今に活きる新人時代の経験

万城目学「純文学で鍛えられた」

2014.02.27 THU


まきめまなぶ 1976年大阪府生まれ。第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し、2006年『鴨川ホルモー』でデビュー。2013年の最新作『とっぴんぱらりの風太郎』で第150回直木賞候補に。劇場版『偉大なる、しゅららぼん』は「ああ、よかった!」と万城目さんも太鼓判を押す出来映えで、3月8日(土)全国ロードショー。 小島マサヒロ=撮影
一浪ののち京大法学部を卒業した万城目 学さん。今でこそ名の知れたベストセラー作家だが、社会人1年目は繊維会社の静岡にある工場で経理として迎えた。

「人と違うことを考えて、アイデアをお金にできたら楽しいと思って原料メーカーに入ったのに、適性検査ののち配属されたのは希望とかけ離れた経理職。ただそれが意外に合って、最高の職場では? と感じるようになったんです」

のんびりした空気のなか、のびのびと仕事をし、夜は寮で趣味の小説を書く日々。たまに上司に小突かれる失敗はあったにせよ、とても充実していた。

だが2年後、転機が訪れる。

「東京本社の予算課に転勤を言い渡されたんです。残業で深夜になるし、小説は書けない。書きたい気持ちをくすぶらせるのはイヤだし、毎日100回くらい『小説家としてやっていけるか』とシミュレーションして。それで、2年やってダメなら再就職する、という期限付きでやめる決心をしたんです」

勝算などなく「やって諦める」ために、今度は作家としての新人時代が始まる。純文学ばかりを書きに書き、ひたすら新人賞に送り続けるも落選を繰り返す。が、本人はいたってマイペース。

「周りの人はようやるなっていうけど、やってる自分はのんびりで。まあ人に会って、今の状況を説明する瞬間は嫌でしたけど(笑)」

光陰矢のごとし。2年はあっという間に過ぎるが、最後のあがきとして趣向を変え、“周囲”を題材にエンタメ作品を書いた。奇想天外な大学生の青春ストーリー『鴨川ホルモー』だ。後に映画化されるこの作品は、第4回ボイルドエッグズ新人賞に輝いた。

「『やった!』と思ったんですけど、5分後くらいには次のことを考えていました。鳴かず飛ばずの8年で、まだスタートラインでしたから」

試行錯誤することで
いつか足腰となる

心配とは裏腹に、その後は書く長編は軒並み映像化のヒット。3月8日には『偉大なる、しゅららぼん』も映画公開されるのだ。

「今回はすごく心配したんですが、観てものすごく安心して。よくわからない作品になったらどうしようと。特に水落 豊監督は長編が初だというし、現場では淡々と撮っているし、少し不安でしたが、作品を観て『優秀な職業監督なんだ!』と感動しました」

映像化が失敗することで原作の評判に傷つくだけに、心配は当然。しかも今回は青春あり、関西あり、不思議あり、ほのかな恋ありと、一貫して評価されてきた“万城目ワールド”の集大成的作品で、「原点に立ち戻ったエンタメ作」だという。ん? 原点をたどれば純文学志向だったハズだが…。

「社会人になったときと同じ感覚なんですけど、自分のやりたい仕事とうまくできる仕事は別だと思うんです。何がしたかったかわからなくなったこともありますが、今は純文学で作家としての足腰が鍛えられたと思えます。あのとき試行錯誤したから、ここでブレずにやれているんだと思うんです」

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