんですけど」

そしてやっぱり、すばらしきサービス精神。

「でも、基本、求められればどこでも行きますよ…あやまんJAPANみたいに(笑)」

1967年、鹿児島県生まれ。高校卒業後上京、モデルとして活躍。96年、ドラマ『続・星の金貨』で俳優として本格的にデビュー。『ショムニ』シリーズや大河ドラマ『利家とまつ』、TBS系の『浅見光彦シリーズ』など、主演・レギュラー・ゲスト問わず、出演作は膨大。NHK『サラリーマンNEO』のセクスィー部長をはじめ、コントやバラエティでも活躍。この冬には主演のスペシャルドラマ『警視庁失踪人捜査課』や、ABC創立60周年記念スペシャルドラマ『境遇』など(ともにテレビ朝日系)が待機。

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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