30歳からの黒澤映画

第3回 黒澤映画に学ぶ人間の生き様とは?

2012.08.23 THU

30歳からの黒澤映画


©1965 TOHO CO.,LTD ALL RIGHTS RESERVED. 『赤ひげ』(1965年)。黒澤ヒューマニズムの頂点と評される名作。江戸時代、小石川療養所という小さな診療所に配属された青年医師・保本登(加山雄三)が、同療養所の責任者・赤ひげ(三船敏郎)の元で自分の目的を見つける物語。

黒澤明が描く「自分探し」と「師弟関係」



「黒澤映画って、自分の生きる道を発見する物語なんですよ。いわば『自分探し』映画。たとえば『七人の侍』は、みんな死に場所を求めてるでしょ。死に場所って、すなわち生きる目的ですからね」

『七人の侍』の主人公たちは、圧倒的に不利な状況にもかかわらず、野武士の一団に戦いを挑む。なぜなら、それが自分たちの「役割」だと悟ったから。『用心棒』や『赤ひげ』、あるいはタイトルがそのままズバリの『生きる』も、「オレは何のために生きてるんだ?」と腐っている目的喪失者が、役割を与えられて輝く物語といえます。

「黒澤映画は、自分は何をするのに向いているのか、自分はどうすれば幸せになれるのか、みたいなところに生きる目的はないと断言してるよね。つまり、誰かに求められることが生きることであって、『僕はこれをやりたい』ではなく、『どうかこれをやってください』といわれる人間になりなさいと。その中から生き甲斐が生まれてくるっていう、非常にシンプルなことを、すごくリアルに表現してるんですよね」

さらに、名越先生はもう一つ、黒澤映画から学べることがあるといいます。それは「師弟関係」。

「心から尊敬したいと思える人がいて、忠誠心が機能して、師弟関係は成り立つ。そこで初めて僕らは社会性を帯びるんです。逆にいえば、師弟関係がないと社会的に容認される振る舞いが身につかない。いくら才能があっても、社会性がないとステータスは上がっていかないんです」
©1993 角川映画 『まあだだよ』(1993年)。黒澤明の遺作となった作品。黒澤が敬愛する内田百閒の随筆を原案に、百閒先生とその門下生たちの交流を描いた。師弟関係をめぐる様々なエピソードが、ユーモアたっぷりに、人情味豊かに展開していく。
師匠の前で非礼があってはいけない、師匠の名を汚すようなことはしてはいけない。師匠を上司に置き換えれば、自分を育ててくれた課長に恥をかかせないために、取引先との対応や、お客様との向き合い方に襟を正す。といった感覚ですね。

「あと、日本人は相手を知る場合にその人が信仰する宗教を気にしないでしょ。それって世界基準ではすごく奇妙に見えるんですよ。でも、師という存在は信仰の対象を代替えしている」

 要するに、キリスト教徒に「きみには信じる神がいる?」と問われて「いませんけど何か?」と答えたら不信感を持たれる。でも、「神様はいないけど、人生の模範たる人はいます」と答えれば、信頼してくれるというわけです。

「師弟関係というのは、グローバル社会に対応できる、古くて新しい概念なんです。黒澤明はそういう伝統的かつ普遍的な人間関係を描き尽くしてますから、成長過程にある若い人にこそ観てもらいたいですね」

僕らR25世代にとっては古典的名画といえる黒澤映画。しかし、名越先生いわく、黒澤作品には現代でも十分通用する普遍的なテーマが凝縮されている。むしろ、今の時代に忘れ去られた大切な何かがきっと見つかるはず! とのこと。

自分のやりたいことが見つからずに悩んでいるビジネスマンや、尊敬できる上司がいないと嘆いている会社員は、黒澤映画に生き方のヒントが見つかるかもしれない。

そんな黒澤明の映画を見るのにとっておきの特集が、現在WOWOWシネマで放映中。黒澤明が監督した全30作品をハイビジョンで放映するという史上初のこの企画、改めて黒澤映画を知るのに利用してみてはいかがだろう? 皆さんの投稿を募集中!

右下の投稿ボタンから投稿してください。

取材協力・関連リンク

ブレイクフォト