サッカー選手であり続ける。

三浦知良

2013.12.05 THU

ロングインタビュー


石井大介=スタイリング 武田篤典(steam)=文 稲田 平=写真
キング・カズ、声優として
“キング”を演じる

ツイードっぽい質感の赤いジャケットにブルーのシャツ。アニメではそこに黄色いネクタイと白いパンツを合わせているが、目の前の三浦知良はグリーンのレジメンタルタイにグレーのウールパンツ。

「僕がすごく好きだというのをモンキー・パンチ先生の耳に入れてもらって(笑)。サッカーボール持って立ってる隣に不二子ちゃんがいる絵を色紙でいただいたんです」

もちろんルパン三世のことだ。

今日のタイは、その色紙でルパンが締めているものとほぼ同じデザイン。数百本ある中から吟味した。赤いジャケットは、いつもオーダーする職人の手によるもの。グレーのパンツが、コスプレではない“リアルなルパン三世感”を実現している。

「見始めたのは小5かな。赤いジャケットで♪まあっかな~ば~らは~♪って歌。最初のルパンは緑のジャケットで、赤いルパンよりもっとワルなんですよね。主題歌がチャーリー・コーセイさんの、あの曲で…」

♪あし~ぃもとに~♪と口ずさむ。「あ! だから靴もチャッカーブーツね」と、ひょいと右足を上げる。

ブーツもオリジナル。同型で10足以上所有している。ちらっとのぞくソックスは白。ルパンが普段はいているようなバンデージ的な風合い。「何がきっかけってわけじゃないんですよね。ルパン三世っておしゃれでカッコよくて、自分の好きなコトをやっていて、何物からも自由で。その世界観をあの大人っぽくてインパクトのある音楽が盛り上げる! 華麗に盗みを働くんだけど、最後には大抵うまくいかない(笑)。茶目っ気があってやさしくて…」

愛がひしひしと伝わってくる。三浦知良はルパン三世の新作映画に声優として出演しているのだ。

タイトルは『ルパン三世vs名探偵コナンTHE MOVIE』。

昨年公開された映画『名探偵コナン 11人目のストライカー』が伏線だった。Jリーグの20周年記念で、“コナン”とのコラボが実現し、現役Jリーガーが実名で多数出演した。遠藤保仁(ガンバ大阪)らが、究極に素直な演技でフリーキックのコツなどを解説する中、三浦はひとりコナンくんと絡み、ヒントとなる貴重な証言を残した。

「前回はそういう事情でJリーグからオファーもあったんですが、今回は非常に個人的に“今度『ルパン三世』にも出られたらいいよね”って言っていたのが実現した(笑)」

あまり知られていない話だが、三浦知良がサッカーのときに使用しているすね当て(イタリア製らしい)はルパン三世のデザインなのだ。

今回演じるのは、なんとルパンと昔なじみの殺し屋。名前は“キング”。

「無理やり出してもらったのかなあ(笑)。そんなにたくさんは出ていないんですけど、それはもう、声優の仕事をちゃんとしてる人に申し訳ないので。一応、前からお付き合いさせていただいている戸田恵子さんに個人的にレッスンしてもらったし、収録のときにはコナン役の高山みなみさんにアドバイスをいただきながら、なんとかやりました」

収録中、副調整室からの要求はどんどん上がっていったという。

「“今の良かった!”って言ってもらえても、正直僕はプロじゃないんで、わからないんですよね。プロの方がそう言ってくださるなら…っていうのを信じてやっただけ。まあ、足を引っ張ってなければいいですね。何がいいのか自分でわかるようになれば、もう少しうまくやれるかもしれないですね。いや、たぶんこれ以上はやらないかな(笑)」

サッカーをやり続けるのは、
やめる理由がないから

この日は、朝、横浜での練習を終えてからスタジオに駆けつけ、おおよそ1時間で収録を終えた。

所属するクラブはJ2の横浜FC。05年の7月からプレーしている。現在46歳。現役最年長のJリーガーである。さて、みなさんはJ2の22チームを全部言えますか? 彼自身のゴールは報道されるが、スポーツニュースでもほぼ扱われないリーグだ。

だが三浦知良は、専属トレーナーを雇い、食事に気を配り、毎年オフにはグアム島でキャンプを張る。

「それに関してはバランスを考えないといけないですよね。プロというのは職業です。収入を得てそのお金で生活していく。得る賃金以上のお金を、自分が現役を続けるために使っていたらそれはプロなのか…っていう葛藤はたしかにある」

つまり、ここまでお金をかけていいのかっていう?

「まあトータルで考えるべきでしょうね。純粋に給料だけでいうなら、ヴェルディにいたころとずいぶん違う。それでなお自分のメンテナンスに相当のお金をかけるなら、ひょっとしたらオーバーしている場合もあるかもしれない。じゃあその分稼ぐしかない。トレーナーにキャンプ、食事の費用…全部自分でやってます。それは必要だから。そこに何百万何千万かかったとしても、そうすることで何年か余分にプレーできるなら、そういうものだと思ってるんです。そのお金はきっと回収できる…というより、プレーし続けることでそれ以上の価値を生み出すのだと信じてやっています」

Jリーグが発足して20年。三浦知良は10代でブラジルに渡り、スター軍団だったヴェルディ川崎で活躍し、まさにJのアイコン的存在だった。今では考えられないほどの、バブルの時代を楽しみ尽くした。

傍目から見れば“いい時代”は存分にあったはずだ。そして98年フランスW杯の件。ヴェルディと、さらには移籍先の京都パープルサンガからの2度にわたる「0円提示」…つまり、「来年の給料はゼロ円ですよ」といわれてしまうこと。やめるのに十分なきっかけもまた存分にあったはずだ。にもかかわらず、カズは、息子ほどの年齢の選手たちと横浜のピッチを駆けまわっている。

「そうまでして続けるモチベーションはなんですか」と尋ねると、とてもけげんな顔をされてしまった。

「“そうまでして”とは思ってないんです。僕は、プロになりたくて子どものころからサッカーをやってきた。それでプロになりました。今、カラダは元気。若いころにはできなかったプレーができる。オファーもある。だったらやめる必要はないでしょう? サッカーが好きだし、これしか僕にはないわけだし」

若いころにはできなかったプレーとは、どんなものだろう?

「若いときにはスピードもパワーもありました。それに頼ってガンガン行っていた。でもスピードでは敵わなくなる。じゃあどうタイミングを外すか。パワーで勝てなくなったら、どう緩急をつけて相手のプレスを避けるか。ディフェンスで力負けするなら…言葉は悪いですけど、どうごまかして相手を丸め込むか。その辺のプレーのクレバーさは間違いなく増してきてると思うんです」

年齢と経験を重ねたからこそできるプレーがあり、そこに関しては、まだまだ伸びしろがあるという。だから続けているのだ。

Jリーグの選手名鑑をめくると、毎年、「今年の目標」という欄がある。多くの選手が「全試合出場」「J1昇格」などと記しているなか、三浦知良は、ほぼ記入していない。

「“今年どうする”っていうのは、僕にとって贅沢なこと。まずは毎日毎日をどう過ごすかっていうことなんです。だって、明日どうなるかわからないわけですから。毎日。今日。とにかく目いっぱいやる。なんとか100%を出しきる。それを続けるしかないと思うんです」

考え始めたのは30歳過ぎから。

「今は、もっとうまくなりたい…なりたいっていうより、うまくなるって信じてやってます。一つのことを続けていくのは大切なこと。僕の場合は続けるだけじゃダメ。もっと活躍して、もっと良いプレーをしたい。もちろん毎日頑張って、その上で結果を出す。チームが勝つこと、それに貢献する良いプレーをたくさんすること。僕はまだ、自分がうまくなると思ってます。自分の体に鞭打ってやってる気はないです。まだやれてるからやってるのであって、ね」

J2第39節松本山雅戦、前半38分、中島崇典からのクロスに、三浦知良は頭で合わせ、今季2点目をゲットした。46歳8か月8日、J最年長ゴールを決めたのはルパン三世の話をした20日後のことだった。

1967年静岡県生まれ。15歳で単身ブラジルのプロチーム『ジュベントス』へ留学。サントスFCなど数々のクラブ活躍後、帰国。23歳で読売サッカークラブと契約。93年、ヴェルディ川崎でJリーグ年間最優秀選手賞、ベストイレブン、アジア年間最優秀選手賞を受賞。94年にはイタリア・セリエAのジェノアに1年契約で期限付移籍、アジア人初のセリエAプレーヤーに。98年クロアチア・ザグレブへ移籍、99年には京都パープルサンガに移籍、01年からヴィッセル神戸で活躍、05年7月以降横浜FCに移籍。日本最年長プロサッカー選手として活躍中。

石井大介=スタイリング
武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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