なんとかやっていける気がする

妻夫木 聡

2014.01.16 THU

ロングインタビュー


二村 毅(little friends)=スタイリング 勇見勝彦(THYMON Inc.)=ヘア&メイク 武田篤…
信念だけの天然バカが
プロの現場に奇跡を

スクリーンには、まずテレビ局の名前が出る。資料に並んでいた顔と名前を思い返すと、テレビでおなじみの人たちが何人も。

ははー、そういう映画かと思う。

つまり、キャッチーなタレントたちがカメオ的に画面に登場し、バラエティー番組みたいに楽しめる映画。

でも、全然違った。

「その感想には慣れました(笑)。“全然期待してなかったけど、すごく面白かった”って、みなさんおっしゃるんです。すごくうれしい半面、それってなかなかイヤなことを言ってるなあッて思うんですけどね(笑)」

『ジャッジ!』は世界最大の広告祭を舞台にした映画だ。妻夫木演じる太田喜一郎は、広告代理店のCMディレクター。豊川悦司がケレン味たっぷりにやる上司の命令で、広告祭に審査員として参加することになる。クライアントのちくわのCMを入選させねばクビになってしまうのだ。

「脚本読んだときの感触が、『ウォーターボーイズ』と似ていたんです」

脚本はCMプランナーの澤本嘉光。妻夫木が東幹久や小西真奈美らと共演した東京ガスや、のび太を演じたトヨタのCMを手がけた。

「私生活でも飲み友達で、“いつか映画やりたいですね”って話してたら“脚本書きました”と。“事務所に送ったんで、もし面白かったら出てください。面白くなかったら出なくていいんで”って言われて、“なるほど”と。仲がいいからこそ、そこは気を遣わず、ちゃんとしようと思って」

監督も広告畑のエース。サントリーの「GREEN DA・KA・RA」などを手がける永井聡。CMと映画は全然違う。CMでは、むちゃくちゃな要求が普通に出るらしいのだ。

「0・5秒ぐらいのカットで、“笑いながら怒ってください”とか。そんなの竹中さんしか無理でしょ(笑)。ワンカットで、そのぐらいいろんな感情を見せないと成立しないんですね。それで2時間撮るとおなかいっぱいじゃないですか!」

それが「親近感のあるコメディ」に仕上がっていたのだ。

「笑かそうとして作られたんじゃなく、リアルに基づいて描かれているから、“なわけねえだろ!”ってツッコミを入れるんだけど、どこかに“あるよね”って感覚がちゃんとある」

広告祭では、CMの出来と同じぐらいロビイ活動がモノを言う。太田は、謎の閑職の男・鏡さんから、「アニヲタに扮する」「ペン回しをマスターする」など、謎の技をいくつか伝授され、超デキる同僚(北川景子)をともなって広告祭に乗り込む。

太田のCMに対する純粋な思いと天然っぷりが、オトナたちの思惑だらけの広告祭に奇跡をもたらす。

「これ、かなりホントの話らしいんですよね。澤本さんは実際に会社にあったアニメのTシャツを着て行ったらしくて。審査会でアニメを使ったCMが流れるたび、関係ないのに澤本さんの表情をうかがってたらしいです(笑)。劇中で太田が“このCMはここがこんなに素晴らしいんだ!”って応援しますが、あれも事実とかそうでないとか…。普通に考えたらありえないですよね」

どう「ありえない」のかはぜひ映画をご覧ください。ともあれ太田くんは、最高だと思えるCMに出会ってしまったのだ。

「つらくて苦しい日常をこなす中で、彼は、もともとの“みんなを幸せにできるCMを作る”という目標から少しずつズレていってしまってたんですね。様変わりした自分の姿を昔の恋人に見られるという伏線はあるんですけど、広告祭でホントに素晴らしいと思える作品に出会うことで、自らの原点を取り戻す。自分の信念が発動しちゃうんですよね…」

動機はとてもシンプル。
面白いか面白くないか

“オレ、こんなはずじゃなかったのに感”は誰にもあるはずだ。程度の差はあるかもしれないが、誰しも思ったとおりの仕事ができているわけではない。非常に軽いタッチのコメディながら身につまされる。

妻夫木自身、この映画に入るときに似たようなことがあったという。

「ずっと前から脚本見ちゃってたんで。“これはこういうお話”っていうイメージが出来上がってたんです。自分で想像ふくらませて、キャラも作って。撮影始まって2日目ぐらいに、監督とお互いの思いにズレがあるんじゃないかということで、話し合いを提案されたんですが、思い直したんです。やっぱり自分が間違ってると。“映画は監督のものなので、監督の言うとおりにやります”って」

準備したものを捨てて一からやり直し。でも完成を見てかなり納得したという。泣いた、らしい。

「脚本が面白いと、役者って“盛って”芝居しちゃうんですよね。面白いから楽しくなって、それを表明したくなる。でも、面白い話を笑いながらしゃべっても面白くないでしょ。そこは冷静にやらなきゃならない。結果、僕自身の感想も“想像以上に面白かった”です(笑)。ただ、自分の仕事としては反省点ばっかですよ」

この作品に限らず、つねにそうらしい。「やった!」と思ったことはないのかと尋ねると「そう思った瞬間、その作品はダメでしょう」と言う。「それって自己満足でしょ? まず“良い芝居”という定義が何なのかという問題もあるけど、ホントに役としてその場にいたら“今の良い芝居だった!”って思ってること自体おかしいじゃないですか。キレイに涙流せばいいのか、噛んでも熱がこもっていて人を感動させればいいのか、役者みんなで良いシーンになればいいのか…でも、それを作ったのは照明でもあるし撮影の人たちでもあるわけで…。いずれにせよ、僕が僕を“いい!”って判断しちゃうと、つまらないじゃないですか」

その方が面白いから、という姿勢。 妻夫木聡は33歳。ストイックに役者としての道を追求するよりは、R25的にも共感できる話じゃないか。『東京ストリートニュース』のカリスマ読モとしてスタートしてから、もう15年になる。今や日本映画界に欠かせない俳優だ。

「10代から20代前半は役所広司になりたいって思っていたんです。役所さんってなんでもいられるでしょ。主役も脇役も風変わりなCMも。それで抜群の安定感のあるお芝居で、どんな人からも愛されて。一方で僕は、ずっと個性がないって言われ続けてきました。20代前半ごろは悩みましたよ。“個性のない役者”って、ねえ(笑)。でも、いつのころからかなんとなく、それはそれでいいか、と。何かを求めるとか目指すってなくなったかもしれないですね。その方がむしろ何色にでも染まれるから。その分、可能性は広がるし、ちょっとトクなんじゃないかなって」

まさにそれを実践している。11月公開の三谷幸喜監督『清須会議』では、バカ殿をハツラツと演じ、今作では鬱屈しながら天然なあんちゃんを演じ、山田洋次監督『小さいおうち』では、普通の若者を演じ、中島哲也監督の『渇き。』では刑事を演じる。

ちなみに12年は三池崇史のミュージカル『愛と誠』、井筒和幸の犯罪もの『黄金を抱いて翔べ』、そして野田秀樹の舞台『エッグ』に出演。

「いろいろやらせてもらっていますねえ(笑)。僕自身は、作品に関してべつにポリシーはないんですよ。脚本を読むとか、監督に会うとかして、面白そうだと思ったらやらせていただくし、そうじゃなければお断りするし。興味がなくても、マネジャーから丁寧に“ここが面白いんだよ”ってレクチャーされて“おお!”と思って出させていただくこともありますし」

そのゆるさというか、柔軟性が今の妻夫木聡の「つかみどころのなさ」を生み出しているのかもしれない。

「あー、そこに将来の目標みたいなものを書くんですかー。あ、おぎやはぎさんだ! オレ、めっちゃ昔に加藤浩次さん宅で矢作さんとウイイレやったことありますよ。」

と、記憶を刺激したのは、過去のR25を見てもらったから。自身の未来予想図を語ってもらうために。

「なんだろう…今のままって感じなのかな。目標はなくてもいいかな。サッポロのCM(大人エレベーター)でいろんな大人の人たちと会うんですけど、みんな素直に生きてきてるんですよね。“ダメならダメでしょうがないじゃん”って考え方で。純粋に映画とかお芝居を愛する気持ちを忘れなければ、なんとかやっていけそうな気がしてるんですよね」

1980年、福岡県生まれ。『ウォーターボーイズ』(01年)で映画初主演。映画『ジョゼと虎と魚たち』(03年)でキネマ旬報ベストテン最優秀主演男優賞、NHK『天地人』(09年)で大河ドラマ初主演。映画『悪人』(10年)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞。公開待機作として山田洋次監督の『小さいおうち』、石井裕也監督の『ぼくたちの家族』など。映画『ジャッジ!』の公式サイトはhttp://judge-movie.com/。

二村 毅(little friends)=スタイリング
勇見勝彦(THYMON Inc.)=ヘア&メイク
武田篤典(steam)=文
稲田 平=写真

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