「ただただ面白いね、おかしいね、笑えたねで終わるコメディを」

三谷幸喜

2012.05.17 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
映画のパブリシティにまつわる長い前置き

「この中からまとめていただければ」と、三谷さんは言った。

映画『ステキな金縛り』は三谷幸喜監督第5作。深津絵里演じる三流弁護士が、西田敏行演じる落武者の幽霊を証人として呼び出し、殺人の冤罪と闘う法廷ミステリー…にしてコメディ。基本設定で笑わせるだけでなく、話はきちんとミステリー的に展開し、最後には感動的に着地するという…。深津さんも西田さんもこのうえなく魅力的な1本だ。

公開は2011年10月29日。この前後には三谷監督本人による大キャンペーン活動が行われた。雑誌やTVのインタビューはもちろん、嵐を演出し、明石家さんまと生放送でコントを演じ、AKB48と歌った。果ては、映画のキャストを使った新作ドラマ『ステキな隠し撮り』を書きおろし、演出。

この、今や三谷映画新作の風物詩ともいえる大キャンペーンで、映画の内容についてはかなりのことが語られた。さらにはクランクインから公開前までの、監督の本音がぶっちゃけられたメイキング本『監督だもの』(マガジンハウス刊)が10月27日に出版された。三谷さんが「この中からまとめれば」と言うのも納得の充実ぶりで、まもなく出る『ステキな金縛り』のブルーレイ&DVD(特典付きの方)と併せて読めば、映画について知りたいことはほぼ知ることができる。

ただ「自作のソフト化に思うこと」や「これからどんな映画を撮りたいか」などは、別。その辺のことは次の見出しの後、いよいよ三谷幸喜の言葉で語られるのである。

自作がソフト化されて。そして新作のこと

「映画ファンの立場から考えると、やっぱり観たいんですよね。たとえば、僕『ジョーズ』が大好きなんですけど、2005年に30周年記念のDVDボックスが出たときにすごい特典がいっぱいついていて。メイキング、未公開シーン、NG集もあったんです、大好きで何回も観た映画の“カットされたシーン”を今になって観られる喜びは相当なものですよ。(笑) 船底から死体で出てきたオジサンのキャラクターがきちんと劇中で描かれていた、みたいなことが30年目にして初めて明らかになる。そんなことがすごくうれしいんですよね。

映像ソフトで映画のタネ明かしをしてしまうことを、監督自身、ファンの立場から語るのである。

「観る側は、好きな映画のすべてを観たいんですよね。これは好きな女の子のすべてを見たいのと同じ。部屋も家族も寝姿も、見られるものは全部見たい(笑)。作り手としては恥ずかしいものもありますけど、それはもうサービスです。僕の作品を好きな方が観てくださるのですから」

ファンとして観たいし、監督として観せたいのは“カットしたシーン”だという。でも、それらをつなぎ直した、俗にいう“ディレクターズカット”については反対派。

「できあがったものが僕にとってのディレクターズカットですから。時間的な制約でカットしたものを、時間を気にしなくていいブルーレイやDVDのときに復活させたいかというと、したくないんですよね。できあがったものを冒涜するような感じがあって、できないんです」

一方で舞台の演出に関しては、毎日少しずつ修正し千秋楽の幕が下りても「残尿感がある」と言う。

「映画については確かに舞台ほどの残尿感はないけれど、今まで1本たりとも完璧だと思えたことはないし満足もしていないんです。舞台はいくらでも直しが利くから、その分未練がましくなる。映画は撮っちゃったらどうしようもない(笑)。撮影している段階で、今の目の前のシーンが数日後ラッシュになって、数カ月後編集して1本の映画になって、1年後に公開されてそれを観ているお客さんのリアクションを想像する大変さに、いまだに慣れないし、そこまで僕の想像力が及ばないんですよね。現状は半分ぐらいしか成功していませんね。コメディの場合、理想を言うと1回完成させたものをお客さんに何回か見せて、反応を確認してもう1回編集する。もっというと、追加で撮影もする。こういうことができればいいなあと思ってるんです」

だから、映画にも残尿感はある。「完成してゼロ号試写、1号試写をやってもべつに達成感はないです。公開されて公開が終わって、それこそこうしてDVDなりブルーレイになって、自分がこの数年間やってきた仕事が手の上に乗ったときに、微々たる達成感はあるといえばある…こんなもんか、みたいな(笑)」

特典てんこ盛りでボックス化することは、あらゆるものを観られるという点でファンにとってはうれしい。

「そうですね(笑)。自分の作品も自分の作品もディスク1枚で“これだけ?…”って思うよりは、ボックスの方がいいかな。『ジョーズ』とか『大脱走』とか、僕の大好きな映画が、ボックスになって自分の手の上にあるのは“すごい!”って思いますからね」

昨年夏のTVインタビューに気になる発言があった。「今は全部出して、出し尽くした感がある」と。

昨年は生誕50年祭と銘打ち、舞台4本と映画、WOWOWでの全編ワンシーンワンカットのドラマ『short cut』を制作した。で、今年も6月から8月にかけチェーホフの『櫻の園』の翻案、演出、戸田恵子の一人芝居の再演、新作の文楽を手がける。全然「出し尽くした」人ではない。

「どんな気持ちで言ったかは覚えてないんですけど…。それは、歯磨き粉のチューブを最後まで絞りきって何も出ないという意味ではなく、倉庫にあった商品をみんなに提供してしまって空になったっていうイメージなんじゃないかと。あったものを出したので、やっと置くスペースができましたよっていう気持ちだったと推察します」

なるほど“ソフト化で達成感”とか言ってる場合ではないのだ。すでに2015年の舞台が決まりつつある。すべてが三谷本人から発信されたものとではない。俳優からの“一緒にやりましょう!”やプロデューサーからの“三谷さんと、このキャストでぜひ!”というようなオファーを受けてから、内容を考えることも多い。

「僕は僕がやりたいことだけでなく、誰かが僕にやってほしいことをやるのが好きなんです。それらは1:3ぐらいの割合かな。今もいくつかお話をいただいているものと自分のやりたいものを整理しつつ、この先のことを考えています」

そういう状況下で映画の企画も入ってくる。

「以前は4年周期でやらせていただいていたんですが、最近はある作品が公開されるときには、次の企画が始まるっていう形で。今は幸いお客様が入ってくださってるんで、次もできる。そこを考慮して、今取り組んでる映画がコケる前に、次の映画の企画をすばやく立ててしまうという、そんな邪な考えもちょっとあります(笑)」

今みたいに映画を撮るのは60歳ごろまでだと、三谷さん、公言している。今年51歳で、3年後の予定まで決まっていて、そこに焦りみたいなものはないのだろうか。

「それが、ないんですね。なんでかとういうと、僕は映画制作者以前に映画ファンだから、基本的には映画ファンが映画を作っているのであって、言い方は悪いけど、もしかしたらプロ意識に欠ける監督なのかもしれない。やっぱり“趣味”なんですよね。映画は楽しいことばかり。映画ファンとしての思いを、今度自分が映画を作るときに実践してみたい。SFもやってみたいし時代劇も吸血鬼ものもやりたい。僕が映画ファンであり続ける以上は、いくらでも、もしそういう機会を与えてくれるならば映画を作り続けたいなと思っています」

60歳はすぐ来てしまうのである。

「僕の理想は、感動とかそういうものを取り除いちゃって、ただただ面白いね、おかしいね、笑えたねで終わる、満足感以外何も残らないコメディを作ることなんですけど、それを作れるのは60歳ぐらいが限度のような気がするんですよ。70歳80歳になったときに、笑いに関しての感性を持ってる自信がないので。その先はまた違うものをやるのかもしれないですね」

となると隠居説は…。

「そんなの一言も言ってない(笑)」

1961年、東京都生まれ。大学在学中の83年、劇団『東京サンシャインボーイズ』を結成。『12人の優しい日本人』『ショウ・マスト・ゴー・オン』などを書き、演出。劇団は現在充電期間中。その後も『笑の大学』『オケピ!』など多数の舞台や『王様のレストラン』『古畑任三郎』『新選組!』『わが家の歴史』などのドラマの脚本も手がける。97年より映画監督の顔も『ラヂオの時間』『みんなのいえ』『THE有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』に続き、今回の『ステキな金縛り』は5作目に当たる。

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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