大きな物語をいつか全部つなぐ

松本零士

2012.08.23 THU

ロングインタビュー


武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
松本零士最新作は、
机で眠っていた幻の作品

天板に本物の化石が封じ込められたテーブルに、パッケージが置かれる。DVDとブルーレイ、タイトルは『松本零士 オズマ』。

「ふーん、こんなふうになったの」

当の松本先生、封入されたライナーノーツを手に取り、パラパラとめくる。漫画家歴59年。『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』『1000年女王』『キャプテン・ハーロック』『クイーン・エメラルダス』など、そうそうたる作品を世に出し続けてきたが、「やっぱり新しい作品がこうして形になるとうれしいですよ。夜中に人がいないところで一人で観るわけですよ(笑)」

『オズマ』は、この春、WOWOWの開局20周年を記念して制作された全6話のアニメだ。

舞台は、生態系が破壊され、砂に覆われてしまった未来の地球。海のように船が砂漠を行き来する世界だ。主人公のサムはそんな砂の海を行く交易船の乗組員。砂漠に出没する謎の物体「オズマ」に兄を殺され、カタキを討つべく旅を続けている。彼はある日、“アイディアル・チルドレン”(IC)の砂上駆逐艦に追われる美しい女性マヤに出会う。ICは優秀なDNAを持つクローンたち。この時代の地球を統治している人種だ。マヤはなぜ彼らに追われていたのか。「オズマ」とは何か。

“松本零士最新作”ではあるけれど、実は80年代後半に考えたオリジナルストーリーが基になっているのだという。

「『超兵器オズマ』っていう、2時間の劇場用映画のために書いたシナリオが基になってるんですね。お蔵入りになって、長年机の中に眠っていたんです」

それをいま発掘した理由を尋ねると、松本先生、事もなげに言う。

「だって台本があるから。プロットのレベルじゃなくてちゃんとした台本ね。登場人物をきっちり決めて、設定を作り、台本にしてあったので。そこからマンガにするかアニメにするかを決めるんです。作品を作る際に台本を書くのは、ずっと昔からの僕のやり方。作品によっては、絵コンテに近い状態のものもあります」

そうしてまとめたものは数知れず。いつかは完成させたいと、引き出しを開くたびいつも胸を痛めていたのだという。

描かれるテーマは一貫している。

『宇宙戦艦ヤマト』でのイスカンダルからの使者・サーシャとの邂逅。汚染された地球の再生の物語。『銀河鉄道999』での鉄郎とメーテルの関係性。はたまた機械のカラダを手に入れて生きながらえるのか、自分の生身のカラダにこだわるかという葛藤。『翼手竜の墓場』や『宇宙戦艦デスシャドー』などの短編に描かれた、種の存続と個人の意志の力関係…。

70年代のSF短編からメジャー作品まで変わらぬ“零士節”。

「もっというなら、『電光オズマ』のころにはもう、砂の中を進んでいく魚雷なんか描いてるわけでね。そしたらアメリカ映画でも同じようなシーンを作られて(笑)」

『電光オズマ』は61年に発表された松本零士(名義は松本あきら)初の長編。ここにすでに「機械のカラダ」が登場しているのだ。少年の成長、社会への挑戦などがSF冒険ものの体裁で描かれ、あまつさえ“宇宙戦艦大和”も登場。

「僕が描いているのはひとつの大きな物語です」と先生は言う。

体験から生まれてくる
つながった大きな物語

すべてつながっているらしい。

「つねにいろんなことを夢見て考えてるわけです。いまでも頭の中には物語がいっぱいある。その分世界は広がる。いつ描くとか何の本に載せるとか関係なくそれはあるわけです。描きかけてやめたものもありますし。文章や絵になってるものもあるし、たとえば今回の『オズマ』みたいに台本になってるものもある。そういうものを書くのが、中学、高校生のころから趣味だったんです。構想した作品のコンテを授業中にノートに描く。で、自分一人で作るつもりだった」

そこ見てご覧なさいと指された場所にはアニメの撮影台。20代のころに、自作を独力でアニメ化しようとしたこともある。そのときは17秒作って資金が尽きた。

「大きな物語」とは、テーマだけの話ではない。松本作品では、異なる作品に共通した登場人物がいる。たとえば宇宙海賊のハーロックとその親友・大山トチロー。彼らは、宇宙に出るはるか昔、“先祖”同士が(なぜか)同じ名前のキャラクターとして登場し、一緒に旅をしていたりする。

「誰は誰の子孫で誰と誰が知り合いで…というのは全部決まってます。ハーロックと大山トチローはもともと『ガンフロンティア』という西部劇で、開拓時代のアメリカを旅していたけど、その前に瀬戸内海で出会っています。トチローは、瀬戸内海でハーロックが弾薬の密輸船を爆破する火柱を遠くから見て、刀を抜きながら“あそこに俺の生涯の友がいる”と言い、ハーロックは山の上で爆炎がトチローの刀に反射する刀の光を見て同じことを言うわけです」

このエピソードは『燦 天河無限』という別の物語で描かれている。で、2人は剣を交え、親友となり、共にアメリカにわたって話は『ガンフロンティア』につながる。

「そのトチローの子孫が『男おいどん』に出てくる大山昇太。彼もやがて姿を消すでしょ? でも…」

『男おいどん』は、いずれナニガシかいっぱしの者になろうと、極貧生活を送る大山昇太の物語。漫画家を志して小倉から上京した松本先生そのものの物語だ。

「昇太の子孫が、後に宇宙海賊ハーロックの親友として出てくるトチロー。つまり、どこかでなんとかして昇太は子孫を残したんだなと。絶対にくじけないで生きていったことが、後の血筋を見ればわかるようになってるんです」

トチローは後に女海賊エメラルダスと愛し合い、戦士の銃を作って、それを『999』の鉄郎が受け継ぎ、実はメーテルはエメラルダスと双子の姉妹で、二人の母・プロメシュームは『1000年女王』の後の姿で…。

「そういうひとつの大きな物語なんです。それを最後は全部つなぐ。ですけど、つないでしまうとカーテンコールみたいでしょ。それで“あ、もうアイツくたばるな”って思われるのもイヤなので、まだやりたくないんです」

というだけではない。まだまだ松本零士の中の物語は尽きない。『オズマ』の砂の海での艦船シーンについて聞くと、先生、50年以上前の思い出を語ってくれた。

「下宿の隣に海軍の『最上』の副長がいてね。レイテ戦をどうやって戦ったか、『最上』はなぜ沈まずにすんだのかを聞いたことがあるんです。後に防衛省の資料を見たら、たった1行“猿渡中佐は適切な処理をした”としかない。副長の独断で、弾薬や爆薬を捨てたんだと。それで誘爆を免れたと。その内容を、私は本人から聞いてるわけですよ」

つまり「本物を、身をもって知ることが大切」なのだと。それが物語の種になり、血肉になる。そんな話をどんどんしてくれる。

終戦直後、原っぱで野球していて米兵のお尻をふんだ話。「まっ昼間から女と頑張ってるわけね(笑)。で、アメリカ兵、こっちを見てニヤッと笑う。こっちもこっちでニヤッと笑う」という、松本作品でよく描かれる屋外SEXシーンのルーツだ、きっと。あるいは誤ってタンザニア国境を越え、兵隊とライフルを向け合った話。「“悪かった”ってオレンジジュースをあげたら、代わりにビールをくれて、“今度はビザを取ってキリマンジャロに登れ”って」。乾杯して酔っ払い運転でキャンプに帰ったという、まるで戦場まんがシリーズのようだ。「ネタに品切れはないですね」

『オズマ』のパッケージを見たとき、先生、「あー、昔このやり方があればなあ!」と小さくつぶやいた。CGを使えば一人でもアニメは作れる。そしてふと、少しうれしそうに「いま、ハーロックを3Dで作ってるんです」という。

「これからもいっぱい描きたいし、作っていきたいですね。そのために体調は保全せねばなりませんが。ともあれ描いてる限りその中で私は永遠の少年でいられるのです」

1938年、福岡県生まれ。15歳にして漫画家デビュー。『男おいどん』で第3回講談社出版文化賞を、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』で第6回星雲賞を、『銀河鉄道999』『戦場まんがシリーズ』で第23回小学館漫画賞を受賞。貧乏な独身オトコの日常、戦場、宇宙と、多岐にわたるジャンルで見事な作品を発表し続ける異能の巨匠。紫綬褒章、旭日小綬章。宝塚大学教授、京都産業大学客員教授、デジタルハリウッド大学特任教授を歴任。

武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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